◀︎▶︎11プレイ

昼食に牛丼を食べた僕と神谷は隣の県のゲームセンターに訪れていた。普段、来ない地のゲームセンターでも中身はどこも同じと思っていたが、やはり、店舗によって若干配置が違うようだ。

「鈴木、クレーンゲームというのは店によって取り方、配置の仕方がそれぞれ違う。そこがまた面白い魅力でもある。だが、そこに景品があれば必ず取る。それがワイの忍道だ」

 忍者漫画の主人公のようなことを言う神谷は店に入る前から興奮気味である。どこであろうと知らない街の店を見たら楽しくなるのは僕も同じだ。

「じゃ、早速オープニングから撮ろうか」

 と、神谷は僕にカメラを出すように仕向ける。わかりましたよといった感じで僕はリュックサックから重たいビデオカメラを取り出す。カメラを撮影モードに切り替え、神谷の方に向けて撮影が始まる。神谷は動画の前ではテンションMAXの弾けたキャラでいくらしく、出だしから「はーい! ども、カミタツです☆」と腕をクロスにしながら決めポーズを決める。どこかのミュージシャンかと突っ込みたくなるが、僕も落ち着いた口調で「スートンです」と軽く自己紹介をしておく。神谷は現在地の場所を報告し今日の意気込みを熱く語り、オープニング撮影は終了する。

「はい! カット」

 ビデオを切って早く移動したいところだ。なんていったって店の前での撮影なので通行人やら店に出入りする人たちの視線が痛いからだ。テレビのロケかというほどの撮影なので恥ずかしい。対して神谷はそんな周りの視線なんて気にならないといった様子である。むしろ自分を見てくれといったような振る舞いだ。一緒にいる僕の方が恥ずかしくなってきた。

「よし、まずは台の選別だな」

 神谷はそう言って店内に足を踏み入れる。僕もその後を追うように店内に足を踏み入れた。入った早々、ゲームの雑音が耳に響いた。僕も神谷もゲームセンターの出入りは頻繁にしているので慣れたものだが、やはりうるさいものははうるさいのだ。会話をしていてもどこかで聞き返してしまうような音量である。神谷はいつものように獲物を探すハイエナのように台を物色しながら歩き回る。僕は無言でその後ろをついて行く。鋭い視線でプレイする台を見分ける。一通り回ったところでピタリと神谷の足は止まった。

「初めて見るタイプだな」

 神谷はある台を見つめる。その台はクレーンゲームのショーケースの中になぜかパチンコの台が丸ごと収められている。そしてその横には有名なボーカロイドの特大フィギアが景品となっていた。一見するとどのようにプレイするのか謎だが、ショーケースのガラスに水性ペンで直接プレイの説明が手書きで書かれていた。

「~遊び方~アームでパチンコの玉をすくってパチンコ台に投入。見事777を揃えれば景品ゲットだよ♪」

 つまり、パチンコの台の正面に置かれたカゴの中の玉をくすって当たりである777を出せばいいということであった。

「ほう。面白い」

 神谷はノリノリだった。どうやらこの台で撮影するようだ。

 クレーンゲームとパチンコの夢のコラボを実現してしまったこちらの台に怪しさを感じていた。僕も初めて見るタイプの台であったため警戒している。当たったとしても現金ではなく景品なので損しか予想できない。

「鈴木、ビデオをまわしてくれ」

 神谷に頼まれた僕は仕方なくビデオカメラを取り出す。そして、言われた通り撮影を開始する。

「今回プレイしていくのはこちら。なんと、クレーンゲームの中にパチンコ台があります。では、早速挑戦したいと思います」

 神谷はカメラに向かって百円玉を見せつけて投入口に入れる。

 このタイプの台では実力は全く関係ない。ただの運ゲーになる。クレーンの実力がある神谷もこれには実力が発揮できないだろう。これでは神谷の実力を見せる動画ではなくパチンコ台の珍しさで撮っているに等しかった。

 パチンコ玉を快調にすくい上げる神谷だったが、問題はここからである。その玉がパチンコ台で777が揃わなければ景品の獲得には繋がらない。最初の一発目は当然揃うはずもなく再度、神谷は百円玉を投入して降り出しに戻る。

『確率機』と言われるものでそれは何回かに一回、アームの力が強くなったり、当たりやすくなる台のことをいう。それは実力とは関係なしに変わるので一番やりにくいジャンルとも言える。どのタイミングで変動するのかわからないのでほぼ運によって成り立っているため達人としては距離を置きたくなるような存在である。それなのになぜ自ら神谷は挑戦したのだろうか。好奇心でやりたくなるようではあるが見せしめだけにしてほしい。

 それから神谷は十回くらいプレイしてもめげずに玉をすくっては当たりの数字で出るのを今か、今かと待っている。

「これ以上やっても当たらないのでは?」

 と、僕は忠告しても神谷は「もう少し」と辞める素振りがなかった。神谷は今、クレーンゲームをしているのではなく、パチンコをしているのに等しい。そういえば、神谷はクレーンゲームではかなりの腕ではあるのだが、パチンコに関しての腕は何も知らない。だが、一向に当たる気配がないということはそういうことなのだろう。いつの間にか十五回、二十回とプレイをしていったのだが、お金だけが減っていくばかりで数字が揃うことはない。そして、遂に神谷は台から離れた。ようやく諦めたのかと思ったがそういう訳ではない。カゴの中にあった玉が全てすくわれてこれ以上取るものがなかったため辞めざるを得ない状況であったからだ。それにしてもカゴの中にあった玉を全てパチンコ台に入れても当たらないということは詐欺なのではと疑ってしまう。まぁ、パチンコもクレーンゲームも似たようなもので客にお金を入れさせるようにできているのであってそう簡単に当たらないように出来ているのが現状なのでなんとも言えないのだが。

「は~い~無理~!」

 誰に言っているのか、神谷は力が抜けてパチンコに遊ばれてしまった怒りをどこにぶつけていいのか途方に暮れた様子だった。

「と、いうわけでチャレンジ終了です☆」

 神谷は実況の司会者に戻り、カメラに向かって終了を告げた。今日は大損害で終わってしまったようだ。

「カット」

 僕は動画を止めた。

「これ考えたやつ、馬鹿だろ」

 と、神谷は動画を止めた瞬間、愚痴を溢す。

「確かにこれは取れる気がしないね」

「鈴木! ムカついたからこの店、荒そうと思う。だから、しっかりと動画に収めてくれ」

「何する気!?」

 僕は悪い予感しかしなかった。言葉を素直に受け取ると店のものを破壊して営業停止に追いやることになるけどそういうことなのだろうか。そんなことしたら僕たちは器物損害で逮捕されてしまうわけだが、そうではないと信じる。僕はカメラを回し、神谷の行動を収める。まず、神谷は両替機に千円札を五枚突っ込み全て百円玉に変える。五十枚の百円玉がジャラジャラと出てきてそれをメダル用のバケツにまとめて入れる。入れ物がメダル入れである為メダルに見える百円玉が大量に収められていた。果たしてこの大量の百円玉で何をしようというのだろうか。

「はい! ども、カミタツです☆ こちら、百円玉五十枚で五千円分あります! さぁ、この五千円でどれほどの景品が取れるのかチャレンジしたいと思います! ではスタート!」

 神谷はノリノリで勝手にチャレンジをしようとする。荒らすというのは大量の景品を取っていくということらしい。そして神谷は本領発揮したのか、次々と景品を取っていく。お金を節約するため五百円投入で六回プレイしていき、景品が取れて余った回数は店員を使って別の台に回数を増やしていく。僕はトラウマを見ているような気分である。と、いうのはこの無差別に景品と取っていくやり方は以前、僕が働いていたゲームセンターで行った店泣かせ行為そのものであった。欲しいものを狙って取る行為ではなく取れそうなものを片端から取っていく行為であった。一度、簡単に取れると判断した台は何回も取り続けるのだ。「お一人様二個まで」とスーパーの目玉商品のように注意書きが書かれているのもお構いなしに空になるまで取り続ける。景品が取れる度に店員を呼ぶので、呼ばれた店員としては「またかよ」といった感じである。メダル入れに入れられた百円玉はみるみる減っていくが、その度に獲得した景品の袋が重くなる。こうなってしまえば神谷を止める者はいない。時期に店員の目に焦りを感じるのがわかる。パチンコ台で飲まれた分はキッチリと回収はしたはずだ。そして、メダル入れの中身がなくなったところで神谷の暴走は止まった。

 誰もいない場所に移動して獲得した景品を一つ一つ丁寧に並べる。十四個のぬいぐるみやフィギアがそこにはあった。五千円でこれだけの景品が取れたら満足であろう。少なくとも僕はそう思う。

「うーん。本当だったらもう少し取れていたはずなのに~」

 神谷は納得していない様子だ。何が不満なのだろうか、僕には理解できなかった。まぁ、僕が以前働いていたところではもう少し取っていたはずなので納得できないとしたらそこなのだろう。

「か、帰ろうか?」

 僕は提案する。

「うん。そうだな」

 神谷は納得してくれたようだ。

「ところでこれ、どうやって持って帰る?」

「…………」

 景品の山は一番大きい袋でも四つ分である。そうか、取ったのは良いけどお持ち帰りのことをすっかり忘れていた。しかも、今日は遠出してきているため、その道のりは長かった。仕方なく、僕と神谷は景品の袋を二:二で分け合って持ち帰ることになった。衝動買いをしてきたのかというほど量が多かった。僕と神谷は恥ずかしながら両手いっぱいに抱えてトボトボと帰っていった。これがお金の重みなのかというほど重く感じた。なんだろうか、さっきまで取れて嬉しかったのに帰る時のこの絶望感は……。大の大人二人がグッズを抱えている姿はまるでコミケ帰りのようなそんな感じだ。そう思った長い一日だった。

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