スラムで教えるじゃんけんの概念

 「へい、ボス。何かお呼びでしょうか?」

 「おお、やっと来たのかよ。おせーぞ1号2号3号」

 「「「 すいやせん! 」」」

 「ま、いーぜ。俺からは言いたいことは一つなんでな」

 ん?

 今何してんだー、って?

 それは追々で。

 「スヴェルナ、ライゼンバウアー、ドウル。それに1号から14号。今から今後についての会議をしよう」

 俺は右側の肘が取れているクッソぼろい椅子に座ってカッコつけた。

 ・・・こんなんしかねーってのがスラム感出すよなー。

 俺の前では総勢十七名が跪いている。

 前に三人後ろに十四人。さっき言ったよーに名前アリの三人と号呼びの十四人だ。

 前列は右からとさか頭で上半身裸の筋肉、ストライプの胡散臭いスーツっぽいのを着た茶髪の片眼鏡、誇りまみれのコートとそれに付属したフードを深くかぶった小柄な奴。

 こいつらはスラム街の大元締め奴らだ。

 え?いま?俺が総元締めですけど何か?

 うん。トサカとのやり合いから三週間が経った。あの後、トサカ―――――スヴェルナを倒した俺はスヴェルナとその配下を全員部下にした。実はスヴェルナはあの辺、王城近くのスラム南部一帯締める頭領だったみてーで、そいつを下したらそこら辺が手に入ったんだよ。

 最初の一週間で南部をそこそこ改善した。

 堅気への恫喝を減らしたり、無茶な徴収を減らしたりな。まーまーだるかったぜ。あーいうのしてると速攻で先公が見つけるんだよなー。

 俺はしてなかったけど。寧ろそーいう阿保共を潰す遊びをしてたけど。

 だからこそ分かる。この街の構造や人の通りをスヴェルナに聞いて、絶対ばれねー領域を作った。もしそっから出るんならそいつが馬鹿だっただけだ。

 それによってこれまでよりスラムの仕事場所が増えた。

 もちろん消すとこはあったが、それ以上に新しいところが多いんだよ。

 警察や住民の目が多い日本で不良を潰して回った俺の知識を舐めんな。

 で、二週間で中央部を締めてたライゼンバウアー、東部を締めてたドウルのショバに攻め込んで下に置いたってことだ。

 それによって俺はスラムの7割を抑える総元締めになったっつーわけだが、はっきり言ってつまらん。

 ここ、そんなにつえー奴いねーし。

 スヴェルナとライゼンバウアーしか骨のあるやつはいなかった。ドウルはある程度攻め込んだら降伏したし。あ、因みに片眼鏡がライゼンバウアーでフードがドウルだ。

 「ってことで、俺はここを出よーと思う。俺がいなくなった後はお前ら三人の合議制で決めろ。出来るよな?」

 「「「 はっ 」」」

 良い返事だ。

 こういう舎弟みてーなのいてもけっこー楽しーんだがな。

 「スヴェルナ、お前は部下たちの育成。ライゼンバウアーは仕事の元締め。ドウルは外との折衝だ。出来る限り問題は減らせるように協力してやれ」

 「外、ですか・・・?」

 ドウルは少し上目遣いになって俺を見る。

 ま、頷いておこう。

 「ああ、騎士団とかなんとかあるだろ?スラムでの安全を保障する代わりに認めろーってのをちょっと腐ってるやつとまーまー清廉だけど清濁あわせもてる奴の二種類捜して言っとけ。そしたら政変にも巻き込まれにくいし、公的権力にも恩を売りつけられんだろ?」

 ラノベとかでよく見るからなー。腐った貴族とか。

 いんだろ。歴史上にもいっぱいいたんだから。

 「さすれば、私の私的な友人方に数人見繕えるものが。後でお見せしたいのですが」

 「分かった。後でな」

 ライゼンバウアーにはそーいう奴を知ってるらしーな。

 

 「で、だ。お前ら、これからも抗争続けんのか?」

 

 「は?」

 声に出したのはスヴェルナだけだったが、他の二人も同じように思っているのが目に見える。

 「いや、仲間になったのに縄張り争いすんのか?と。俺には直接かんけーある訳じゃねーけどな、それでも従えた奴らが殴り合って上下を付けんのはちょっとな。仲間だったら仲良くしろよって思うんだよ。ラノベの悪の組織とか、幹部同士が仲悪いって意味わかんねーだろ。味方にも仲悪いの居やがるし。やり合った感じ、強いのはスヴェルナだが、組織を牛耳るのはライゼンバウアーの方が巧そうだし、ドウルはドウルで計算高いしなー。北とか西とかにちょっかい出すならまだしも仲間内はなぁ。俺がヤダ」

 「は、はぁ・・・」

 ライゼンバウアーよ、分かっていないな?

 「ライゼンバウアー、不思議そうだな。簡単に言えばさ、西や北の奴らに仲間割れしてる最中に獲物掻っ攫われていーのかって聞ーてんだよ」

 「ッ、それはッ!」

 「嫌だよな?」

 「ええ」

 「・・・もちろんです」

 「奪い返すがな」

 「そこだ!スヴェルナ!」

 「ふおお!??」

 な、何て間抜けな顔してるんだ、スヴェルナ。

 にやけそうになる顔を全力で抑え込みつつ、次を言う。

 「奪い返せたとしよう。けどさ、奪い返した分の労力無駄じゃね?」

 「ですが、奪い返さなければ後々舐められることに・・・」

 「いーや、ライゼンバウアー。論点が違う」

 「・・・論点ですか・・・?」

 「そうだ、ドウル。奪い返す奪い返さないじゃねー。奪われなきゃいーんだよ!」

 クハハハハハハハハハ!

 これぞ逆転の発想!他人モノは奪っても自分のモノは奪わせない!

 どこからかガキ大将のテーマが流れてきそうだぜ!

 「・・・・・・そこですか」

 「あたぼーよ。お前らなら出来るだろ?この俺が、が自信持って言ってやるよ」

 ・・・おいそこ、誰だよとか言うな。痛い奴とかも言うな。

 偽名使ったらわりーかよ。シベリアンっていいだろーが。

 安直とか言うな。泣くぞ?

 え?安直とか言ってない?むしろ何か分かんない?・・・ふっ。

 シベリアンだぜ?んで、俺は何が好きなのよ。

 犬が好きです!超好きです!シベリアンはシベリアンハスキーから取りました!

 いやもう、マジ最高。

 犬の名前使って厨二病世界に来て、悪の組織を作れるとか。もう、感謝感激雨あられ。

 ―――――うふふ。

 あ、やっぱなし。駄女神の思念が来た気がする。感謝なんかしちゃいけねーな。

 ―――――あ、やっぱり。私、もう泣いてもいいですよね・・・

 クハハハハハ!俺は駄女神すら泣かす人外だぞー!

 なまはげよりこえーぞー!

 あ、因みに最大派閥の名前は鶴の一声で『ハスキー』にした。

 「なれば私、ライゼンバウアーはシベリアン様とハスキーの名において誓いましょう。確実に獲物を敵に奪われない体制を作り上げて見せる、と」

 「俺、スヴェルナも誓おう。獲物を取られるような弱卒なんぞ作り上げん、と」

 「ドウルも誓う。騎士団の威光でも何でも使ってスラムで確固たる組織にする」

 三人ともいい顔だ。

 忠誠が良く見える。ライゼンバウアーは厳かに、スヴェルナは獰猛に、ドウルは物静かに。

 ああ、いい部下じゃねーか。

 

 「今から、俺が、お前らの仲間内での喧嘩を減らす画期的な方法を教えてやる」

 

 全員の目が光った。

 さっきから会話に参加していない1~14号達も含め全員だ。

 「ほう?それはそれは・・・」

 「んな、マジか?」

 「・・・すご」

 三人とも感心しているようだな。クハハハッ!

 「それは―――――」

 ごくッと誰かが唾を呑み込む。

 間をおいて、俺は言う。

 

 

 

 「―――――――――じゃんけんだ」

 

 「じゃん、けん?」

 「邪ん剣?」

 「・・・?」

 驚きが凄いな。ふはは。

 「これは基本的な三要素で勝敗を付ける方法だ。一つ目の要素は、〝拳〟。握りこぶしを作れ。それが〝拳〟の要素だ。二つ目は〝剣〟。握りこぶしから、中指と人差し指を間を空けずに伸ばせ。最後は〝受け手〟。手を開き、拳を掴む様な格好にしろ。そうしたら三要素が出揃ったわけだ。」

 「ふむ、これをどうすれば喧嘩が減ると?」

 「ああ、この三要素には相克があってな。意味からも分かるだろうがな。まず、〝拳〟は〝剣〟に強い。剣なんざ殴ったら折れるだろ?」

 「それはシベリアン様だけだと思う・・・」

 うーん?スヴェルナも行けると思うがなー?

 「ま、いい。次に〝剣〟は〝受け手〟に強い。どんだけ拳を待ち構えても剣に来られちゃ斬られるだろ?んで、〝受け手〟は〝拳〟に強い。ま、これは意味のまんまだ」

 「ふむ」

 「ま、見せた方が早いか。3号!」

 「はい!」

 右から三番目にいた奴が立ち上がった。

 「今から、俺が『じゃんけんポン!』っていう。ポンのタイミングでさっき教えた三つのうちどれかを出せ。俺も出す。俺に勝ったら今日の晩飯増量だ!」

 「いよぉし!俺ぁやる、やってやりやすぜ!」

 単純な奴だなー。

 「そんじゃま、行くぞ?じゃんけん、ポン!」

 俺が出したのは、〝剣〟。3号も〝剣〟だった。

 って、もうわかってると思うが、拳=グー、剣=チョキ、受け手=パーだ。咄嗟に思いついたにしてはうまくねーか?

 「あれ?一緒だと勝ち負けつかない・・・」

 「正解だ、ドウル。この状況をお相子という。故にもう一度だ。だが、二回目からは掛け声が違う。『相子でしょい!』と言うんだ。行くぞ、3号!相子でしょい!」

 俺は拳、3号は剣。

 「俺の勝ちだ。とまぁ、こうやって平和的に解決できる。例えば、スヴェルナのしごきに耐えられなくなった4号が6号の夕飯を奪ったとしよう」

 「いや、耐えますよ・・・」

 「おいらは奪われるんですかい!?」

 「いや、4号は怠けもんだし、6号は抜けてるだろ?」

 「「・・・」」

 間違っちゃいねーぜ?

 「ま、いーや。さっきの続きだ。キレた6号が4号に戦いを挑んだとしよう。その時に、思いっきり殴り合って両方が仕事に支障をきたすのか、じゃんけんで決めて平和を生むのか。どっちがいい?」

 ま、んなもん決まってるっつーんだよな。

 『じゃんけんがいいです!』

 スヴェルナを除いて全員の声が揃った。

 スヴェルナは不機嫌だな。俺に似てるからなー。

 「大手を振って殴り合いが出来ねえだろうが・・・」

 「だからお前は教育なんだっつーの。ボッコボコに鍛えてやれ」

 「おう!流石、ボスは話が分かる!」

 ギッラギラの目の色だよ。1~14号の恨めしい目がおもしれーな。

 「ああ、そうだ」

 あ、一個言い忘れてたぜ。

 「む?何ですかな?」

 「おう、11号!」

 「は、はい!?」

 ビビッてそっこー立ち上がる11号。

 って、何号何号って言いづれーな。こいつら名前ねーのか?

 「ああ。こいつらは名無しだ。うちの部下には孤児が多い。俺たちの唯一のルールが7歳以下の子供には手ぇ出さねえってのがあるんだ。そしたら、スラムに流れてくるガキどもは全員こっちに来やがってな。それを軍団化したら56号までいるんだよ」

 「めっちゃいんのな。とりあえず、お前らは名前が要るだろう?」

 「そうか?」

 「ああ、分けなきゃなんねーだろ。こいつらとお前らだけが俺の素顔を知ってるしな。じゃ、一号からな。んー。ファースト、セカンド、サード、フォア、ファイヴ、シックス、セヴン、エイト、ナイン、テン、イレヴン、テュエルヴ、サーティーン、フォーティーン。これでいーだろ」

 まんま英語だけどいーよな。

 『ハハッ、ありがたき幸せです!』

 「別にいーっての。とりあえずな、イレヴン。お前はこのじゃんけん制度において別枠だ」

 「えっ?」

 「いや、前にお前らのステータス見たじゃん?その時のお前の個性称号ユニークだけがやべーなと思ってさ」

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 名前:イレヴン

 年齢:11歳

 職業:義賊

 称号:【掌の勝利者】

    【賊】

 備考:スラム街の義賊。多人族。『人』属性。

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 この、【掌の勝利者】ってのが肝だ。

 これの効果がやべー。

 ―――――――――――――――――――――――――

 【掌の勝利者】・・・効果;において負けることがない。

 ―――――――――――――――――――――――――

 ヤバくね?

 じゃんけんは、ぜってー勝つんだぜ?

 「ってことだ。お前はその代わり、少し待遇をよくしてやる。具体的には晩飯を一品増やしてやる。出来るよな、ライゼンバウアー?」

 「御意に」

 「マジですか?」

 「ああ。お前がその気になれば相手のもん全部奪っちまって不和が巻き起こるだろうな。お前、そこまで強くねーからそっこー死ぬぜ?」

 「ですが、僕が死ぬぐらいなら別に問題ないのでは・・・?」

 「はぁ?お前、俺の部下が勝手に死んでたまるかっつーんだ。お前らもそうだが、勝手に死ぬんじゃねーぞ?お前らが俺の部下になったんなら、お前らは全部俺のもんだ。他のごろつきにやってやるかっつーんだよ」

 『・・・』

 お?何か黙ったぞ?

 「・・・俺たち、いや、我等一同思うことがあります」

 「私たちによるシベリアン様への奏上をお許しいただきたく」

 スヴェルナ、ライゼンバウアー、ドウルの三人が目を合わせて頷き合ったかと思うと訳分からん事言い出した。

 「「「我等一同、貴方様へ永遠の忠誠と、絶対の信頼を誓わせていただきます!!」」」

 ドウル迄大声出しやんの。めっちゃびっくりした。

 「あッはッは!別に構わねーぞ!」

 何か楽しくなってきたな。

 

 あ。

 

 「で、だ。忘れてた。聞きてーことがあったんだよな」

 「何でしょうか?」

 「出来るだけ、考えるよ」

 「頑張る・・・」

 「ああ、そこまで気張るよーなもんじゃねー。あのな―――――」

 「?」

 

 「冒険者ギルドってどこにあんの?」

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