〝草原の王殺し〟
朝起きて青空を見たら、そこは・・・
「リューシン様!ユースケ様!」
どうしたんだろう。
僕は井上龍慎。天道高校二年D組で学級委員長を務めていた。
今は違う。僕は、僕たちはクラスに残っていたメンバー全員で異世界へ召喚された。
勇者として呼ばれた雄介の仲間として。
昨日の風呂の中で、ステータスカード風に呼び合うことに決めたんだ。
今までよく覚えていなかったメンバーも下で呼び合うことにした。何かいいよね。
「リューシン様!」
今僕を呼んだのは、マリアナ王女殿下だと思う。
「どうしました?」
ドアを開けて廊下を見ると、少し背の低い、麗しいと表現するのが良さそうな美少女が、この国の王女殿下がいた。
「あの、あの!リューシン様!と、トット、トーゴ様がっ!」
桐吾が?
桐吾がどうかしたのだろうか。というか、すごく焦ってるな。
「桐吾がどうかしましたか?」
「と、トーゴ様が、お亡くなりに!」
「ええ!?」
桐吾が死んだ!?
そんな、何で!?
「殿下。それでは犬山が死んでしまっていますよ。委員長、いや、龍慎。犬山は死んでいない。いなくなったんだ」
ほっ。そうか、お亡くなりになったんじゃなくていなくなったのか。
ということは凄く混乱してるんだね、王女殿下。
「龍慎、慈しむ様な目を混乱している殿下に向けていると・・・」
「何だい、雄介?」
「惚れられるぞ?」
は?
王女殿下は―――――顔を赤くしてうつむいていた。
「リューシン様の優しい目・・・格好いいですぅ」
何か小声でつぶやいてるけど・・・何だろう?
「どうかいたしましたか、王女殿下」
ん?ちょっと待って。
「桐吾が、いなくなった?」
「遅いな」
桐吾がいなくなった=桐吾が隠れている?これはない。
桐吾がいなくなった=あいつは勝手に城から出ていった?すごくありそうだ。
「まさか、一人で出ていったとか言わないよね・・・?」
「流石だな。正解だよ」
お別れする暇も与えてくれないのか。
「ほら」
雄介が何か渡してくる。これは・・・ナプキンか?
ナプキンの白い生地に、乱雑で適当に描いたと思える文字が書いてあった。
『じゃーな』
「ふふっ」
桐吾らしい。らしすぎる。
「やっぱり笑ったか。ほら、行くぞ」
雄介、ありがとう。
あまり話したことがないけれど、誰の入れ知恵だろう。
「八坂さんが、これを見れば龍慎は笑うって。あの人の微笑みとかほとんど見ないぞ」
「乃蒼が?まぁ、それは珍しい」
僕と雄介は互いに顔を見合わせて笑った。
「なあ、雄介。乃蒼じゃないのかい?」
「あ」
「乃蒼を呼び捨てには出来ないかい?」
「・・・流石にあの人を呼び捨ては心が持たない」
雄介は、やっぱり雄介だな。
何か楽しくなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ああ、朝か。
良く晴れてんな。
俺、犬山桐吾は、城を抜け出した後、適当に夜中ぶらついて寝れそーなところで寝たんだ。
ま、野外で寝よーがあんま気になんねーのが俺の勝ちってトコだな。
ここ?
ここは・・・
ま、い、良いだろ?んな事より俺の今日の予定をだな―――――
「死ねクソがァ!!!!!!!!」
「アダとオレエ!ワジの前に屍さらしゃんけえ!!」
片方何言っとるんだ。
見下げればそこに、ハゲとイっちゃってるっぽいじじいがいた。
ハゲのフック、じじいの頭突き、ハゲは避けてじじいのみぞおちに蹴りを入れる!
しかしじじいは蹴りを気にせずに痰攻撃!
アレは嫌だな・・・
ハゲもそう思ったようで避けて、ああっと鉄パイプを持った!
あんな武器があるとは!
って、よく見たらただの棒じゃねーか。さびた鉄パイプかと思ったら、腐りかけの木の棒だな。雑魚。あんなもんで叩いたって痛くねーだろ。
マジで叩きに行きやがった。
うん、折れるっつーか、砕けるよな。ん?まさか、あれでじじいの目を塞いで一方的に攻撃する気なんじゃあ・・・?
そんな知恵はないか・・・
自分も目に入って痛がってやがる。バカでー。
「貴様!さっきから五月蠅いぞ!死ね!」
「口が悪りーな」
ハゲが石投げてきやんの。
もちろん避けれるよ。おせえおせえ。龍慎の弾丸シュート顔面に食らったことがある俺からしたらあんなもんはフンコロガシと一緒だな。龍慎の奴、県大会で最優秀選手賞貰ってたはずだぜ?
「お返しだ、バーカ」
煙突の端のレンガを一つ拝借。
思いっきり投げつける!
ヒュウウーーーーン!ドゴオオオッ!グチャッ!ぎゃあああアああ!
やば・・・・・・・・・・・・
もしかして、あの駄女神俺にチート能力でも与えやがったか。
嬉しーけど嬉しくねーな。こういうグロ画像は処理がめんどくせー。
ハラ減ったな。
「足が!俺の脚がぁアア!」
「うるジャーは、クスギャー!あじがなぐにゃあたでーしでがあがあじゃーぐら!」
じじいは相変わらず何言ってんのか分かんねーな。
「ぜごなわぎゃーろ!てぢゃすけちゃすきゃあた。わじにとだらもんぢゃーでもにゃーがらああ!」
じじいはハゲの頭をバンバンかびた布で叩きながらこっち向いて何か言ってやんの。
歯は抜けてるし、微妙に肌もかびてるし、気持ちわりー。
ま、どーでもいー。
「礼は要らねー。後処理は頼むぜ。めんどくせーからな」
「わぎゃーた、まぎゃしどらんばい」
もはや、方言だな。
俺は、あの方言じじいと別れた後、屋根伝いにテクテク歩いていた。
なーんか、ここらの道路ってキタネーんだよな。
そこら中に腐った木片があるし、腐ったナニカも散らばってる。
触りたくねー。そう思えるもんだ。やだね、マジでヤダ。
不法投棄の取り締まりとゴミ収集車ってスゲーんだな。こっち来て初めて知ったぜ。あ、腹減った。レストランがある訳じゃねーしなー。つーかこの辺、腐ってねー家がねーぞ。
屋根も踏み抜きまくってるしな。ま、謝んねーけど。てか、人いねーし。
「おい!そこのガキ!」
犬でもいねーかなー。飼いてえ。
「無視すんじゃねえよ!コラ!クソガキ、屋根から降りてこい!」
「ああ?俺か?」
「当たり前だろうが!!」
何がだよ。
何か、とさか頭の半裸筋肉男がいた。
俺に向けて怒鳴ってたみてーだが、気持ちわりーな。上半身裸だし、ズボンはぼろぼろだし、持ってる得物はさび付いたナイフだし、訳分かんねー。
ここってどこだよ。迷ってんだよ、こちとら!
「へへ、親分。貴族の坊ちゃんがこんなところに来るとは儲けもんですね」
「おうよ、子分1号。あの質の良さそうな服も売り払やあいい値段になんだろ?」
「それはいい考えですね!あっしじゃあ思いつきやせんでした!」
「無論だぜ、子分2号!」
「てめーら、カツアゲの基本が成ってねーな」
いや、何が取れるか分かんねー状態で声かけんじゃねーっつーの。
ちょっと前の商店街の阿保共の方が考えてたぜ?まだ。
「きさま、何時の間に!」
「さっきだよ。まず、突っ込ませろ。子分1号2号ってなんだよ!仮面付けたバイク乗りかっつーの!!」
え?古い?
ノンノン。これを他人は原点回帰というのさ。
「はぁ?スラムにノコノコ来るような悪ガキ気取りは本当の悪にやられるんだぜ?」
「知らねーよ!迷ったから、腐った屋根の上で寝てただけだっつーの。そもそも、てめーらみてーな雑魚の群れより、俺一人のが圧倒的につえーぞ。戦えんのか?あ?」
「背中ががら空きだぜ?坊ちゃんよお!」
後ろから、鉄棒みてーの持った子分――――1号と2号じゃねー奴――――が、俺の背中を殴ろうとするが・・・甘い。お汁粉の蜂蜜混ぜ、砂糖ときより圧倒的に甘いな。
「分かってるんだよ!」
俺の後ろ回し蹴りが子分3号、多分3号、に直撃した。
「5号ーーー!」
「3と4はどこ行った!」
「てめえの後ろだよ、クソガキが!」
後ろから二人分の声が聞こえる。後ろとんの好きだな。
ま、本気でやってみよう。
俺の身体がどこまでできるか知りてーしな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は夢を見ているのだろうか。
スラムを纏め上げてから6年、こんなことは初めてだ。
最初は、物好きな貴族の小僧だと思った。スラム街にわざわざ足を踏み入れたり、いちいち目立つ屋根の上を真昼間から歩いたりとふざけたことをしているのだから当然だろう。
黒髪黒目の黒い服。くすんだ金色のバッジが妙に目立つ仕様の服で青空の下を歩いていれば目立つ。
カモだと考えた俺の部下が喜び勇んで俺の下に来るのも間違っちゃいねえ。
ああ、間違いじゃなかった。
間違いじゃなかったはずなんだ。
――――――いつもなら。
「ハハッ!更に楽しくなってきたぜ!」
口元に凶悪な笑みを浮かべながら、何十人もの部下を蹂躙する小僧がいる。
3号がナイフを投げれば、柄の部分を叩いて落とし、4号が蹴りを繰り出せば同じく蹴りで4号の脚の骨を砕く。8号と10号が挟み撃ちにすれば、右の拳と左の肘が的確に急所を打つ。14号などは肩の骨を砕き折られ涎を出しながら蹲ってしまっている。
・・・あれでも俺に次ぐ実力者だったんだが。
寧ろいい戦いが出来るっていう感じの獰猛な笑みの前に散っていった。
本当にあの小僧は何なのだろうか。
「お、親分!死んじまいやすぜぇッ!!」
「おうよ、1号。俺に任せろッ!!!」
吼える。
そうでもしなけりゃあ、膝から下がすくんじまいそうだ。
俺の咆哮を聞いて、ピタリと小僧が動きを止めた。確実に止めなければ2号の腕は吹き飛んでいただろう。
「次はてめーが相手か?楽しーんだろうな?」
ペロリといった様子で唇を舐める小僧。うなじに手をやり首を鳴らす所までついている。
蛇に睨まれた蛙とはいかねえが、蟷螂に睨まれた飛蝗くらいにしておこう。そのくらいの心の恐怖だった。何故か感じたのは、
肉食の獣でも相手にしている気分だった。
「ウオアアあアっ!」
声にならない叫びで、誤魔化す。
そして、さび付いたナイフを投げる。
「へん」
小僧は、ナイフを叩き落とすが・・・かかったな?
「ぬん!」
俺は全力で棍棒を振りぬいた。
「うおっ、どっから取り出すっつーんだ、んなもん!」
これには小僧も驚いたようだ。
ニヤリと笑って、言い放ってやる。
「まだまだ甘いなッ!戦闘を知らん小僧ということだ!」
こいつは確かに強い。
強いが、殺し合いはしたことがないのだろう。称号での戦いに慣れていない。
3号の使った気配隠蔽にも引っかかっておったし、6号の体術にはついていけなかった。
ならば、まだつけ込む隙がある。
「見せてやろう、殺し合いをなァッ!」
振り上げた棍棒を、振り下ろす。
だが、その時にはもう棍棒と呼べる大きさではない。
「ハァッ!?何じゃそりゃ!?称号か!?」
驚きつつも回避し、巨大棍棒に拳を叩き込める技術は評価してもいい。
だが、俺の【
「ぬううん!!」
さらに巨大化する。
「親分ッ!ここが崩れちまうよ!!」
1号の泣き言が聞こえるが、この小僧には全力を出さねばならん、そんな気がしてならん。
現に―――――
「クハハハハッ!なんだ、なんだそれぇ!楽しすぎんだろーがよ!!」
小僧は俺の棍棒を軽々と回避しながら狂ったかのように笑っている。
口の端から見える牙は鋭くとがっているように見える。
・・・牙?
「これなら、楽しく本気出せそーだぜ」
心胆が震えた。
体の中に雪が降ったような寒気が走った。
いま、小僧は何と言った?
「さあ、マジになろーぜ?」
小僧の髪が震える。
次の瞬間。耳が消えた。
いや、正しく言うなれば、耳が
人としてあるべき一の耳が消えた。頭頂部に近いと言える辺りの髪が震えたのだが、そこが段々と盛り上がり、ピクンと前後に動いた。
耳が生えたのだ。
「ま、まさか・・・
見れば、尻尾まで生えている。両腕は毛が覆い、太く鋭い爪も生えている。
それは、どう見ても獣人の姿だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「らいかん?何じゃそりゃ」
良く分かんねー言葉を発したっきり固まっているチンピラ数人。もう、何号なのかは分かんねー。
俺は、今!心身ともに絶好調!世界で最高潮に興奮しているのは俺と言って過言ではない!!
なんてったって、俺にケモミミが生えた!それも犬!狼は犬の先祖だから大きく見て犬と言っていい!!
「くそっ、とんでもねえハズレをひいちまったようだ」
「今更気付いたのか?トサカ頭。筋肉トサカの方がいいか?」
「トサカって何だよ!?」
あ、因みに今の会話はトサカが巨大棍棒振り回しているその上を走りつつしている。
振り上げて落とそーとしてやがるが、その勢いを使って高く飛び上がる。
そのままキックだ!
イメージは有名ヒーロー、仮面をつけたバイク乗りのバイク乗りキックだ。
ふぉ!?
何か金棒が横に広がったぞ!?
俺は広がった金棒を蹴り飛ばして、着地。
「てめぇ、武器でっかくするとかふざけんじゃねーよ!!」
「人のこと言えるかよ!てめえの身体能力もおかしいだろうが!!俺だってまぁまぁ鍛えてるのに俺より早いって何なんだ!」
「知らねーよ!てめぇの称号なんだろーが、ふざけた効果だな!チーターかよ!!」
「チーターって何だよ!」
「うっせー!!」
「ガキか!・・・ガキか」
ガキで悪かったな!どんだけ殴っても金属棒折れねーし。
「あと、なんでてめえ金属殴って平然とした顔してんだよ!」
「知らねーよ!!」
これはマジ。俺はなんで金属バットより厚みのあるもん殴って全然気になんねーんだろ?勇者の仲間補正?んなもんは王城出た時に消えたんじゃね?
「るぁああぁああ!」
「ふぬううううううううううううん!」
俺の右拳とトサカの金属板?がぶつかり合う。
「・・・はは」
ああ、なんかいーな。
「ハハハッ!」
だんだんだんだん、楽しくなってきやがる。
さっきまでより、ずっとずっと。
黒い毛が俺の肌から噴き出すように生えてくる。
「クハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
もう、笑いが止めらんねー。
「アアアア、みてみろ、俺の全力をよお!」
「ぬうぅ!?」
トサカが俺の蹴りでたたらを踏む。
ああ、体ん中で何かが渦巻いてるよーに感じる。
さっきまで動いてるなー、ぐらいだったのが今じゃあ暴れ狂ってやがる。
渦巻きがさらに強く。まるで竜巻みてーに暴れてる。
渦巻きが動かせる気がした。
「おらよ!」
凄い音を立てて俺の拳が金属板並みの厚さの金属棒にめり込む。縦にだぜ?
何かの奔流は俺の両腕に動いた。
「くそがッ!何でいきなり力が上がる!?」
わりーな、トサカ。こーいうのは調子に乗った方が勝つんだぜ?
調子と勢いは、俺の口からするりといくらかの言葉を紡ぎだした。
勝ちてー。それだけを考えた一撃。
「人狼流体術!壱の型ァ、〝王牙〟!!」
渦巻きがある両腕を構える。左手で押してトサカの体勢を崩す。
そして両手を合わせる。ま、指までではねーけどな。
言うなれば某有名漫画の技だ。あの、南の島の王様みてーな名前の準魔法。
金属板に爪を突き立てれば刺さる。
そのまま、捩じる。
そして。
トサカの持つ金属の巨大化した何か――――もう、板とも言えねーほどでけー。棒ではない。絶対に――――を砕いた。まるで雪みてーに金属の破片がパラパラと散る。
その破片に反射して見えた俺の顔はすっげー笑ってた。
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