バイバイ、クラスメイト

 「わ、れた?」

 王女様~、びっくりして声を失うのは後にしてくんねーかね。

 「うーん、桐吾、お前霊力凄いのか?」

 「知らねーよ。種族的なこともあんじゃね?俺はどっちかっつーと獣に近いっぽいし」

 「しかし、僕も獣人なんだが・・・」

 「いや、王女様の言い分じゃ獣人は測ったことあるっぽいけど、人狼はあんのか分かんねーだろ。俺が人狼って聞いて驚いてたみてーだし」

 「それもそうだね。精霊はどうして計ったことあるんだろ」

 「さーな。ま、どーでもいーさ。俺、明日には出てくし」

 「「 唐突だな!? 」」

 おお、揃った。

 「お前ら仲いーな」

 「龍!こいつが出てくんなら別に良いじゃねえか!それよりこっち来てこれからを話し合おうよ!」

 真白、お前それ自分が話して―だけだろ。

 「・・・ふむ、ここで言うべきか。井上、オレも出るつもりだ」

 「木原!?」

 川北、何でお前が反応してんだ?

 「タケ、そうなのか?」

 「ああ、一応大工の息子だから、建築に携わろうと思っている。戦いは嫌なのだ」

 「いや、お前は武道家だろうがよ!何、親ナシとおんなじこと言ってやがる!」

 「谷口、何故そうも犬山を嫌う。それに武道に励んでいたからと言って戦いが好きなわけではない。オレは剣道や空手の有段者ではあるが、それだからこそ、本当の戦いは嫌いなのだ。これまで喧嘩をしたこともないし、空手を他人に振るおうと思ったことも無い。オレは怖いと思う」

 「ふむ、戦いに身を入れたことがあるからこその恐怖。我々には分からないことではある。それに、いざ命の取り合いとなった時、我々のように道徳を持つ者は怯えるに違いない」

 哲人佐藤・・・

 こいつは、佐藤哲司さとうてつじ。なんか、喋り方や喋る内容が哲学者っぽいんだ。

 「佐藤よ、正しくその通りだ。オレは怖いんだ。元々お化け屋敷に入るのも躊躇う程度には怖がりだしな。雄介は知っているだろう?」

 「・・・そう言えばそうだったな。修学旅行で置き去りにされていたな」

 「・・・・・・随分、昔のことを覚えているんだな」

 おおう、高井。それもうちょい詳しく。木原を弄るネタに出来そーだ。

 「へえ、武人にも弱点はあるんだな」

 「川北。オレは武人ではない。ただのスポーツ少年だ」

 「いや、武人だろ・・・」

 なーなー。とりあえず何か王女様が言いたそーだぜ?

 「そこらへんで終わり。マリアナ王女殿下。どうかなさいましたか?」

 物腰柔らかく龍慎が何かいいたそーだった王女様に声を掛ける。

 「あ、いえ。たいしたことでは・・・。ところでトーゴ様は人狼なのでしょうか・・・?」

 「ほ?おう。俺は人狼だぜ?神さんに犬っぽくせいやっていったら人狼になった」

 「犬・・・」

 「犬山、ほんとに犬が好きだな」

 あたりめーだろーが。

 「仕方がない。オレも協力はする。だが矢面には立ちたくないんだ。怖さには勝てない」

 「それならまぁ、仕方ねえか」

 お?谷口が譲歩した、だと!?

 何だなんだ?天変地異の前触れか?空前絶後の化け物でも出てくるのか!?

 「おい、犬っころ、お前なんかふざけたこと考えやがったな?」

 「黙ってろバカ一号。俺は今絶賛熟考中だ」

 「アア゛?」

 「ま、いーや。とりあえず、龍慎!!」

 「うお!?!?な、何だァ!?」

 大声出したらビビりやんの。(笑)。

 「魔力測定はやったろ?解散で良くね?」

 「いや・・・僕たちの中でも魔力なんかの差が大きいことが良く分かった。なら、これからの事を考えて今のうちに将来を見据えた話し合いをすべきだと思う。美姫のセンスは多分魔法使いに向いているんだろうし、僕はそこまで強くない。桐吾は良く分からないけど、確実に誰よりも高井は強いんだろう。結城や谷口は確実に筋力に極振りしてるんだろう?」

 「ま、そうだな」

 「俺は女神様に力を頼んだからな」

 お、谷口が願いを自分から言った。こいつの事だし、どーせ金だろーと思ってたが、少しは頭が使えたみてーだな。阿保ではあるけどな。

 「あ?おい、親ナシ。てめえ何か胸糞わりいこと考えやがったな?」

 「馬鹿じゃねーけど阿保だなって考えてたんだよ。筋肉より知性がいるんじゃねーの?」

 「んだと、ゴラァ!」

 「たりめーだろーが!魔法があんのに何でわざわざ筋肉を強くするんだよ!!筋トレしつつ肉体強化のでも覚えりゃ良かっただろーよ!なんか俺も肉体強化できるっぽいしな!」

 「なッ・・・!」

 どうやら考えつかなかったみてーだな。やっぱ阿保じゃねーか。

 「・・・あの」

 「親ナシが!俺のこと馬鹿にしやがってェ!!」

 「ああ?事実だと思ったから気にしてんじゃねーの?」

 「あのぉ」

 「死ねクソ犬がァ!!!!!!」

 「てめーごときに殺されっかよ!」

 「アア゛!?」

 「あのっ!聞いてくだ―――――――」

 「死ね、クソ犬がア!!」

 「返り討ちにしてやるよ、筋肉だるま!」

 俺の拳は谷口の頬を穿ち、谷口の拳は俺の腹をめがけて走る―――――前に、止められた。

 「止めな、榮一」

 「止まれ、犬山。お前も、王女殿下の話聞くべきだ」

 谷口を止めたのは、藤原晃大ふじわらあきひろ。兎が大好きで家に十二匹の兎を狩っていると豪語していた猛者だ。ある意味。

 ま、あいつはボクシング部の期待の新人だったはずだ。あののろのろパンチを受け止めるぐらいやってのけるだろ。しっかし、俺のグーは結構早かったと思うんだがなぁ。

 俺は、木原に止められた。流石空手部というべきか。

 「うぅ。ありがとうございます、アキヒロ様、タケル様ぁ。もう、私では心が折れそうでした・・・」

 あーあ、海溝王女様が泣いちまってるよ。

 顔怖いってよ、谷口。

 「「「「「お前もだよ」」」」」

 総意はひどくね!?

 特に、天狼院妹や、八坂まで頷いてんのが地味につらい!

 「ふぅ、ふぅ。お話をさせていただきますね。明日からここに残ると決めていただいたお方々には戦闘訓練をしていただきたいと思います。称号や、適性の関係で、研究職などの方にご興味があられる方も、一通りの戦闘訓練はしていただきたいです。タケル様は・・・どうなさいますか?」

 「ふむ。オレもいいのかい?」

 「ええ、もちろんですわ。身体能力向上などの魔法であれば、工事現場でも重宝されるでしょう。また、地属性魔法であればさらに使い道がありますわ。・・・ところで、トーゴ様はどうなさるおつもりでしょうか?」

 俺?んなもん決まってるよ。

 「いらねー」

 王女様がメッチャびっくりした顔してる。(笑)。

 「な、何故でしょう?トーゴ様は自由に生きたいと仰せになられたとお聞きしましたし、自由な職業といえば冒険者というのが相場ですし・・・」

 「なぁ、王女さん」

 「は、はい!」

 「いや、そんな気張るなって。そもそもさ、自由に生きたいとは言ったが、自由な職に就きたいとは言ってねーんだぜ?まぁ、冒険者になりてーとは思うがな」

 「でしたら、更に戦闘訓練は必要では・・・?」

 「いや、要らねーな。俺はな、死んだら死んだで別にいいんだ。なぜかっつーとな、俺は人生を俺らしく生きてーんだ。バーさんに誓ってるんだよ。俺は楽しく生きるっつって。楽しけりゃあいい。何でもいい。親ナシって言われてるから分かるとは思うけど、俺は孤児だ。俺のバーさん、犬山麗良に拾われただけのな。だから別にいーんだよ。俺に時間使うなら、他の奴に使え。強い勇者とそのパーティにして、俺のクラスメイトを守ってやれ。それが、“勇者召喚に巻き込まれた”犬山桐吾としての第一の願いだな」

 珍しく真剣に喋ってやったぜ。

 お?意外とみんなが黙ってら。

 「・・・なぁ、犬山」「なぁ、桐吾」

 「あ?何だ高井?それに龍慎も」

 何か龍慎と高井が喋りかけてきた。

 「「熱でもあるのか?」」

 「ああ?はもってんじゃねーよ!!!俺がシリアス作ったらそんなに違和感あんのか!?」

 「「うん」」

 だからはもんなァーー!!!!!!!

 てめーら、俺に恨みでもあんのか!?

 「で、ではトーゴ殿は戦闘訓練なしで良いのですね?ほかの方々は、明日の、そうですね、十来で訓練場に集合ということで――――」

 

 「待って」

 

 これ・・・

 何か鈴でもなったかのような、たった三音にも関わらず歌に聞こえるようなそんな声。

 授業中に最低限聞こえたら運が良い日とまで言われる、クラス一の美声。

 

 「「「「「「「「「「「八坂が、喋ったァァァァァ!?!?!?!?!?」」」」」」」」」」」

 

 男女含め、総勢二十一人が叫んだ。驚きすぎて声も出てねー天狼院姉と谷口、斜に構えてるけどまじまじとした目を隠しきれてない川北、ゲラゲラ笑ってる小暮、そもそも叫ぶところが想像できないお嬢様な天狼院妹。

 そんでだ。

 「ああ、無口美女キャラの第一声における驚きのハーモニー!これぞファンタジー!ここで、モブキャラたる木原君についていくか、完全モブか主人公の二択である犬山君についていくかで、ギャルゲーかハーレムライトノベルかに分かれるぅ!!もう、この二択はまるで神の二択だよ!もうこれは、乃蒼ちゃんヒロインコースで決まりだよね、ね!!」

 何かトリップしてる・・・

 あぶねー奴がいる・・・

 しかも、完全モブか主人公の二択って・・・俺、あいつの中でどーいうキャラなんだ。

 「いいね、良いね!!」

 何か目が逝っちゃってるおかっぱのあいつは中野悠なかのゆう

 クラス一のオタクで中二病女だ。

 微妙にこえーやつでもある。いろんな意味で。

 ま、自分が主人公だって思ってねーだけましか・・・

 「あの、どうなさいましたか、ノア様?」

 「様、要らない。乃蒼でいい」

 ほう、そこからか。なかなか。

 「私も出る。訓練要らない。その代わり、国で一番の医療師を紹介して」

 おお!?

 医療師!?

 八坂って、医師志望だったのか?

 「個性称号ユニーク、私の、【癒せしもの】。治療系魔法を全習得。戦うのは嫌。貴族を治すのも嫌。田舎で治療院開きたい」

 「すげえ、乃蒼ちゃんスローライフまっしぐらだぁ!もう、このクラス主人公多すぎだよお!」

 「中野は黙ってろ!」

 取り敢えず黙らしとけ。アイアンクローで持ち上げる。

 中野は精々140cm。俺は180近い。持ち上げんのも簡単だよな。

 「ちょ、痛いッ!痛いよ!犬山君、ステーイ!!ホームッ!」

 「犬小屋がねーだろーが!そう言うギャグはちゃんと小道具揃えてからしろよ!」

 「そこじゃないだろう、犬山」

 高井よ、呆れた目をするんじゃない。ギャグというのには準備と綿密な―――――

 「ごめん皆。盛り上がってきたところ悪いけどさ、ボクも思うところあるんだよね」

 「どうしたんだい?瑠偉」

 倉持の言葉に龍慎が答える。

 因みに、倉持は倉持くらもち・ランジェレスカ・瑠偉るいというのが本名だ。

 龍慎、高井、倉持の三人がうちのクラスの、っつーか学年のイケメントップスリーだ。

 因みに、女子の方は八坂、青原夏希あおはらなつき金田織姫かねだおりひめの三人だな。

 「ボクの称号なんだけどさ、【空ろへと変わるもの】なんだ。言葉じゃ全く分かんない称号だし、これから訓練するんだったら、自分に合った訓練したいよね」

 「そうだね。僕もそう思うよ」

 「ならさ、これからも話し合いするんでしょ?そこでさ、皆の称号をリストアップしない?剣士なら剣士に教わった方がいいし、魔法使いになるなら魔法使いの師匠がいいよね?」

 「確かに」

 おうおう、そうやってこれからについてイケメンズが話し合ってるとこ悪いがよー。

 「俺は見せねーぞ?」

 「はぁ?何言ってんの、クソ犬!龍が頷いてるんだから、そっちが正しいに決まって――――」

 「じゃあさ、お前は俺の敵にならない可能性がねーのか?」

 そう。俺が考えてるのはそこだ。

 こいつらが敵になる可能性もある。

 俺は自由に生きると言った。もしかしたら何かあってこいつらと、というか、と敵対する可能性が無いわけがねー。

 「桐吾、君は僕を信じられないかい?」

 「いや?龍慎は信じられるさ。だが、どっちかっつーとこの国とか、世界とか、俺の事嫌いなヤンキー女とか脳筋が信じられねーんだよ」

 これは本音だ。

 俺は中二病が未だに燻ぶってると知ってる。ラノベは愛読書だ。

 だからこそ、ダークファンタジー的な奴も読んできた。

 それは、異世界を信じるに値しないようにさせるだけの現実味がある悪意だった。

 だから、信じられるかって言うと、少し首をひねらねーとなんねー。

 

 「・・・」

 あ。

 「そう言うことは、この国の王女様の前で言うものじゃないだろう・・・」

 ・・・

 「・・・」

 ・・・

 「・・・」

 ・・・ち、沈黙が辛い・・・

 「ま、まあまあ。桐吾も悪気があって言ったわけではありません。何卒お許しください」

 大きく龍慎が頭を下げる。

 流石に俺も罪悪感が・・・

 そこまで深くはないがしっかりと頭を下げておく。

 何か、後ろで真白が何か言おうとして止められた気配がする。

 ま、龍慎至上主義のヤンキー女の事だ。どーせ、『お前の失敗で龍が頭を下げたんだぞ!しっかり謝れよ!』とか、『こんなクソ犬のことで龍が頭を下げる必要なんてない!』とか言おうとしたんだろうな。

 「・・・いえ、気にしておりません。確かに、此方が勝手にお呼びしましたし、信じられないのも仕方のないことです」

 あ、そんなこと考えたんだ。

 何かごめん。

 「いえ、そんなことはありません。私たちは殿下方の好意で訓練を受けて生き延びる時間を与えられたのです。寧ろこちらは感謝の意しか存在しません」

 柔らかに、きっちりと龍慎が王女様の言い分を否定する。

 「私たちの中に、王女殿下方を恨むものはいません。王女殿下方がこの世界のために必死であることは女神様から聞いていますし、元の世界で本当に大事だったものはここに全てあります。私が元の世界で執着していたのは、“友達と過ごす時間”でして。こちらに友達がいる以上、寂しさなどものでもないのですよ。それに、私、いえ、僕個人としてマリアナ殿下とは友達になりたいですからね」

 「リューシン様・・・」

 龍慎の誑し。

 王女様の目はうるんで、もう一押しでハートが出そうだぜ。

 ハーフの倉持や勇者という看板までついた高井より先に異世界の女をたぶらかすとは、やっぱりえげつねー奴だよな。

 クラスの奴らもまたか、みてーな顔だし。

 真白が新しいライバルだ!って顔してやがる。

 「姫様、勇者様方。大浴場の準備が完了しました。夕餉の前に入浴なさいますか?」

 お?風呂があんのか!

 こーいうラノベだと風呂文化がすくねーんだが、ここはあるんだな。

 「では皆さま、王家自慢の大浴場にお招きいたしますわ。男性用にはこの、執事長マルムハットに案内をさせますわ。私は女性の皆様を案内いたします」

 「王城で執事の長を務めさせていただいております、カイラーオ・ナム・マルムハットと申します。どうかよろしくお願いいたします」

 白髪をオールバックにした老人だが、背筋はピンと伸びていて執事服の下にはしなやかな筋肉があるっぽい。テンプレから言うとこのじーさんも強いんだが・・・

 「このマルムハットは先代の近衛騎士団長も務めておりましたの。・・・そのせいで王城の執事の方が近衛騎士の一部隊より強力ですわ(ボソッ)」

 な、何か小声できこえた。

 ちょっと執事部隊と会うのこえーな。

 

 この後、全員で風呂に行った。

 修学旅行のノリだったと言っておこう。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 フィニアさんは部屋からどこかへ行った。フィニアさんがいる時から窓は開けている。青白い月が暗い夜空に映える。

 俺はステータスカードと夕食後に全員に配られたお小遣いを鞄――――といっても紐で縛るプールバッグみてーな奴―――――に入れた。

 このほかに必要なもんはない。

 ここの部屋は三階。

 分かる――――――――――今なら飛び降りられる。

 分かる――――――――――今飛び降りれば見つかることはない。

 鞄をもって、学ランを着崩し、窓の桟に足を掛ける。

 「じゃーな、龍慎とその他」

 呟いて俺は、体を夜の暗闇に溶け込ませた。

 

 お別れだ。

 次あっても、敵か味方か分からねー。

 

 

 楽しくやれよ。

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