第3話 屑穴

 とりあえず、シンからもらった服を着て、落ち着いた。


「…あのさ、シンさん。ここって何なの?シンさんの棲家なのか?洞窟の割には床とか綺麗だよな。人工的というか…。」


 今俺達がいる場所は、洞窟の岩肌の自然的な部分もあるが、床や一部の壁なんかは綺麗な平面になっている。


「ここは、『神廃洞しんはいどう』。世界に神力が溢れない返らぬように、神力を吸収する場所だ。この様な場所がここの他に後3つ程あると聞く。神々はこの様な場所を『屑穴くずあな』と呼んでおる。そして、この部屋は、その『屑穴』の最深部で、我が結界を張り作った安全地帯セーフティポイントだ。」


 ―神力?屑穴?


「神力が溢れ返るとどうなるんだ?」


「世界中が奇跡だらけになる。例えるなら、草木は爆発的に成長し、人間の街を飲み込むだろう。そして魔物も強大になる。無論、人間もな。神力は生命に多大な影響を与えるのだ。神の加護はその一端だ。」


 ―うん。それは問題だな。そんな事になったら、世界の秩序が壊れてしまう。それを調整する場所って事か。いらない神力を吸収する場所、だから『屑穴』か。


「でも、神力ってそんな垂れ流しな物なのか?抑えればいいじゃないか。」


「無論、極力抑えておるだろう。だが、神というものは、存在自体が力そのもの。いくら抑えようと溢れ出てしまうのだ。そしてこの世界に神は複数存在する。一柱の神力ならともかく、複数の神の神力となると、どうしても下界に影響を与えてしまう量になってしまうのだ。」


 ―なるほど。

 …でもちょっと待てよ?ならなんで俺はそんな場所にいるんだ?シンさん達もだ。そんな場所に生物、ましてや普通の人間がいるなんておかしくないか?


 そう考えたんだが、なんとなく俺はその疑問の答えがわかっていた。この場所が『屑穴』と呼ばれているから。でも聞かずにはいられなかった。


「…なぁ。なんでシンさんとリオさんはこんな所にいるんだ?俺はなんでここに転移したんだ?」


「…おぬしも今の話でなんとなく気付いておるのだろう。…捨てられたのだ。この世界の神々にな。ここは世界に不必要な物が集まる場所。そして我は堕神おちがみだ。他の神々に反逆し、そして負けた。それでこの有り様よ。」


 ―つまり、反逆の罪で幽閉された、か。


「やっぱり…。じゃあ、リオさんは?」


「あぁ、リオは我がここに来てから、我が作り出した自動人形オートマタだ。」


「ん?自動人形オートマタ?作り出した?」


「む?なんだ。気付いておらなんだか。リオは人間ではないぞ。人間に似せて作った人形だ。」


 ―えぇっ?!

 人形?まんま人間じゃん!


「作ったって、どうやって…」


「フフン。我は生成、錬成が得意だからな。おぬしに渡した服も我が作ったものだ。スゴいだろう。」


 シンは得意げに鼻から息をだし、胸?の位置を付き出した。


 ―確かにすごいけど。ドヤってる顔なんかムカつくな。


「後はこんな物も作れるぞ。」


 シンはそういうと、再び手を光らせた。

 出てきたのはナイフだ。シンプルな作りだけど、刃が白く光っていて、神秘的に見えた。


「おぬしにやろう。爪のない人間には何かと役に立つのでないか?」


 ―あぁ、シンさんは鋭い爪でなんでも切れちゃうから刃物なんて必要無いよね。


「綺麗なナイフだな。いいのか?正直助かるけど…。」


「気にするな。我の爪で作った物だ。爪なぞまた生えてくるからな。壊れたらまた作ってやる。」


「何から何まで、本当にありがとう。」


 シンはさらに鼻息を荒くし、胸の位置を付き出す。


 ―正直、結構嬉しいんだけど、このドヤ顔見たら嬉しさ半減だね。てか龍神の爪で出来たナイフってかなりスゴい物なのでは…?


「それはそうと、おぬし大分元気になったな。」


 ??


 ―言われてみれば、随分身体が軽くなったな。意識もハッキリとしてるし。


「あぁ、おかげさまでな。リオさんのスープが効いたのかもな。」


「それは良かったです。お代わりいりますか?」


「えっ?!い、いえ、大丈夫です!お腹いっぱいです!」



 ―リオさんが少ししょげた様に顔を下げた。微かに心が痛むが、あれはさすがにもう食べられない。思い出すだけで胃がムカムカする。


「あの…リオさん。スープ、お、美味しかったです。」


 そう言うと、リオは表情こそ変わらないものの、ソワソワしながら顔を上げた。喜んでいるのだろうか。

 ちょっと可愛いなって思った。


「フム。動けるようになったのならばリオと一緒に魔物を狩ってくると良い。」


 ―おい。この龍神様は、いきなり何言い出すんだ 。元気になったっていってもまだ病み上がりなんだぞ。


「魔物って、スープに入ってた虫みたいなやつか??近くにいるの?」


「ここは『屑穴』だ。先程の虫ケラだけでなく、様々な魔物がおる。どれも神力を吸った者共ゆえ、多少強力だが、リオと一緒に行けばまず大丈夫だ。普段、リオは一人で狩っておるからな。」


 ―そうか。あれだけ強いリオさんと行けばよっぽど大丈夫か。


「でも俺、足手まといになるよな?虫ならともかく、大きい獣とか殺した事ないぞ?」


「問題ない。最初のうちは隠れてリオが戦うのを見ておればよい。止めを刺すだけでもLvは上がる。早いうちに魔物にも慣れた方が良かろう。」


「そっか。確かにそうかもな。リオさんいいかな?」


「私は問題ありません。」

 

 リオはまた小さくコクッと頷いた。


「ならばリオよ。ショウに回復してやった後に補助魔法をかけてやれ。」


「かしこまりました。では、ショウ様。ジッとしていて下さい。『完全なる治癒』パーフェクト・リカバリー。」


 そう言うとリオは俺に向けて手をかざした。

 するとかざした手が光だしたと同時に俺の身体も光に包まれた。


 ―お~。なんか一気に身体が軽くなったぞ。それになんかポカポカする~。


『全能力向上』オール・オーバー。」

 リオは続けて魔法をかけてくれた。今度は虹色の光が俺を包む。


「ショウ様、どうでしょうか。何か違和感は感じますか?」


「いや、なんか元気出たし、身体もすごく軽くなったよ。」


「そうですか。良かったです。」


 ―相変わらず表情を変えないが、ソワソワしてる。やっぱり喜んでる時の仕草なのかな 。可愛いな。

 それにしても、魔法。すごいな。めちゃくちゃ便利やん。


「準備はできたようだな。おぬしに渡した服と短剣も簡単に壊れたりせんから安心するが良い。だが無茶はするなよ。」


 ―まぁそうだよな。一応神様が作った物だし。


「ありがとう。大事にするよ。」


「では行ってくるが良い。リオ、頼んだぞ。」


「かしこまりました。ではシン様、行って参ります。」


「行ってくる。」


 俺とリオはそう言って歩きだした。


 ―魔物かぁ、どんなんだろうなぁ。

 恐竜みたいなのとか出て来ないよな?いや、全然ありえるぞ。シンさんも龍だし。

 あ、なんかちょっと怖くなってきた。



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