俺、人外になりました。

 目が覚めた。

 おりょ?知らねー天井だ。

 ・・・様式美だよな。

 だがまあ、ほんとーに知らねー天井ではある。

 俺の下にはめちゃくちゃでけえベッドがある。俺が三人ぐらい寝ても余裕あるぞ。

 あ、腹減った。

 何か食いもん。

 俺はそう思ってベッドから出る。んで、扉を探すと・・・目が合った。

 「うわッ!誰!?」

 メイドだ。メイドさんだ。

 メイド服着た美人が立っていた。

 「初めまして。私、イオラ・ティ・フィニアと申します。貴方様の世話係を命じられました」

 かーてしーっつーんだっけ?

 すっげー綺麗な礼をしてきた。

 世話係て・・・

 俺、自分で大体できるんだけどなぁ。

 「世界の常識を教える仕事も申し付かっております」

 心読み、だと・・・!

 ドジ神と同じことが出来るのかこやつ!

 「顔に出ております」

 「あら。マジか。俺は、桐吾。トーゴだ。どっちが言いやすい?」

 「では、トーゴ様と。お食事の用意が出来ておりますが」

 「食う」

 そんなもの聞かなくてよろしい。

 こういう時こそ心読みを使うべきであろう。ふっふっふ。

 「で?イオラさんだっけ?食事ってここで食べれんの?どっか行かにゃならんの?」

 「予定では食堂にご案内いたしますが、此方でのお食事がいいと仰るのであれば、持ってこさせます。他の勇者様方も食堂で食べる予定となっておりますが」

 ふーん。

 どっちでもいーや。

 「因みに、どっちのが早い?」

 こっちに持ってくる方が早いんならここで食う。

 「食堂に用意が整っておりますので、向かわれた方がよろしいかと」

 「打算抜きで?」

 ぜってー何か聞かされるでしょーよ。

 俺はめんどくせーの嫌いだから、本当に早くねーと行きたくねーんだが。

 「・・・ここから食堂の方に向かいまして、迎賓食堂ですので八歌程、食事を持ってこさせる場合は連絡と食事を運ぶ時間が加わりますので、十歌程になるかと」

 歌?

 「歌って何?」

 「あ、申し訳ございません。この世界においては、一日二十来で時間が流れております」

 へー。二十四時間=二十来ってことか。つまり一来七十二分か。

 「一来を二十分割した時間の単位を歌と申します。これは吟遊詩人が一つの歌を歌うのに要する時間から始まったと言われております」

 「じゃあ、一歌ってのは、3.6分ってことだな。ま、三分三十六秒か。分かりにくいな」

 「分、ですか・・・?」

 「ああ、俺のいた世界の時間単位だよ。こっちだと歌が時間の最小単位っぽいけど、もっと小さい所まで時間単位があったんだ。歌の二百十六分の一まで分けててな」

 「それは、凄いですね」

 ほんと、秒刻みで仕事がある人いるらしーからな。

 ま、あのままあっちにいても肉体作業系につくことになったろうし、別に良ーけど。

 「で、一年何日だ?」

 そこは聞いとかなきゃな。自分の誕生日がどーなんのやら。

 「五日で一巡、六巡で一天。二十天で一陽天となっていますが、年とは・・・」

 「ああ、年も俺たちの世界の単位だ。多分、こっちの陽天にあたるんだろーな。しっかし、一陽天六百日か・・・なっげえ」

 「いえ、六百二日でございます。新日あらたび終日おわりびがございますので」

 あらたび?新日・・・正月か?

 「新年へと切り替わる二日間のみは、天の区切りから外れております。陽天の始まりを新日、陽天の終わりを終日と言います」

 へー。ま、いいや。

 「飯食いに行こう。食堂への案内たのむ。早いほーがいい」

 「分かりました。私の後へついてきていただきましたら、つきますので」

 そう言ってイオラさんはドアを開いて外へ出る。

 こういう時って名前で呼ばねーとならんもんな。

 めんどくせー。それでいて、貴族だったら家名も覚えにゃならんと。

 そう考えた瞬間、イオラさんはこっちを振り向いた。

 「そういえば、言い忘れておりましたが、私、名前をフィニアと申します。イオラは家名ですので、フィニアと呼んでいただければ光栄です」

 え・・・?

 「この世界では、基本的に、家名、挟み名、名前の順番ですので。平民は勿論家名はありませんが、樹住族と蛇蝎族のみ、名が家名の前に来ます。基本、家名で呼ぶのはその家の当主のみですので。私の家は天爵家ですので、父はイオラ天爵と呼ばれます」

 天爵だと?

 爵位の名前もちげーのかよ。俺が知ってんのは、公爵侯爵伯爵子爵男爵なんだけどな。でもなんか、天爵ってえらそーだな。・・・あれ?もしかしてフィニアさんってすげー偉い人?

 「その様子を見るに、おそらく爵位も異なるのでしょうね。貴族は上位貴族、下位貴族、華族、王族に分かれます。王族はその名の通りですが、他の貴族は順に華族、準爵、蓮爵、翔爵、天爵、凉爵、戦爵、龍爵と偉くなっていきます。華族は、一代限りの貴族位でして、軍や宮廷で頭角を現した平民に与えられます。準爵から天爵までは下位貴族、凉爵から龍爵までを上位貴族と言います。天爵以上は領地を持つため、領地貴族とも呼ばれます。龍爵は二家しかなく、戦爵は将軍職を持った貴族の称号なので特別です。一般的に数の多い爵位は天爵と翔爵ですのでそこまでお気になさらず」

 へー。半分ぐらい何言ってるか分からんかった。

 「ま、取り敢えずフィニアさんって呼べばいいんだな?」

 「フィニアでもいいのですが」

 「いや、あまり関わり深くない人を名前で呼ぶってだけで大変なのに呼び捨ては無理」

 多少そういうのは俺にもある。


 そういう話をしている間に、食堂についた。

 「ではここで。私は待たせていただきますので、部屋に戻る際はお声がけいただければ。他の場所に行きたい場合も私が案内いたします」

 そう言ってフィニアさんは離れていった。

 ドアをあけ放ったままで。これ、俺が通ったら閉めんのか?

 取り敢えず入ろう。

 ドアをくぐると、そこは新世界!というわけでもなく、普通に宴会場みたいなところだった。

 ん?ちょい待ち、あそこにあるくっそでかい椅子って、何か玉座っぽいんだが・・・

 一番上座にある宝石で彩られた椅子が豪勢で玉座のように見える。

 「桐吾!」

 いきなり声を掛けられた。

 右を向いたら、そこには黒髪黒目のイケメンが――――

 「チッ」

 「オイっ!人の顔見て舌打ちするのはやめろよ!」 

 「龍慎はいつ見てもイケメンだなクソ。こっち来て金髪にでもなってたらファンクラブ広がったんじゃね?」

 イケメン龍慎君だった。

 その周りには三人の取り巻きもいる。

 ほかにも疎らにクラスメイトが居て、俺を含めて二十七人だな。あと一人か。

 「ちょっと、龍の言うこと無視ってどういうこと?調子乗ってんの?」

 ヤンキーが。

 「美姫、桐吾は別にいいさ。これでも面白い奴だからな」

 「ま、阿保だがな。あっはっはっはっは!」

 ヤンキー女こと真白美姫ましろみきと、馬鹿笑いしてるのは、野球部の巨漢、小暮結城こぐれゆうき。龍慎はハンドボール部だから、別に部活が一緒なわけじゃねーがこいつらは仲がいい。真白の啖呵を龍慎が軽く受け流して、勝負に勝ってから真白とは仲がいいし、小暮と龍慎は中学のころから仲がいい。

 因みに、同じ中学から来たのは四人で、全員が同じクラスにいるという訳の分からん自体が起こっている。その最後の一人が、龍慎の取り巻きその三。

 八坂乃蒼やさかのあだ。

 この女凄い美人ではあるが、全く喋らない。授業中に当てられてもポツリと呟くだけで終わるから、必要以外の事を喋っているのを見たことがねー。

 八坂は、小暮の隣の家に住んでいたらしい。小暮が龍慎と仲がいいので龍慎の取り巻きになっている。

 「なぁ、桐吾。やっぱりお前は嫌か?」

 何が、とは言わねー。

 「ああ。俺は俺のやりてーようにやると昨日誓ったばっかりでな。面倒は御免だ」

 「そう、か。まぁ、桐吾はそう言うよな」

 龍慎は苦笑いだ。

 俺のことを分かってくれる親友がいるってのはいいよな。

 「ねえ、何の話だよ。アタシにも分かるように話してくれよ、龍」

 真白がうるせー。

 「ア゛?聞こえてんぞワンコロ」

 「知らねーよ、ヤンキー女」

 鋭すぎる睨みをくれやがったので、こっちも睨む。

 俺だってたまにそっちの人間かと思われるぐらいの顔をしてるって言われんだ。ヤンキーかぶれの雑魚に負けるか。

 「あっはっはっはっは!ヤクザと殺し屋のにらみ合いだな!」

 「煩いよ、コグ!てか、どっちがヤクザだよ!」

 てめーだよ。って、俺は殺し屋かよ。

 「お前がヤクザだよ、美姫。殺し屋みてえな顔してるのはヤマイヌの方だろうが。自覚あんだろ?お前ら」

 小暮は阿保丸出しだがな。俺にはもうそろそろ関係ねーことになるだろーがな。

 「済まない、遅れてしまったようだ」

 またドアが開いて、物静かな男が入ってきた。こいつで最後だ。

 「大丈夫か、高井?かなり遅かったが・・・」

 「済まない委員長。僕は色々と疲れてしまってね。―――――全く、僕が勇者とかありえない・・・」

 声が小さく聞き取り辛い。

 これもまた、こいつの個性ではあるんだろーけど、面倒でもある。

 高井雄介たかいゆうすけ。あんまり喋らないし、関わらねー奴の一人。身長が高く、190を超えている。顔も引き締まっていて、外面だけを見た時の人気は龍慎にも劣らねー。しかし、ずっと本を読んでいることや、自信なさげな言動が影を薄くしている。

 「犬山、少し聞いていいか?」

 「んあ?俺か?」

 高井が話しかけてきただと!?

 雹でもふんのか?

 「ものすごく貶されている気がする」

 「あながち間違いじゃねー」

 「はぁ・・・・・・取り敢えず少し顔を貸してくれ」

 「ま、良いぜ。だが、お前と俺にゃあんまかかわりがねーと思うんだが」

 「そこら辺も含めて話し合いたいことがある。君の『願い』についてとか」

 キランと目が光った気がする。高井ってこんな奴だっけ?

 俺と高井は少し離れて壁際まで来る。他の奴は特に注目もしていない。龍慎や小暮なんかは少し気になっているようだったが、関係ねー。

 「で?話って何だ?」

 「女神さまより聞いた。君も、種族を変えたのか?」

 「も?」

 「僕も、なんだ。女神さまは言っていたよ。三人、種族を変えた、と。君の名前は出していたけど、もう一人が分からない」

 「取り敢えず、話変えるがよ、女神の格好で現れたか?あのドジ神」

 「ドジ神?神々しい感じの女神様だったけれど・・・」

 「俺の時はな、じじいの姿で現れて、舌噛んで阿保晒してたんだ。話もむだになげーしよ」

 「そ、そうかい?しっかりと説明をしてくれていると感じたけれど・・・」

 「で?勇者様?お前の種族なんだ?」

 「な!?何故、僕の称号を・・・」

 心底驚いたー、って感じだが、さっきぶつぶつ呟いてたろーがよ。人狼になったおかげか、耳がよくきこえるし、鼻もよくなった。

 「僕は、僕の種族は竜の獣人だ。頑張って隠しているけど、両手両足は鱗に覆われてるし、髪の毛で隠れているけど、側頭部から小さな角も生えてる。力を入れれば、尻尾や翼、牙も出せるみたいだ」

 「ほー。すげーな。俺は人狼だ。ま、お前ほどわかりやすくはねーが、かっこいーだろ」

 竜なんつーでっけートカゲより狼の方が圧倒的にカッコいい。世界の真理だ。

 「君の趣味は分からないけれど、僕も人狼はなんだかかっこいいと思うよ。さっきも言ったけど、僕の称号は【魔本の勇者】。何故か分からないけれど、僕が勇者らしい。何故委員長じゃないんだろうか」

 「知らねーよ。龍慎ならまとめ役はやるだろ。何か、守護者とか、そのタイプの称号あったりしそーだし」

 マジあり得る。龍慎なら俺たちを守るとか言い出しそうだし。

 「みんな揃ったし集まらないか?これからの方針を決めよう!」

 わー。考えたそばからやりやがった。

 ま、どーせリーダーは龍慎だろ。これだけは変わんねーだろーな。

 「まずは、自分たちの中で情報を共有しよう。寝ている間に女神さまが話しかけてくれたと思う。みんな、称号とその効果を確認した?僕の称号は【友愛の守護者】だった。効果は、友達だと、友情を抱いている相手に防御を付与することらしい」

 「おいおいおい、そういうのって言っていいんかよ。切り札にもなんだろうが」

 おお、誰だか知らんがすげー正しいこと言った。

 切り札はむやみやたらと晒すもんじゃねー。俺の称号だって、知られちゃなんねー切り札みてーなところがある。龍慎のは常時発動っぽいからいいと思うなかれ。

 これ、精神系の攻撃にぜってー弱い。裏切りとかがあった場合、龍慎は心壊すわ、クラスメートは防御能力減るわでデメリットが多すぎ。頑張れ龍慎。

 「問題ないさ、川北。君たちを守るために手に入れた力だ。君たちは僕の敵じゃあないだろ?なら、秘密の方がよくないだろ?」

 パチンとウインクしながら気障ったらしく言う龍慎。

 あーあ、三人ぐらい目がハートだよ。

 特に真白が気持ちわりー。鋭い猛禽みたいな目がハート振り撒いてんだぜ?吐く。

 「ア゛?なんだ、心ん中で文句でも言いやがった奴いんな?」

 うわぁ、めんどくさ。ヤンキーのデレとか誰得。俺はいんねー。


 「あと、僕は、女神さまに頼んで、種族を変えてもらった」

 

 ・・・・・・・・・・・・は?

 龍慎が三人目かよ。

 はぐれる予定の俺、勇者の高井、リーダーの龍慎。

 なかなか濃い部分の奴らが人外になるとはなー。

 めんどくさ。

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