第1話 出会い
…ピチョン
一滴の
…ここはどこだ。
何も見えない。俺は死んだのか?ならここは地獄か?…まぁ、なんでもいい。もう疲れた。
青年は起き上がることも出来ず、ただ眠るように目を閉じている。
すると、どこからか足音が聞こえてきた。その足音はこちらに近づいてくる。
すると足音は俺の目の前で止まった。
…なんだ?誰かいるのか?
青年は気力を振り絞り、うっすらと目を開く。
すると、銀色の長い髪をした女性がこちらを見下ろして立っていた。
「…誰…だ…。」
青年はそこでまた、意識を失った。
「…人間…でしょうか。」
女性はポツリと呟いた。
――――
…あれ、温かい。なんだ?…毛布?
俺は不思議な温もりに目を覚ました。
自分の身体を見ると獣の毛皮が掛けられていた。
「気がついたか、人間。」
??
その声は低く、腹に響くような声。しかし、不思議と、頭に入ってくる。
―俺は死んでないのか。誰かに助けられた?
「…誰だ。…ここはどこなんだ。」
意識は戻ってきたが、身体はまだ思うように動かない。
それに視界がぼやけているのと薄暗さのせいで、声の主の姿がよく見えない。
「まぁ、落ち着け。我はシンと言う。後でわかる範囲で説明してやる。まずは起き上がれるまで休め。」
「…。」
―何が目的なんだ。俺を助けたって何も良いことなんてないぞ。
「…ふむ。おぬし腹は減っておらぬか?」
そう言われて腹が鳴る。
…あぁ、そういえば、しばらくまともに飯なんて食ってないな。
「……死ぬほど腹減ってるよ。」
「!…フハハ。そうか。実際死にかけておるからな。そうかそうか。それならば…リオ!」
「…はい、シン様。すぐにお持ちします。」
シンの呼び掛けに、優しく綺麗だが、どこか機械的な声が応えた。
優しい声の主が近づいてくる。見覚えのある銀髪の女性。
その女性は綺麗な銀色の髪で、前髪とサイドを切り揃えたロングヘアー、いわゆる姫カットの髪型をしている。エメラルドグリーンの瞳が特徴的で、その美しさはどこか神秘的な物を感じる。
―この人が俺を助けてくれたのか。綺麗な人だな。
「この者はリオという。我の世話係だ。リオ、挨拶を。」
「…リオと申します。どうぞ、お見知りおきを。」
リオはペコリと軽く頭を下げた。
「して、おぬしの名はなんと言うのだ。」
―この人、リオって言うのか。綺麗な人だな。同じ年くらいか?でも外人っぽいし、わからないな。
てかオッサンの方はよく喋るな。しかもこんな美人に世話をさせてるなんて。…金持ちか?
「…ショウだ。」
「ショウか。良い名だな。さぁ、遠慮せず喰らえ。」
「どうぞ、ショウ様。お召し上がりください。」
そう言ってリオは器からスープを匙ですくって口元まで運んでくれた。のだが、なんだか、芋虫の様な物がチラホラ見える。それにちょっと臭い。
…コレは食べられるのだろうか?
「……二人共、助けてくれてありがとう。その前に、なぜ助けてくれるんだ?」
「なに、久方ぶりの客だからな。退屈しておったのだ。それだけの事よ。」
―よくわからない。だけど、悪い奴ではない気がする。
「助けられっぱなしってのも気が引ける。けど、俺は何も持ってないんだ。」
「ふむ。はなから見返りなど求めておらんし、金品に興味も無いが…、そうまで言うのならば、しばらく我の話相手になってくれぬか。おぬしの話を少し聞いてみたい。」
「…俺はこんな状態だし、話し相手くらいにしかならないだろ。それに俺も現状の説明が欲しい。だからそれは恩返しにはならない。体調が戻ってからになるが、何か俺にして欲しい事はあるか?」
「フハハ。義理堅い者だ。しかし今は特に無いな。考えておこう。それより、早く飯を食え。リオが困っておる。」
そう言われ、俺は頷き、リオの方に向き直ると、匙を持ったまま俺の横で固まっていた。
「………御気遣いなく。」
―なんかすいません…。
リオが持ってきてくれたスープは特に匂いもなく、シチューの様にドロッとしていて湯気がたっている。そしてもう一度言うが、芋虫のような物が見える。
―金持ちはこんな物を食べるのだろうか。それとも異文化の人種の方々なのだろうか。リオとかいう女は明らかに外人だし。目とか青?緑?だし。
だが、背に腹はかえられん。この二人は普段食べているんだろうし、大丈夫なはずだ。
「…い、いただきます。」
俺はなるべく味わわず、無理矢理飲み込んだ。
…それでもまずい。っていうかやっぱり臭い。なにこれ。
「…あの、この料理は一体…。」
「そこで狩った魔物を煮込んだものです。」
「…えっと、今なんて?」
「そこで狩った魔物を煮込んだものです。」
…リピートサンクス。
じゃなくて、魔物?…え?魔物?
「あの、魔物って?」
「ショウ様は魔物を食さないのですか?」
―食うわけないだろ。てか魔物ってなんだよ。
「いや、魔物って。ただの虫だろ?」
…魔物なんて創作の中の物だろ。
そんな物、現実じゃ存在しない。ちょっと痛い人なのか?それとも、俺をからかってるのか?
「ふむ、この世界の人間は魔物も食すと認識していたのだが。やはりおぬし、異世界人か?」
「さっきから二人共何言ってるんだ。異世界って。からかうにも限度ってもんが…」
?!
俺はシンの方を見たまま何も言えなくなり、固まってしまった。
壁だと思っていたそれは、意識が戻っていくとともにハッキリと姿を現していく。
―…デカッ。なんだこれ。作り物?にしてはリアル過ぎる。
息遣い、俺を見る目、質感、どれも本物の生き物のそれだ。
いやいや、こんなもの存在してる筈がない。空想の中の生物だ。
そこにいたのはテレビや本で見たことある伝説の生物。
龍だ。
西洋のドラゴンの姿ではなく、蛇の様な身体に鋭い爪を携えた三本の指がある腕、ワニの様な顔に長いひげ。頭部には四本の角。白銀の鱗に金色の瞳。
東洋の龍の姿だ
とぐろを巻いているので正確な大きさはわからないが、それでも顔まで20メートル程の高さはある。
「…龍。」
俺はその姿に魅入ってしまった。唾を飲むのも忘れる程に。
とても恐ろしい筈なのに、美しいという感情が勝ってしまっている。
「我については知っておるか。人々にこの姿は久しく晒しておらぬ。驚くのも無理はない。改めて名乗ろう。我が名はシン。かつて龍神と呼ばれていた者だ。」
シンは真っ直ぐ俺を見つめ、そう言った。
その姿はまさしく龍神たる威風で、堂々としていた。
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