人面猫ごとき2

 やっべえ、考えてなかった。

 まじで。

 俺、もう、だめかもしんねー。

 ちょ、フィフェの可愛さに頭やられてる。この子、素で魅了能力もってんじゃない?

 絶賛お姫様抱っこ中だが、ハズくて死にそう・・・

 気障な事言ってもーた・・・

 俺もう、ダメだ。いろんな意味で駄目だ・・・

 チラッと胸元を見ると、まだ泣き続けている可愛い顔が見える。

 燃えるような赤髪は今は泥で燻ぶり、これまでの苦難を表しているみてーに見える。

 制服が濡れるとかマジどーでもいーわ。

 もうちょっと抱き続けていたいなー、なんつって。

 ―――――不謹慎ですね。変態さんですか?

 いやぁ、もう、どうしよう。

 目の前にいるでっけーキモイのが気にならねーぐらいに可愛い。

 これは確実に惚れてる気がする。

 いやぁ、おっそい初恋だなぁ・・・

 中学の時には彼女いたけど、ぜーんぜん興味なかったしなー。

 ―――――それ、彼女って言います?後無視しないでくださいます?

 犬嫌いってのが別れた原因だしな。

 そもそも、犬嫌いな奴は俺に近寄るな。猫派は敵。見敵サーチアンド必殺デストロイ遭遇即殺ミートウィズキル。これ、正義。俺間違ってない。

 「う、うえええ、ひっく、うええ、ひっくひっく、あ、ひっく、ありがとうぅ、ありがとうぅうあああ」

 ずっとこんな調子だ。

 泣いてる顔も可愛いけど、笑顔が見てみてーんだよなぁ・・・

 おい、駄女神何か方法ない?

 ―――――桐吾さんが私を頼った!?まさか、ついにデ

 ま、無駄か。

 思いっきり木を蹴っ飛ばして、クソ猫の方へ倒す。

 いやぁ、こんなことできるようになったら林業でも一稼ぎできんじゃね?

 ―――――ツン期が長いですぅ。長すぎますぅ・・・

 ぐって。

 ぐって、フィフェのちっちゃめな可愛い手が俺の学ラン掴んだんだ。

 もう、これムリだー。

 フィフェ、付き合ってください。というか、結婚してください。

 可愛すぎる。

 「GUAAAA!GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 「うっせー!!フィフェの可愛さに浸らせろや、クソ人面猫がァ!!」

 吼えんな、騒がしい!

 フィフェがびっくりすんだろーが!

 対峙するクソ猫は、薄汚れた茶色の毛皮に、人の身体ほどもある頭を持ったバランスのおかしいバケモンだ。金の屏風に描かれてそーな唐獅子?みてーな?そんな感じなのに、何処かしら人間を真似した猫。

 四足歩行する癖に、手はそれなり器用みてーだ。

 つーか、顔がヒト。

 いや、もう、ヒト。

 耳はちょっと福耳っていうのが気に入らねー。

 殴って千切って引き裂いて・・・つぎはどうしよーかなー。

 ―――――・・・もう、考えることが危なすぎませんか?

 あ?

 そりゃ多分、昔っからだぜ?

 かーなーり、過激な思想だー、って龍慎に何回言われただろうなー?

 ―――――よく・・・よく頑張ってこられたのですねッ。リューシン様ッ!

 中学の時の停学は理不尽だと思うんだよな。

 だって、俺悪くないもん。

 絡んできたのが五回目だったから、全身の骨を五か所叩き折っただけなのに。

 つーか、四回も我慢したんだぞ!?

 逆に褒めろよな!

 ―――――それ、どう頑張ったって褒められません。

 ん?ナニソレ、キコエナーイ。

 ―――――・・・・・・・・・

 喋れや。

 

 そんなやり取りをしていると、クソ猫は苛立って来たのか、何か投げてきた。

 ヒュンヒュンって風を切る音するけど・・・ないわー。

 ―――――人面猫って意外と頭が良かったんですね。

 いや、ちげーだろ。

 無茶苦茶してるだけだろ。何だよありゃーよ。手ェ振り回したらそこら中にあたって俺のほーに飛んできてるだけじゃねーの?

 「GUAAAAAAAAAAAA!」

 何だなんだァ?

 

 さらに、人面クソ猫が叫んだ瞬間。

 後ろに飛び跳ねようと思った瞬間。

 

 その時だった。

 俺の身体が、いや、俺の上半身がグイッと下に引かれた。

 腰を落として、衝撃に備えたけど・・・違った。

 

 「ごめんなさい。ありがとう。私も戦う」

 

 フィフェのつぶらな瞳が、俺の目を射抜いていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「ごめんなさい。ありがとう。私も戦う」

 

 赤犬の少女は、黒髪の少年に抱かれて。

 空は明るく、美しく。

 

 生けとし生けるものたちの心と、世界の欠片、それに混じり合える最も適合した格の魂。

 そうして私達は生まれました。

 生命の本能と結びついた生存のための闘争。—————故に生まれた〝闘争神〟

 余裕と共に生まれた己を楽しませるための遊戯。—————故に生まれた〝遊戯神〟

 金銭の循環を見据え利己の誕生と共に生まれた商業。—————故に生まれた〝商業神〟

 そして最後に生まれた。

 他人を慮ることが出来るようになった思想それが慈愛。—————故に生まれた〝慈愛神〟

 それが私、ルナ。

 

 そんな神と呼ばれる私達よりも、ずっとずっと。

 美しくあるもの。

 それがこのすぐ前にあるのです。

 私は彼らの神秘性に心打たれてしまいました。

 「あれぇ?どったのルナっち」

 「お久しぶりですね、遊戯神。いえ、もう、何というのでしょう。浄化されてしまいそうです」

 「・・・慈愛神だよね?天使の主なんだよね?」

 とても不思議そうですね。ええ、私は慈愛神で眷属は天使ですよ?

 「で?誰がどーして、どーなったって?」

 「ええ、遊戯神。トーゴさんが、フィフェさんの心を救ったのですが――――」

 「トーゴ?」

 「?ええ。犬山・トーゴ殿ですよ」

 遊戯神は、目を少しそばめます。

 「イヌヤマ?犬山・・・それにトーゴ・・・」

 「どうなさいました?」

 「いや、何でもないよ。ま、面白そうだねぇ」

 それはもう。とても美しいですしね。

 「ボクも見てっていいのかい?」

 「ええ、無論ですよ。ここにしか、世界視の鏡はないですしね」

 

 黒狼と赤犬が人面猫と戦っている裏では、ほのぼのとした神々の会話が行われていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「焼き尽くせランヴェルジェ―――――」

 茶色の毛は燃える。いやぁ、よく燃えるなー。

 フィフェの魔法が全力で放たれたからかな?

 「ねぇ―――――・・・名前、何?」

 「あ、言ってねーな、そーいや。俺はトーゴだ。可愛いフィフェ」

 「トーゴ。トーゴ。うん。・・・ふぇ?可愛い・・・」

 めっちゃかわいーんですが。

 「フィフェ、俺が前で殴るからさ、フィフェは俺ごと魔法であのクソ猫攻撃してくれ」

 「トーゴ!?一緒に攻撃するの!?危ないよ、トーゴがいなくなったら・・・」

 何これ、メッチャかわええ。目をうるうるさせて見上げてくるのはどうかと思う。俺には対処できねーよ。猫より強いよ絶対。

 「問題ねー。俺に任せとけ!!」

 テンションマァックス!

 フィフェに背中を任せる。

 オロオロしてるけど―――――可愛いからそれもよし―――――俺には問題ねーんだよな。

 

 一撃―――――鼻面に正拳。

 追撃―――――振り回してくる右手を掻い潜って首筋に手刀。

 惨劇―――――人型の口で食いついてくるから、クソ猫の下の歯に足を置いて、上あごにアッパー。

 リアル口裂けだぜ。いぇい。

 

 「フィフェ――――――――――!ぶっ放せ!!」

 

 声に応じてか、炎の弾丸が飛んでくる。頑張って制御しようとしたんだろーな。ちょっと遅い。

 クソ猫は口が裂けちまって痛いのか、涙目で避けようとしやがる。

 ・・・おっさん顔の涙目とか、誰得・・・

 取り敢えずだ。

 「逃げようとしてんじゃねーよ、クソが」

 右足を振り上げて、思いっきり

 

 スヴェルナと特訓してて分かったことがある。

 

 結論:俺、魔法効かねーわ。

 

 はぁ?って思ったやつ手ェ上げて。うん、いっぱいいるみたいだな。

 俺も思ったしな。

 魔法を叩き割るステップ其の一:体ん中の渦を拳に送り込みます。

      〃     其の二:拳を魔法に叩きつけます。

      〃     其の三:ふんどりゃーって力を込めて渦を魔法に送ります。

      〃     其の四:割りやすいもの(例えばプラスチック)をイメージします。

 そしたら、何と言うことでしょう。

 魔法がプラスチックになりました!割れました!

 てことで、魔法とか、そーいうの効かない。

 ハスキーの知恵袋エイトの奴が言うに、魔法は属性持ちが使う魔法、いわゆる魔術に比べてほころびが多いらしい。どー言うことか分かんねーから、聞いてみたところ、例えば『炎』属性を持っているフィフェの炎魔法と持ってねーエイトが使う炎魔法じゃあフィフェの魔法が簡単にエイトの魔法を打ち破るらしい。

 属性ってのは言い換えれば、その方面に対する世界への強制力が現れた様なもので、『炎』属性なら炎を生み出し、操ることに関してかなりの強制力があるらしい。

 何言ってるか俺には全然分からんかった。

 で、だ。

 この世界の基本六属性の話ってした気がするんだが、それ以外にもいっぱい属性はある。

 大きく見たら、基本六属性、五体属性、特殊属性、特異派生四種だ。

 この中の特異派生四種。これは大概頭悪い。

 そして、そのうちの一つ『変化』。

 俺はこの属性を持っている。人狼だから。

 変化属性を持つ人変族ライカンは放出系の魔法を一切使えない。

 その代わり、といっちゃあなんだが、特異派生四種以外の魔術と属性を持たねー奴の魔法をさせられる。


 だから。

 

 俺の回し蹴りを受けた炎弾は、鋼鉄に変化する。

 そんなクッソ重いものをものかーなーり向上してる俺の身体能力で蹴ったら。

 Q.E.D:龍慎のシュート並みの速度は出る。

 分かり辛い?

 ま、たまにいるドッジボールでぜってー避けられない球投げてくる奴の全力投球ぐらいに考えといてくれ。・・・これも龍慎だけど・・・

 ま、避けられないよね。

 鋼鉄の弾丸が――――――しかもドッジボール大の―――――クソ猫の口の中に飛んでいく、と。

 裂けてるからな。閉じるとか無理なわけ。

 

 「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAKIAKAAAAISYAAAAAAAA――――――――――――――!!!!」

 

 下あごが、千切れる。

 

 さぁ、止めだ。

 

 

 「人狼流体術、五の型!〝雷牙〟!!」

 

 それは、貫手。

 渦を燃えるんじゃねーかってほどに加速させて飛び出す。

 それは多分、一筋の雷に見えるんだ。

 

 血まみれの下あごから、狼の誇りたる爪がクソ猫の皮膚を食い破る。

 雷速の一撃は、牙を突き立てるがごとくクソ猫の心臓にまで届く。

 

 ――――――――――終わりだよ。

 

 人肌よりも暖けー液体を俺にかけて。クソ猫の目から光が逃げていく。

 くっそ、血塗れだよ。

 

 くるっと、振り返ってフィフェに手を突き上げようとしたら、もう

 「ちょっ!汚れる、血塗れだから!」

 慌てたのなんのって、そのまま、抱きついてくるんだもん。

 そんなことすると、可愛い顔があかくなるじゃん?

 それは人類の損失というべき―――――

 ―――――それ、後にしてくれません?

 ふざけんな駄女神。消すぞ?

 ―――――あたり、強くないですかぁ・・・?なんか、泣きたくなります・・・

 「凄い、凄いよ・・・かっこよかったよぉ」

 照れっ

 顔を赤く染まっちまったカッターシャツに擦り付けてる。

 可愛い。

 かっこいいって言いましたよね。歓喜!!!!!!

 

 ちょっと冷ための水が、俺の肌に触れた。

 

 フィフェは、顔をうつむけて、俺にしがみついている。

 

 ああ、——————————守れて良かったなー・・・

 

 

 






 

 「助けて、くれてぇ・・・ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 あたりまえだ。もう、泣くな。

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