美少女とバカ

 私は、フィフェ。

 赤犬の獣人。年は9才。黄金級冒険者ゴールデン

 いろいろあって今は、白銀級冒険者シルヴィアのジャンルフール・マネム・ダリル様のパーティ〝貴き力〟に入っている。私は魔法使いだから、後衛として頼りにされてる・・・はずなの。

 「くそッ、あの男何という暴言を!ぼくに対して何故敬意を持とうとしない!凉爵家なのだぞ!」

 爪を噛みながらダリル様は悪態をついている。

 私が何を言っても意に介さないだろうから、私にできることは少ない。

 「ダリル様、気にしないでいいと思いますよぉ?すぐにあの程度の奴を殺す奴は手に入るんでしょう?」

 茶髪で狐の様な細い目をした赤銅級冒険者カルパールのルアリスがダリル様を慰めている。

 「そうです!あのバカな男はダリル様の事を知らなかっただけでしょう!真実を知れば無様に頭を垂れるに違いないのです!」

 ムッスールと呼ばれる民族の衣装を着た白銀級冒険者シルヴィアのアイシスは憤慨したようにあの人の悪口を言っています。

 あの人はそのように意志の弱い人には見えなかったのですが・・・

 「そうだ、ぼくの父上は凄いんだ。あの程度の平民などすぐに・・・ぐふフフフ」

 ああ、ダリル様があくどい笑みをしている・・・

 あの人は悪い人ではないようだったし助けてあげたいな・・・あ、いや、・・・うん。

 でもダリル様こそが私の愛する人。

 ダリル様が言うことに間違いはないの・・・

 ・・・ならなぜこんなにも私の心は虚しいの・・・?

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 「ふん、この程度のものなど!」

 ダリル様の剣が青熊を切り裂く。

 青熊はいろんなところの森にいる獣で、そこまで知性が高くない。

 実際、ギルドの討伐目標エネミーランク鉄鋼級アイゼンヌス

 ギルドの中でも底辺に位置する程度。鍛えている村人と同じぐらい。

 こっちも直ぐに終わる。

 私の目の前にいるのは木守り狐。その名の通り『樹』の属性を持っていて、一本の木と契約することでその近くの場所を自分の縄張りに出来る。それが後天性称号ライセンス【木を守る狐】の効果。

 この称号は種族が木守り狐であることで手に入る称号。

 ほかの称号は分からないけれど、この称号によって縄張りと化した所では単純に力が倍増する。

 だから、討伐目標エネミーランクだけなら赤銅級カルパール

 それでも私の敵じゃない。

 これでも、『炎』の属性を持っているの。

 「焼き尽くせランヴェルジェ

 私のすぐ前で放たれた炎は寄り集まって狐の背後にある木を焼き尽くす。

 木守り狐は縄張りにいれば強いけれど、あまり縄張りを多用しない。

 その理由が

 木守り狐は気持ち悪い叫び声をあげてぱたりと倒れる。

 契約した木が死ねば木守り狐は外傷がなくても死んでしまう。その分、その木を殺せば狐の毛皮が手に入るんだけど。

 取り敢えず、ごめんなさい。そしてありがとう。

 私たちの生きる道になってください。

 これは私の思い。

 昔から一人だけで生きてきた。頼れるものは無かった。

 そんな中で、助けてくれたのは一体の獣だった。

 白い翼を持った狼。その種族は多分、〝白天狼〟。

 『氷雪』『嵐』『狼』の三属性を持った種族で、狼系の上位種族でもある。

 その狼は私にフィフェという名前をくれた。

 ちっさくて、でも爆発しそうなぐらいしんどかった私の熱を取って助けてくれた。

 その時に分かった。私の個性称号ユニークは【炎天の主】。周りの熱を暴走させることのできる力。

 白天狼が氷雪の力で抑え込んでくれなかったら私はここにいない。

 ・・・何故その時私が一人だけだったのか。

 それも私の称号が示してくれる。

 ――――――――――――――――――――――――

 名前:フィフェ

 年齢:9才

 職業:黄金級冒険者

 称号:【炎天の主】

    【はぐれたもの】【群れ殺し】【炎の暴れ者】【炎を越えし者】(隠蔽可能)

 備考:所属パーティ〝貴き力〟。最も強い黄金級冒険者。能力一割減少。獣人族超人。『人』『犬』『炎』属性。(隠蔽可能)

 ――――――――――――――――――――――――

 細かく見るならこう。

 ――――――――――――――――――――――――

 【炎天の主】・・・個性称号。効果;自身周辺の熱力を強制暴走。一定温度以上の攻撃を吸収。成長による吸収上限上昇可能。『炎』属性を得る。

 【はぐれたもの】・・・獲得条件;群れを成す性質の『獣』属性を持ち、群れから出る、出されること。効果;信頼する者が周りにいる時、能力三割上昇。いない場合は一割減少。

 【群れ殺し】・・・獲得条件;自身の属した群れを崩壊させること。効果;信頼されにくくなる。

 【炎の暴れ者】・・・獲得条件;『炎』属性を持ち、炎の力の暴走で生命を殺すこと。効果;『炎』属性の攻撃に威力上昇補正が掛かる。

 【炎を越えし者】・・・獲得条件;『炎』属性の暴走を抑え込むこと。効果;『炎』属性の習熟。

 ――――――――――――――――――――――――

 ・・・・・・私は生まれた時から、『炎』の属性を持っていた。そして、制御できていなかった。だから、群れから追い出された。そして、群れを力の暴走で崩壊させてしまったの・・・

 そこを通りかかった白天狼に力を抑えて貰ってこんな称号を手に入れたの。

 これは、私が意図もしていなかった殺害。

 だから、私は何かを殺すときに感謝と謝罪を送る。心から。

 「ふっ、ぼくに掛かればこの程度の仕事など簡単だったな。そう思うだろう?」

 「ええ、ダリル様は凄いです!」

 「簡単に木守り狐倒せるなんて!」

 私はダリル様の武器。私が斃せば、ダリル様が斃したことになるし、私が捕まえればダリル様が捕まえたことになる。

 「あっはっは!そうだろうそうだろう!ぼくはやっぱり凄いんだ!」

 そして、ダリル様は一人静かに祈りを捧げる私に声を掛けてくれる。

 「どうだ、フィフェ?あのような男と違いぼくには力があるだろう!」

 「は、はい。ダリル様ならば何でもできると思います。・・・でも、弱い人に手を出すのは」

 「な!ぼくに歯向かうのか!」

 「い、いえ、そんなこと、キャッ!」

 「あらぁ、ごめんなさーい。足が滑ったわ」

 ルアリス、何故・・・?

 私はいま、ルアリスの脚の下にいる。

 「ダリル様に歯向かうとか、最低ね」

 アイシスもルアリスも私に侮蔑の声を・・・

 また、私は一人になるの・・・?

 「だ、ダリル様・・・」

 「いつもいつもいつもいつもいつもっ!なんでぼくを否定するんだ!」

 え・・・?

 ダリル様・・・?

 「うあッ!?」

 ダリル様の脚絆が私のみぞおちにめり込んだ。

 痛い。痛い痛い痛い痛い。なんで、何で?

 ダリル様は私を愛してくれないの?

 私が愛しているのに・・・?

 「もう、要らないんだよ!!!!」

 ―――――ぐちゃ。

 「いたぁっ?!」

 私の左手から気持ちの悪い音がした。

 そして。

 

 「AGYUAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 「ひっ!な、なんだ?」

 そこにいるのが何かは見えない。

 でも、何か恐ろしいものがいる。

 寝転んでいるから、見えない。でも、ダリル様が、ダリル様の脚が震えているのは分かる。

 「な、なんで、こんなのがここに居るんだよお!」

 ああ、私はここで死ぬのだろうな。

 漠然とそう思った。

 これまでの付き合いから、ダリル様は、いや、他の皆はここで残ってくれるような人たちじゃない。

 ――――アイシスは私を嫌い。

 私の様な獣交じりが生きることが不快らしい。

 ――――ルアリスは私を嫌い。

 獣ごときがダリル様に近づくなってよく言われる。

 ――――ダリル様は・・・

 

 「フィフェ!『命令』だァッ!ここから逃げずにぼくの代わりに死ねッ!」

 

 ああ、やっぱり。

 一瞬、泡沫のようにそんな思いがはじけて消えた。

 何をしているのだろうか。私はダリル様の代わりに死ななければならない。これは運命だ、コレは天命だ。

 ほんのりとふんわりと、昨日嗅いだ黒髪の人の匂いがして、消えた。

 さぁ、早く死なないと。こんな怪物をダリル様に近づけてはいけない。

 砕けた左手に必死で力を込めて立ち上がる。

 良く分からないけど、後ろの怪物は驚いたような鳴き声を上げた気がする。

 「早く死ねよ、犬女!」

 アイシスの声がぼんやり聞こえる。

 「逃げましょう、ダリル様ぁ」

 ルアリスの声が聞こえた。

 「上手くぼくの代わりになって死ぬんだな、フィフェ」

 遠ざかっていくダリル様の声が聞こえる。

 「RUAAAAAAAAAANN!」

 終わりは近いなぁ。

 「ダリル様に、近づくな」

 勢いよく振り返って、魔法を編んだ。

 「焼け落ちろランヴェクライダ

 怪物の横っ腹にぶつかった魔法は、怪物に大きい痛みを与えたみたい。

 完全に怪物の興味ヘイトが私に向いた。

 逃げてくださいね、ダリル様。

 ――――また黒い髪がちらついた。

 

 




 誰かたすけてくれないかなぁ。

 

 




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