せっかく最初からという注文に応えたのだが……。まあ、いい。話してやろう。魔王との戦いを!

魔王との闘い・その1

 魔王城に入ってからも、狂戦士は圧倒的な強さを見せつけていた。


 文字通り、敵をなぎ倒して進んでいく。最後に残るのは魔王一人。

 だから、この戦いは、壮絶な一騎打ちとなっていた。


 狂戦士と魔王との一騎打ち。それは、やや狂戦士に分があるように感じられた。


「魔王、潔く負けを認めたら? 魔王は勇者に倒される。それは当たり前のことだけど、より美しいのは『戦わずに魔王に勝つ』ことだからね。我が従者により、潔く散るがいい」

「ふっ、愚かな。勝利とは、戦いの中でつかみ取るからこそ意味がある。戦いもしない者が、勝つなどとほざくな!」


 狂戦士との戦いの中で、魔王の魔法が勇者を襲う。

 瞬時にそれを察知したのだろう。狂戦士が自らの体でそれを受け止めていた。


「魔王よ、美しいこの僕が怪我でもしたらどうするんだい⁉」

「嬢ちゃん、今度こそ回復を成功させるんじゃ! 狂戦士の体力もそろそろ限界じゃて。絶倫と呼ばれた若い頃の儂と違うて、不死身に近いといっても限界があるじゃろ? まあ、儂もまだまだいけるとは思うが、何なら今夜証明して見せようか?」

「うるさい! 言われなくてもわかってるわよ! このエロ爺! ハンハーンの神よ、かの者を癒したまえ! 『ハンハーンの癒し』よ!」


 その瞬間、狂戦士の体に光が宿る。その明滅する光を必死に見つめる老魔術師と女僧侶。その光が消えた時、やはりその結果を凝視していた妖精可愛い妹が叫び声をあげていた。


「また失敗⁉ 狂戦士ってば、さっきから回復してないよね! ハンハーンの神様だから、半分くらい回復してもいいんじゃないの?」

「しょうがないでしょ! さっきの勇者の擦り傷を連続で治したから!」


「あれって治癒必要なの? そもそもハンハーン教徒って、半々の確率でしか効果が出ないダメ治癒魔法しか使えないよね? 勇者に無駄遣いしてる場合?」


「妖精ちゃん? ハンハーン様を侮辱するのかな⁉ ハンハーン様は試練をお与えになるのよ! いつ、いかなる時もね!」

「時と場所を考えてほしいかも! 狂戦士が戦えなくなると、ワタシ達全滅じゃない!」

「妖精よ、無用な争いは美しくない。女僧侶の判断は正しい。この僕の美しい顔は替えがない。かけがえのないものと、瀕死でもほっとけば治る狂戦士の体を一緒にしてほしくないね」

「いや、瀕死のまま何もしてない事ないよね! 戦い続けてるよね⁉ っていうか、勇者! アンタ、何戻ってきてるの?」


 再び魔王にとびかかっていく狂戦士を一人残し、勇者は言い争いを始めた妖精と女僧侶の会話に割って入る。

 

 その背中の向こうでは、魔王と狂戦士の火花散る戦いが再び繰り広げられていた。


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