魔王との戦い・その3

 周囲で雑談が続く中、妖精しっかり者の妹は戦いを見守っていた。だからだろう、狂戦士の変化を見抜いていた。


「ねえ、やっぱり狂戦士がおかしいよ!」

「もともと狂っておるからの?」

「多分、爺さんにだけは言われたくないよね! このエロう魔術師! 女僧侶の胸ばかり見てないで、戦いを見て魔法を使ってよ!」

「確かにそうじゃ! 見てばかりではいかん!」

 

 狂戦士の一閃で、それまでは絶命していた魔物達。だが、今はそうではなかった。


「勇者よ! 得意の攻撃じゃ! あの者どもにとどめを刺してくるんじゃ! 女僧侶は、儂が身をもって抱きしめておく! 今は無防備じゃ!」

「アンタも前に出て行きなよ!」


「なんと⁉ 怪我したらどうするんじゃ? いや、手厚く介抱してもらうというのもありかの?」

「出たわ! ハンハーン神のお告げでは、『魔王に性別はない……』ですって。この情報、たぶん誰も知らないわね! あと、エロ爺の面倒なんて見ないからね!」


 ――力なく、妖精失意の妹は地面に落ちる。だが、それでも妖精不屈の妹は問いただす事は忘れない。


「――使ったの⁉ そんなことに⁉ 回数制限のある、最上級神聖魔法じゃなかったの⁉」


「魔王と戦う上で、重要な情報だった。勇者として、女僧侶の判断を支持するよ」

「ありがと、勇者! ふふっ、これで昇進試験をパスできるわね。美容効果アップ間違いなしだわ!」


「美しさに磨きをかける試験だね。僕には必要ないけど、その心意気は素晴らしい。でも、あれは半々の確率で失敗すると聞くけど?」

「なんと! ハンハーン神の女僧侶が貧乳なのは、そのせいだったのじゃな! じゃが、お主のその見事なものは一体……」

「エロ爺に教えるのは癪だけど……。まあ、その確率を動かす鍵があるのよ。神殿への貢献度っていう鍵よ。魔王討伐に参加したのも、その為だし。そして、この誰も知らない魔王の情報。これで成功の確率が上がるわ!」

「何⁉ それは前後の比較が必要じゃろ⁉ 儂の手は記憶力がいいので有名なんじゃ」


「いい加減、馬鹿話してないで戦おうよ! 何しに来たのさ⁉ あと、エロ爺はその手をやめる!」


 にじり寄る敵を、魔王の魔法と己の剣圧で吹き飛ばし倒し続ける狂戦士。それで何体かの魔物は絶命していくが、生き残りがにじり寄る。


 そんな緊迫した中でも、美容談議にふける勇者達。その姿に、地面で叫ぶ妖精哀しくも美しい妹の中で、何かが切れる音がした。


 勇者に向けて、魔法の詠唱を始める妖精怒りの妹。めったに見せない妖精の魔法本気の怒りは、今も美容談議中の勇者に向けて放たれる。


「飛んでけ!」


 妖精の魔法本気の怒りで吹き飛ぶ勇者。最初は驚きの表情を浮かべたものの、やれやれと肩をすぼめて吹き飛んでいく。


「勇者なんだから、少しは戦いなよ!」


 突然飛んできた勇者。それに虚を突かれた魔物達。

 その結果、魔王達の動きは止まる。もっとも、女僧侶と老魔術師も同様に――。


「ほら、魔法支援しないと、弱っちい勇者が死んじゃうよ? 爺さん殴ってる場合じゃないよ?」

「わかってるわよ! 『ハンハーンの鉄壁!』『ハンハーンの勇気!』『ハンハーンの幸運!』」


「その魔法、聞いてるこっちが微妙な気分になるよ……」

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