魔法測定。身体測定じゃねーらしい。

 「犬山、自業自得だ」

 高井が俺を呆れた目で見る。

 「いや、お前今日はよく喋るな」

 一応突っ込んどこーか。

 国王の前でいきなり喋りだすとか、ニ、三時間前の高井を知る俺からしたら、ありえねー話だって思う。

 「俺の名前は、犬山桐吾」

 うーん。

 龍慎も高井も、ステータスプレートについて変なこと言ってたが・・・

 あ、因みにステータスプレートはフィニアさんがくれた。起きた時に横の机に置いてあったから、何なのか聞いたらステータスプレートだと教えてくれた。

 ほかのメイドさんたちもしてるみてーだが、ちゃんと登録もした。

 ん?

 そういえば、俺たちって何時間寝てたんだろ。

 ま、いいや。とりあえず、ステータスオープン!

 ・・・・・・言ってみたかったんだ。気にするな。

 

 ―――――――――――――――――――

 名前:犬山・トーゴ

 年齢:10才

 職業:なし

 称号:【犬の牙】(隠蔽可能)

 備考:人狼。『人』『狼』『変化』属性。(隠蔽可能)

 ―――――――――――――――――――


 こんなんだ。

 さあ、諸君。

 はぁ?って思ったことがあると思う。

 そう!年齢だ!

 10才て。小学生かっての。

 だがしかし、お忘れなく。この世界じゃあ一陽天602日だ。地球的に言えば、一年六百二日。年齢も低くなるってもんよ!

 「ステータスプレート的に言えば、俺の名は犬山・トーゴ。俺には家名がある」

 ほえ?っていう顔してる龍慎と高井がマジおもれー。

 「ほう。何故か分かるのだろうか?ほかの方々は驚いておることから貴殿ののみだと思うが」

 髭を少し触りながら王様は俺に聞く。

 知んねーよ、って言いたいが多分分かる。

 「多分、女神は前の世界で執着が強かったものをこちらの世界でも与えてくれている。俺は名字にかなり執着してたっつーか、そんな感じだったから、家名が残ってるんだと思う。ま、問題ねーだろ。無駄に言わなきゃいいんだし」

 ラノベみてーに門番がいても精々没落貴族の放蕩息子とでも思われんじゃねーの?

 「ふむふむ。それが良いと思うぞ。少なくともこの国では貴族しか家名を持たぬ。我が国に属してくれるのであらば是が非でも爵位を渡すが、貴殿は見たところ自由を好む性質であろう?」

 ほー。王様って意外と人を見る目があるようだ。

 って、なかったら困るか。

 「ああ。俺はあっちの世界で執着してたものがこっちで与えられてんだから自由に生きたい。明日には城から出る。迷惑はかけねーが、あんたらが俺たちを呼んだことに関しては協力できねー。わざわざ自分の人生をよく知らねー奴らのために費やそうとも思わねーし、俺のやりてーよう生きたいから」

 俺の本心は終わりだ。

 事実、この世界の方が俺の夢は叶えやすそうだ。

 「と、桐吾。国王陛下だから。もう少し敬語を使おう・・・」

 小さい声で龍慎が耳打ちしてくるが、知らねー。こっちに呼んだっていう罪悪感を持ってそーなんだからつけこんで多少の無礼は別にいいだろ。構わんって。

 寧ろ少しぐらい無礼な態度をしてくる奴がいねーと安心できねーだろ。人間、理解ある奴だけじゃねーんだから。これは需要と供給にあってるっつーんだ。

 気にすんな龍慎!

 「気にするわ!」

 「あれ?聞こえてた?」

 「なんかわかった」

 ふざけるな。何でサトリになってるんだ。お前精霊だろ。

 「良い相棒同士のようじゃな。トーゴ殿じゃったか?お主は自由を求めるのであれば、他の彼らの事はよいのか?」

 王様が興味津々で聞いてくる。この人ゴシップ好きか?

 「ま、いいさ。俺はそこまでクラスになじんでたわけじゃねー。龍慎がいたからどうにかなってただけだし、そもそもあんまりこいつらには執着してねーんだ。バーさんのことも馬鹿にするし、犬のことも馬鹿にしやがるし。それに龍慎が居りゃ問題ねーだろ。高井の補助もクラスのまとめ役も何でもこなせる。過労死させなけりゃあ無事だろ」

 王様はふむふむって頷いてる。これからの行動でも練ってんだろーか。

 「ところでこれより食事なのだが、その後魔力測定をしてみぬか?貴殿らは儂等の勝手な都合で呼んでしまっているのだ。自由にしてもらいたいが、ある程度の実力を測らせてもらえれば旅をするときの助言なども渡せるのでな。トーゴ殿も助言はあった方がいいじゃろう?」

 魔力測定だと?

 その厨二心をくすぐる素敵な言葉は聞き捨てならん。

 「是非に受けさせてもらう。そんな楽しそうなイベントは逃せねー!」

 小暮も頷いているのが横目に見えた。

 仲間だな。

 「そうかそうか。なれば用意しよう」

 王様はちらりと隣の大臣風の人に目をやると、椅子に座った。

 あの馬鹿に豪華な椅子だ。

 「それでは食事を始めよう。貴殿らも空腹を耐え続けるのはつらいだろう?儂の様な老人もそうなのだから」

 そう言って少し笑いを取ると、俺たちを席につかせ始めた。

 いつの間にか大臣風の人はいなくなっている。仕事はえーな。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「じゃあ最初はだれがやるかい?」

 龍慎が皆の前に立って初めにやりてー奴を探してる。

 俺は別に良ーけど、そこは勇者がやるっつーのがテンプレだろ。

 「おし、行け高井!」

 言葉に出しておくべきだ。ビバテンプレ踏襲!

 ビバって古いか?

 「何で僕なんだ。君がやれよ犬山」

 「いや、勇者がやってその後に続く。それこそ王道だろ?俺は阿保共が言うに雑魚らしーからな。雑魚は最後にやって笑われてやるのが使命だ。・・・もしくは見返してやるのがな」

 ニヤッと笑っておこう。

 最後の方は高井にしか聞こえてねーはずだ。

 「・・・仕方ない。僕がやろう。ただし貸し一つだ犬山」

 ケチくせーな。

 ま、いいさ。三倍ぐらいに返してやる。

 「ふむ、では勇者殿からということかの?」

 静かに高井は壇上に上がる。何か決まってやがる。くっイケメンはいいよな。中身根暗でも様になる。

 「それでは説明させていただきます」

 藍色の髪色の少女が喋り始めた。この子誰。

 「取り敢えず自己紹介から。私はシンフォード聖王国第四王女シンフォード・ウリアス・マリアナと申します。どうぞ気軽にマリアナと呼んでいただければ嬉しいですわ」

 さあ、こう思った人挙手!

 せーのーで。

 「「「「「  海溝だあ  」」」」」

 ぱちぱちー。

 五人の声が揃いましたー。その五人とは!

 見た感じ、小暮と真白、それに川北翔かわきたしょうと天狼院家の双子の姉である天狼院祐奈てんろういんゆな。最後にボソッと呟いてた高井の五人でした。

 「ちょっ!結城!美姫!祐奈さんと川北も!失礼だろ!」

 慌てて龍慎が取り繕ってやがる。あッはッは。

 「あら?かいこうとは何でしょう?それに失礼とはいったいどういう・・・?」

 少し微笑んで首を傾げる王女様だが、何か後ろに大蛇が見える。

 これは失礼なことを言ったのかって怒ってる感じだな。ま、どーでもいいけど。

 「本当に申し訳ございません、王女殿下!少しお灸を据えておきますので、ここは何卒ご寛容にッ!」

 龍慎が土下座でもしそーな雰囲気だな。

 「どーでもいーだろ。さっさと始めようぜ。後、海溝ってのは海の底にある大きい溝だ。俺らのいた世界にはマリアナ海溝っつーのがあったんだよ。だから反応した、それだけ。ちゃっちゃと説明!」

 心底どーでもいーんだよ!小暮や真白が怒られようがなぁ!

 「桐吾!?おま、礼儀は持てェッ!」

 龍慎の心の叫びが炸裂。

 犬山桐吾は被弾。左翼損傷。

 龍慎の心の叫びの副次効果によりクラスメイトからの冷たい視線と非難の視線。

 犬山桐吾に被弾。右翼損傷。

 犬山桐吾の奥義、気にしないを発動。損傷結果を改竄。無傷状態へ移行します。

 「あのー。説明を始めてもらっていいでしょうか・・・?」

 高井、お前は勇者だよ。

 多分さっき自分も呟いたからそれに対する罪悪感だと思うがな!

 「あ。申し訳ございません。では説明を始めますね」

 にっこりと王女様は笑った。

 「この水晶が見えますでしょうか」

 そうして示したのは何か台座においてあるでっかい水晶だった。プリズムっつーのか何かカクカクしてるやつ。

 「この水晶にまずは息を吹きかけます。その時に水晶が光るのですが、その光の強さで放出魔力量を表しています。次に血を取り、この水晶の台座につけます。すると水晶がまた光りまして、その光の強さで体内霊力量を測ります。因みに、使用後浄化の魔法が自動で発動しますので掃除要らずですわ」

 ニコニコしながら説明するねー。

 血を取るって辺りで何人か引いてんの分かってんのかー?

 「では勇者様。どうぞおためしになってくださいませ。それとも私が先に実演しましょうか?」

 「いや、いい。僕がやろう」

 おお、男前じゃねーの。

 高井の成長が著しい。よくやったなぁ、父さんは嬉しいぞ!

 ・・・こんなん何かね、父さんってのは?

 「では、どうぞ」

 そう言って王女様は一歩引く。そんで高いが一歩出る。

 高井が息を吹きかけると・・・

 なんか、光った?あれ?光ったのか?

 「これは素晴らしいですね。放出魔力量は常人の数倍ありますわ!」

 王女さんよ、こりゃあいってえどういうことか説明貰えますかね?

 豆電球の四分の三ぐらいの光が常人の数倍って。常人どうやって見分けてんだ?

 「因みに、この放出魔力量と体内霊力量、面倒なので魔力量と霊力量といいますが、この関係は種族によってかなり異なりますわ。魔力量と霊力量が全く同じ種族もあれば、魔力量がほとんどゼロになる種族もありますわ。前者の代表は精霊ですし、後者の代表は獣人ですわ。獣人は霊力の数千分の一しか魔力がと言われてますの」

 おいおい・・・

 「あの、僕は竜の獣人なんですが・・・」

 「え!?」

 王女様が目を丸くしている。おもしれーな、オイ。

 ならどーなるんだよ。

 高井が指の先を切り、台座に指を付けると・・・

 「うわッ!」

 「マブっ!」

 パーティーだぜ。

 そう、まるでパーティー会場の様な煌びやかな光を水晶が発した。

 「―――――ぅう・・・」

 高井は目が潰れったっぽい。めっちゃしゃがんで蹲ってる。

 「だ、大丈夫ですか?」

 王女様がすげー心配してんな。

 俺?俺はこうなるだろーと思ったから、瞬間目え瞑って逃げてやったぜ。

 「だ、いじょうぶ、だと思う・・・」

 高井、そりゃあ信憑性がゼロってもんだ。

 「勇者様のスペックを見誤っておりましたわ・・・」

 王女様はそう言うけどよ、誰でもわからんて。高井だぜ?

 「王女様は大丈夫そーだけどよ、なんでだ?」

 気になった。

 「え?ああ。私は王族ですので感覚防御の魔道具を身に付けています。魔力光などで目つぶしをされた場合その光を目に入れないという形ですわ」

 「そりゃスゲーな。そういうの欲しーぜ」

 「あの、貴方様は?」

 「ああ、俺はトーゴ。一応異世界人じゃああるが、勇者の仲間はしねーつもりだ。面倒だからな」

 「ああ、お父様が言ってらした自由人様ですね」

 「悪意あるだろ・・・」

 「いえ?」

 「何でもねーよ」

 「ええと・・・」

 「よし、龍慎、任せた!お前に依頼する、この場を納めてくれ!」

 「なんでも僕に振るな!」

 「あの、貴方様は?」

 おお、全く同じセリフだ。

 「ああ、私はリューシンと申します。王女殿下、お見知りおきください」

 「敬語は無くてよろしいですわ。私はこれが地なので悪しからずお願いしますが、貴方様方の方が立場は上ですわ」

 「王女殿下に敬語を使われるほど高尚な人間ではありませんよ、先ほどから正しい敬語になっているかどうか心底怯えているくらいですしね」

 龍慎の奴がにっこりと笑う。

 王女様が頬を染める。

 真白がぽおっとする。

 小暮や木原がフラグの予感にニヤニヤする。

 うん、平常運転だ。いつものことだよな。

 


 みんな終わった。

 次は俺の番だ。

 ん?ほかの奴?

 霊力量のトップ5が知りたいって?

 順番に言ってやろうか?

 高井>真白>龍慎>八坂>天狼院(妹)だ。

 妹ってのは天狼院沙耶てんろういんさやだな。姉と違って高飛車じゃねー、おしとやかな性格だ。

 あと、まさかの真白が龍慎より上だとは思わなかったけどな。んあ?谷口ィ?下から数えて一番目だったな。脳筋だよ。次小暮だったがな。

 さあ、俺の番だ。ちゃっちゃとやるぞ

 

 「では、お願いしますね?」

 「へいへい」

 息を吹きかける。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・何も起こらねー。

 おいおい、まさか魔力ゼロか?

 って言う奴ぜってーいるぜ。

 「・・・ええと・・・」

 「おいおいおいおいおい、親ナシクソ犬!魔力ねーのかよ!」

 「お前も似たよーなもんだろ阿保。そもそも俺は人狼だよ。魔力ゼロは予想できるだろーが」

 「・・・え?人狼?」

 ありょ?言ってなかったけ?

 「おう。女神に変えてもらった。とりあえず血だっけ?」

 「・・・あ!は、はい!」

 王女様は何かパニクっております。

 「よっと」

 声に出して人差し指を噛み千切った。

 「おお・・・ワイルドだな、犬山」

 「高井、お前ほんとに高井か?俺が知ってる高井は何もしゃべらねーコミュ障なんだが」

 「酷いな・・・」

 いや、そんなもんだろーよ。

 ポンっと台座に指を付けた。

 そして水晶は―――――

 

 ―――――割れた。

 

 『『『は?』』』

 全員の声が揃った。

 おお、見返せた。変な意味で。

 「いや、割れるってなんだよ・・・」

 高井の声には虚しさが多分に含まれていた。

 いや、ほんと割れるってどういうことだろーな。

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