ファーザーという男
いや、それにしても訳分からなかったな。
俺の称号もそうだし。
【相互依存夫婦】はぜってー、俺の行動からできてるよな。
てことは、フィフェも俺に依存してくれてると。
ふっふっふ。我が世の春はここに来た!
そんな風に含み笑いをしているここは、何処でしょう。
―――――分かる訳がないでしょう!
何でそんなに自信満々?
バカナノ?バカナノかな?
―――――し、しどい・・・
しんどいのか?
―――――酷いをこうも言うでしょうが!
言わねーよ。
寧ろ
諸君、覚えているだろうか。
俺たち
そして、覚えているだろうか。
俺の執着が、
つまーり!俺はこの世界に引き継いでバーさんの家を持っているのさ!
というわけで、日本から引き継いだバーさんの家に住んでいます。
しかも!
一人じゃねー!
「おはよう、トーゴ」
「ああ、フィフェ」
フィフェもいるんだってばよ!
同居、同棲、シェアハウス。
何でもいーけど、それはメタメタ、えーことやろ?
―――――・・・何語?
ニホンゴ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どれにすっかなー・・・」
首を傾げていると、首が疲れてくる今日この頃。
今は、今日の依頼―――――つーか初めての依頼を何にするべきか、それをフィフェと考えている。
「
「わざわざランク低いの選ばんとなんねーのか?」
いや、俺は俺で訳分かんねーことになってるしさ、フィフェなんか最強の
「これでどうだ?」
後ろからの声は、渋く深い。
まるで純鋼製の鎧から発されたような染み渡る様な重低音。
王都からの旅路の中で幾度となくその声を聴き、その声に導かれたと言っても過言じゃねー、それ。
富士の高嶺に降り積もった白雪のような長髪を窓から吹き込む風に靡かせ、鉄筋が入ったかのようなピンと伸びた背筋で左手を常に剣柄に置いたその立ち姿は威風堂々にして泰然自若。
その男、〝最強〟にして、〝無双〟。
金の両眼が燦然と輝く老人。彼の名を、グランド・ファーザー。
冒険者ギルドにおいてたった二人だけの
ま、簡単に言ってバケモノだなー。
そして、そんなおっさんが持ってたのが
へー、生贄水蟹の討伐ねー。
生贄っておっぞましい名前だな。何やるんだー?
「い、生贄水蟹・・・地獄の怨念とか呼ばれているはずの奴なの・・・」
「以心伝心ってか!いいね、良いね!俺のテンションはいつも通り乱高下だァ――――――――――――!!」
「乱高下はどうかと思うぞ・・・」
「つーか、何で来たんだ?おっさん、そんなにカニが好きなのか?」
「いや、生贄水蟹は食用にはならない。そもそも有害な寄生虫の宝庫といっても過言ではないからな」
カニに寄生虫って。
初めて聞いたぜ?そもそも加熱じゃまだやべーのか?
「生贄水蟹の寄生虫で主なものは黒鉄蟲と悪魔虫なの。トーゴが言ってるみたいに、加熱しても死なないの。そもそも、悪魔虫に至っては、加熱したら爆発するの」
「ん?俺、喋ってねーぞ」
「ふぇ?」
可愛い。何この生物。可愛すぎるんですが。
小首を傾げながら、きゅるーんって目でコッチを見るんだぜ!?
確実にドキューンって効果音がつくんだってばよォ!
・・・ごめんなさい。狂いました。
「・・・えへへ」
「ん?どうした?」
「可愛いって・・・嬉しいの」
あるぇぇ?
俺、口から出してたか?
「ふむ?もしや、フィフェはトーゴ限定で心読みを使えるようになったのか?」
「心読み?」
「ああ。その名の通り、心を読むのだ」
おっさんが言うに、フィフェの念話の力が常時一方通行であるようだ。
へー。
「どーでもいーな。フィフェに俺の心を知られようと困ることは何一つない!むしろ伝えきれねーことが巻いてるぜ!」
・・・
「お、おお。そうか・・・」
なーに、若干引いたみてーな顔してんだよ。
フィフェを見ろ、フィフェを。頬が赤くなってふにゃって顔してるぞ?すっげぇ可愛い。
閑話休題。
てなわけで。
初クエスト、生贄水蟹の討伐。
「きっもちわりー沼だな、おい」
「沼だもの」
そーいう意味じゃないんだなー・・・でも可愛い。
「質問、カニってこんなんだっけ?」
「生贄水蟹は他のカニと違ってとげとげの甲羅を持ってるの。そこから毒液も出すから出来るだけ正面衝突が正しいの」
「そーいう意味でもねーかなぁ・・・」
このカニ、足十本以上ありやがるぞ。
しかもでっけー。大体俺の二倍近い。こりゃまぁ、ベテラン以上に区分されるんだろうな。
「トーゴ、私は、あんまり得意じゃないけど、魔弾で撹乱するから、いっぱい殴って倒して」
「もちろんだ」
フィフェの炎が使えねー以上、俺の拳骨がいるからな。
開戦。
俺のダッシュと同時にフィフェの魔弾が大きい鋏にカチあたる。
両手を万歳するように上げた生贄水蟹。そして、既に肉薄している俺。
そんなの決まってるよなァ!
「人狼流体術、壱の型〝王牙〟!」
思い切り振り切った正拳が柔い蟹の腹の真ん中を突く。
感触的に、内臓は潰れたな。
「人力蟹味噌作成機ッてなァ!!」
その勢いを残したままの流れで、体から黒い毛皮を生み出し、舌で牙を舐めると、左手の甲が腹にぶち当たる形になるように体をひねって回す。
それは、人狼たちが使う体術が、肆の型。
「人狼流体術、肆の型〝円牙〟重ねてもういっちょ、〝王牙〟ァ!!」
裏拳を正拳でへこんだ腹の場所に直撃させると、体を一回転させる形でもう一度正拳を叩きこむ。
そうすりゃあ、カニとて水を吐くわな。
「トーゴッ!体液浴びちゃダメ!寄生される!!」
「分かった!」
バク転で軽業師を目指して飛び退る。軽業って何だろう・・・?
そして、一つ分かった。
「沼地でバク転ってし辛いな」
「当たり前なの」
そんな呑気に会話を交わしているが、そこまで問題はねー。
だって。
「―――――
貫通力過多な魔弾がカニを襲ってるから。
「トーゴが、殻を割ってくれたなら、そこから私の仕事だよ」
「頼りにしてるよ、フィフェ」
頬をピンクにして笑ってくれるフィフェは世界一可愛いと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、生贄水蟹は楽勝だった、と」
「おう。そんな感じだったな」
「ふぅむ」
何かを考えこんでるおっさん。
「二人で魔銀級が簡単に出来るとなると、稼ぎに困りはしないだろうな。そもそも、この街では毎日のように獣の襲来があるから、適当にやっていれば困りはしない。まぁ、技量があると知れたからそれでいいんじゃないか?」
「しかしな、オルグィウス。こやつらがココを離れるとなった時—————」
「離れねーぜ?こんな楽なとこねーだろ」
当たり前だろ。別にランク上げなくても上位ランクのクエスト受けられるんだぜ?空気もいい、何より、フィフェがいる。
何にも問題はねーな。
「そうかそうか。むぅぅ。ならば、このクエストを受けてみぬか?」
・・・おっさん。
・・・おっさんさー。
・・・限度ってもんがあるだろ?
・・・ガィジレォンに現れた悪魔の討伐って。ランクが最低
「流石にそりゃ速いだろ」
「オルグィウスが正しい」
「あんたらは何で昼間から酒飲んでんだ」
オルグィウスとレギルスがおっさんの行動に突っ込みを入れるが、おっさんは首傾げてるし、二人は酒飲んでるし。
「違う違う。俺だけだぞ、酒飲んでんのは」
「レギルスは…?」
リンゴジュースとかだったら吹くぞ。
「ありゃ、青汁だ」
・・・
・・・野菜そんなに好きじゃない。
アオジルッテ、ナンデスカネー?
「確かに、青汁はいいぞ」
おっさん?
「青汁は若返りにも聞くと言われているし、何よりあの渋さの中に含まれる一輪の白百合の様な甘みが何とも言えない優しさを出している。その上、混ぜ込む野菜を変えれば無数の味わいが楽しめ、—————」
―――――このあと、
おっさんはやっぱり変な人のようだ。なー、フィフェ。
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