魔王との戦い・その4

 満身創痍な狂戦士の剣が、生み出された魔王の胸に深々と突き刺さる。断末魔のうめきを残し、それは瞬時に消えていく。


「ハンハーンの癒し! ――ダメね。狂戦士にはハンハーン様の癒しが効かないわ」

「ハンハーン神は美貌の神。だから醜い者には癒しを与えないんじゃないかな?」

「そうかも!」

「それでいいの⁉ 交互にかけてるからだよ! 連続で狂戦士にかけてよね! もともと確率、半々なんだから!」


 妖精我が妹にそう言われ、女僧侶はしぶしぶ狂戦士に癒しをかける。


「ハンハーンの癒し! あら、本当! 偉いわね、妖精ちゃん」

「ハンハーン神も、慈悲に目覚めたようだな。こっちもかすり傷ができたから、頼む」

「ハンハーンの癒し! あれ? やっぱり勇者はかかるわよ?」

「美しさは全てに優先される。僕がその証明だよ」

「それでいいの? ハンハーン神⁉」


 傷も癒え、再び勢いを取り戻す狂戦士。だが、それを待ち受ける魔王は、またも二人に増えていた。


「あれは魔王三号というべきか? いや、美しくない……。しかし、魔王は何体増えるんだ? ややこしいから、魔王に番号付けて出すように頼んでみるか」

「それ、ありかも!」

「どうでもいいよね⁉」


「それよりも、見た目をもっとセクシーにしてくれんかの? 見ていてグッとくるものがないといかんぞ」

「確かに、美しい事は良いことだ」

「どうでもいいから! 魔王本体を倒せって指示して! あと、爺は見てないで魔法使って!」


「それは無理な相談だね。狂戦士は目の前の敵しか見えていない。本能的に危険は排除するけど、『本体を攻撃』なんて知能はない。そもそも、僕の言う事を聞いているのかも怪しい」


 肩をすくめる勇者と、その事実に慄く妖精可愛らしい妹


「初めて聞くよ⁉」

「初めて言ったからね?」


「――そうよね……。そうだ! ハンハーン様に聞いてみる? 『狂戦士は勇者の言葉を理解しているかどうか』って感じでいい?」


「まあ、あまり興味はないけど――」

「いいよ、聞かなくて!」


 放っておけば、おそらく最上級神聖魔法の詠唱していた女僧侶。その彼女を、妖精愛しの妹が鋭く制止する。そして同時に、何かを閃いたようだった。


「そうよ! 魔王を倒すのよ! 老魔術師! アンタの神代魔法よ!」

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