ドジ神様の異世界説明

白い白い、何処までも白い空間だった。

 静かに静かに。

 俺はそれだけを意識した。そうしないといけない気がさせられた。

 そこに現れたのは、何かすごいオーラを発したじじいだった。

 髭が長い。

 ちょび髭じゃねーけど、顎髭が阿保みたいに長い。眉毛も長いし、背は曲がってる。髭も眉も引きずってるけどいいんかね。

 「ふぉっほっほ。ようこそ初めましてじゃな。儂は神でう!?痛ッ!噛んじゃっら・・・」

 どっからどう聞いても、女の声だ。つーか若い。何でじじいになってんの?

 「ふぉ!?お主、何故分かったんですか?いや、分かったのじゃ?」

 いや、戻さなくてよろしい。

 声質で分かるでしょうに。てか、顎髭も眉毛もすっごい付けてる感がある。

 バーさんならここで、静かに付け直してやるんだろーけど、俺はそんなに優しくない。

 「ぷぅ~。神様と言えば荘厳なお爺さんだと思われているようでしたので、合わせましたのに・・・」

 「噛んでる時点で荘厳はねーだろ」

 「ひ、酷くないですか?人の失敗をあざけるなんて!」

 「・・・ほんとに神様か?」

 「神様です!ほんとの本当に神様ったら神様です!!」

 「・・・」

 「嘘だぁ~って思いましたね!?私だって気にしているんです!まだ神様になって四千年も経っていませんもの!仕方ないではないですか!」

 「千年単位ってスパン長くねーか?」

 「そこは、ほら、神様ですから」

 ご都合主義にも程があるぜ。

 「ひ、酷ッ!私、神様ですのに・・・」

 めんどくせー。こいつマジめんどくせーな。後いちいち頭の中を読むとか敵認定して良いよね。

 「ちょ、やめてください。私は、神様ですよ?神様なんですよ?」

 二回言わなくていーだろ。

 つーか、俺、読むなつったよな。やっぱ、敵?

 ぐっと拳を握りしめてみると、老人の姿をした自称神(笑)は手と首をぶんぶん振って否定した。

 ちぇ、つまんねーの。

 「いえ、本当に、本題に入らせていただけません?私、それなりに忙しんですよ?後二十七回も説明を始めないといけないんですから」

 知らねーよ。

 あとここ何処よ。神様の寝床?

 どーなのよ、ドジ神様。

 「ど、ドジ神様・・・酷すぎません?私、神様なんですよ?偉いんですよ?たった四人で世界を見守ってるんですよ?信仰規模は一番大きいんですよ?」

 知らねーよ。俺は無神論者だったの。今更いるって言われても態度かえねーし、崇拝しよう何て思わねーし思えねー。そもそも、俺、家に帰りたいんだけど。家に。

 「大事だから二回言いました、ですか?うふ、楽しいですね」

 死ね。

 「酷い!!流石に今のは酷いです!」

 さて、明日の授業は何だったか。休み時間中に居眠りしたにしては夢がなげーなー。

 明晰夢って起きらんねーんだっけ?

 「明晰夢は予知夢か過去の追体験がほとんどですからね」

 弁当にはやっぱ鮭握りだよな。あと、骨付きのから揚げな。骨についた肉をこそぎ落とすのが何ともたまらん。ああ、早く昼になんねーかなー。

 「あの、無視ですか?おーい、犬山さーん?桐吾く~ん?私の話聞いていただけますかー?」

 夢の中でもねみー。

 さっきから蠅がうるせーな。

 「は、は、蠅・・・ついに無視どころか、虫へとなり果ててしまいました・・・そろそろ泣いても許されるでしょうか・・・?」

 飼うとしたらやっぱハスキーだよな?いや、ポメも捨てがたいが・・・

 柴は勿論飼うけど、洋犬はカッコよさつーか、そう言うのを基準にしてー。でもポメかわいーんだよな。ロクモンは秋田だったけど、マンテンはチワワだったし。ミックスもアリっちゃアリだが、原種の良さにはなー。

 いや、大穴ついて土佐も無きにしも非ずか?

 でも土佐は高いしなー。

 「ごめんなさい。すいません、私が悪うございました。だから無視しないでぇ」

 涙目になってるじじいが一匹。

 女神なんだったら若い元の姿に戻れよ。どーせノリだけでその姿なんだろ?

 「ええ、そうですよ!すっごく頑張って作った私の顔もアナタたちにとっては特に意味が無いのでしょうよ!どうせ、私なんて虫以下のその程度の雑魚キャラなのです・・・ただ美人なだけで」

 じじいだろーが。

 で?

 「あ、ハイ。せえりゃああああ!」

 掛け声の必要性。

 猫のクソより要らんだろーが。

 「うう、鏡の前で八年間練習しましたのに・・・」

 無駄のお時間、頑張ったねー。

 つーか鏡なんてどこにあんだよ。それに八年も練習してそれだったら演技の才能は・・・(笑)。

 「あア゛?」

 怖くねー。へっ。ほんとに神?紙の間違いじゃねーの?

 「誰がッ!紙ですか!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 うっせ。

 マジうっせ。俺に話があんじゃねーのかよ。

 「あ・・・」

 忘れてたのかよ、ドジ神様よぉ。

 「むう・・・・・・・・・」

 頬を膨らますのは、顔の下半分までが女神に変わったキメラじじい。

 キモチ悪い。

 「もう、いいです。いいのです。私なんてどうせ、ダメダメな世界一の美人女神様なだけなのです」

 うわ。うっわ。自信過剰だな。

 すうっと女の顔に戻り、意気消沈してあほなことを言い始める駄目神。

 クラス一の美少女って言われてる奴よりは美人だが、世界一は言い過ぎ。昔見たコスプレ美女の方が可愛かった。

 因みに、その娘は狼女のコスプレだった。犬耳っていいよな。それがたとえ狼耳でも。

 俺はその人の格好が一番の美女だと思う。

 「それ、ただの性癖じゃないですか。というか、犬が好き過ぎるでしょう?だから、そんな称号を手にしたのですか・・・」

 称号?

 何それ、美味しいの?

 「おいしくありません。ああ!やっと本題に入れた!」

 これが本題かよ。すっごいびっくりしたみてーな顔してるけど、自分で言ったんでしょうが。あんたの称号ぜってードジ駄女神でしょ。

 「酷い・・・もう、泣いていいですよね。ぐすっ」

 で?称号って何よ。もう、口にするのも疲れた。

 「先ほどから喋ってませんよね!?――――はぁ、もういいです。とりあえず、この世界についての説明をますね?いいですよね?聞いてもらいますよ?」

 しつこい。五月蠅い。煩わしい。

 「な、何たる口撃か・・・」

 はいはい。さっさと説明プリーズ。

 「はい・・・(もう、私神辞めようかな・・・)」


 そこからの説明は本当に冗長だった。

 要約すると、五行でまとまる。

 1、ここは、四柱の神が管理する異世界である。地球よりもエネルギーが低いため簡単に召喚は出来る。

 2、たまたま、召喚したのが俺のいたクラスで、一人一人に見合う称号と地球で執着していたものを与えられている。

 3、召喚されたのは全員で二十八人、そのうち勇者は一人である。

 4、俺が呼ばれたここで、一つだけ願いを叶えられる。が、あちらに戻すことはエネルギー量の差で不可能、他にも出来ないことはあるため要相談。しかし、ある意味チートな能力は貰える。

 5、俺たちを召喚したのは、シンフォード聖王国で、専制君主制の国である。そこの国教はルナ正教であり、それが奉っているのが目の前のドジ神様らしい。アインド大陸の七大国の一つなのであまり不自由な暮らしは無いと思われる。

 ということだった。

 五行じゃねー、ってのは言うな。内容は五行だろーが。

 「冗長・・・頑張りましたのに。ぐすん」

 体育座りしてる目の前のドジ神がうぜえ。

 これ、マジで神?

 「神様ですよ~。もう、自信なくなってきましたけど」

 あ、今度はへらへらし始めた。キモチ悪。

 「泣きますよ?」

 目がメッチャうるうるしてる。マジで泣くんだ。女神としての威厳なんて雀の涙ほどもねーな。

 あと、称号って何?教わってないんだが。

 「あ」

 「忘れてたんかい!」

 流石に突っ込んじまったぜ。

 「えへへ、ごめんなさい。称号っていうのはですね?その人が持つ特性みたいなものです。称号は二種類ありまして、生まれた時から有する個性称号ユニークとある行動を行った後につく後天性称号ライセンスと言います。個性称号ユニークの方は神ですら管理できません。遊戯の神が作ったのですけどね、遊び心が強すぎて・・・ね?後天性称号ライセンスは遊戯の神が適当に決めた行動により付きますからね。訳の分からない称号もたまにあります。有名なモノは、【竜殺し】ですとか、【大英雄】ですとかですね。訳の分からない者の筆頭は【フライング】、【完全なる空気】などがあります。この称号には、効果がありまして、【竜殺し】でしたら、竜の鱗を自分の肌に出せますし、【大英雄】でしたら同種族との共同戦線において士気の向上が図れます。面白いでしょう?」

 へ~。

 「興味なさそうですね・・・」

 うん。

 生まれた時につくんだったら個性称号ユニークは俺にはねーんだろーし。

 「ありますよ?」

 へ?

 「いや、私、称号あげましたって言いましたよね?それ、貴方方の個性称号ユニークを引き出しただけですから。貴方のは・・・え~と、【犬の牙】ですね」

 【犬の牙】?

 何その称号。

 「あ、あの、落ち込みました?私が決めているわけではないのですが、謝りましょうか?どんな能力かもわからな―――――」

 「めっちゃいいじゃねーか!!なに、【犬の牙】?すっげーかっこいい!しかも、犬!犬だぜ!俺、異世界来てよかったァ!」

 「凄いテンション上がりましたね・・・神様に会っても何の反応もないのに・・・」

 「は?神様なんぞより犬の方がいいだろ」

 何を当たり前のことを。

 「そんな、自然の摂理みたいに・・・がく。私、ふて寝してもいいと思います」

 がくを自分で言ってる辺り救えねーと思うんだがな。

 あと、【犬の牙】の能力って何?無茶苦茶気になる!

 「それは、目覚めてから見てください。教会発行のステータスカードで確認できますから。名前と年齢と、称号と備考が乗るようになっています。あと、職業と。貴方方の記憶から良いなと思う制度が見つかりましたので、適用させていただきました」

 未だにこっちを向かずに壁に額つけて沈んでいるドジ神のお言葉でした。

 ステータスカードって。何てテンプレな。

 ん?ちょい待て。

 俺たちの記憶から――――?

 「はい。面白い制度だと思いましたのでこの世界の概念に加えさせていただきました。世界の記憶を改変するのは簡単ですから」

 うわー。何かこえーこと言ってるよ。

 世界の記憶を改変って。どんな怖ろしーんだよ。俺たちの記憶も簡単に変えれんじゃね?

 「いえ?一人の記憶を変えることの方が難しいですよ?ほら、集団心理ってあるでしょう?あれを動かす方が簡単なんですよ」

 煽動家だ。ここに煽動家がいる。

 ま、取り敢えず聞き手―ことは終わったのか。帰してくんね?異世界リアルに。

 「え、ちょっと待ってください。貴方の願いを聞いてないんですが・・・」

 あ、忘れてた。

 じゃあ、今更だけど、心読むの止めてくんねーか?

 「それ、お願いを考えたくないだけでしょう?」

 いぇす。あいどんとらいく面倒。

 「はぁ、何でもいいんですよ?彼女が欲しいとか、本が欲しいとか、城に住みたいとか」

 「じゃあ、犬っぽくして」

 「はい?」

 「だから、犬っぽくして」

 「いぬ、ですか?」

 そーそー。俺は犬っぽくなりたい。ケモミミが欲しい!

 「ならば、人狼などはどうでしょう?狼の獣人では、顔の作りが離れてしまいますから」

 犬は?

 「犬だと、弱いですし・・・狼の方がかっこいいでしょう?仮にも勇者の仲間なのですし」

 「あ、言い忘れてたけど、俺、〝瘴気の狂くるいがみ〟を倒すとかしねーぞ?何で俺がそんなことしなくちゃならねー。誘拐されてきてるのに、働かされるとか、どんな鬼畜ゲーだよ。わざわざ危険な目に合うとか、俺はMじゃねーんだ」

 「あら。それはまあ、個人の自由ですけど。おそらく勇者様たちや他の方は戦いますけど?」

 「いや、俺友達いねーし、ほとんど。それにあいつなら、龍慎のやつなら分かってくれる」

 井上龍慎いのうえりゅうしん

 俺の数少ない友達の一人だ。小中高と同じで、幼馴染と言っていい。

 こういう時テンプレじゃあ、俺のこと好きな幼馴染が居てもおかしくねーんだけど、俺にはいない。というか、女子でまともに喋る奴がほぼいない。

 俺が人狼になったら、はぐれ狼ってか?

 ――――ん?それはそれで悪くないな。

 「じゃ、人狼になるということでよろしいですね」

 ああ。それでいい。

 さあて、目覚めたら、龍慎に話しとおして、城を出るか。さっきの話聞いて、俺はもう地球に戻らなくてもいいって思えたしな。


 こうして、俺と神の語り合いは終わった。最後神が笑ってたような気もするが。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「ふう。犬山桐吾様でしたか。面白い方ですね。井上龍慎様の言う通りになりましたか」

 実は、女神は桐吾たちクラスメイトにほぼ同時に語りかけていた。一番心のダメージを負ったのは桐吾との会話だが、井上龍慎との会話の中で、こんな発言があったのだ。

 『桐吾がいてくれれば何でもできる気がするけど・・・多分、城を出るって言いそうだな。僕は止められないし。桐吾は良い奴だけどちょっと偽悪的だからなぁ』

 龍慎は、勇者の仲間として、瘴気の狂くるいがみと戦うと決めた。それは誰よりも早く。しかし、桐吾の離別も確信していたのだった。

 龍慎は苦笑いしながら、自分は守りたい相手を守れればいい、と言っていた。

 それ故に、向こうの世界で執着していたものが、〝友達〟だったのだ。

 龍慎の記憶を見た時、真っ先に出てきた者の顔、それは桐吾だった。

 「こちらの身勝手お呼びしてしまいましたからね。少しはサービスが必要でしょうし、貴方方には望む力を与えましょう。【魔本の勇者】高井雄介様、貴方には全ての魔法を授けましょう。【友愛の守護者】井上龍慎様、魔道具を作り、友と話す力を与えましょう。【犬の牙】犬山桐吾様。貴方には、契約と召喚の力、そして身体能力を与えましょう。貴方のゆく道が一番厳しそうです」

 この時の女神の微笑は、正しく神の微笑みと言うに相応しいものだった。

 しかし、込められた思いは違うかもしれない。

 目が覚めたら、彼らは力を得る。

 称号の力に溺れず、与えられた力で誤解しない者は何人いるだろうか。

 「遊戯の神も酷なことをしますよね。教えた召喚陣は絶対に若者しか召喚できないのですから。彼らがどこまで生きられるか・・・思想の神わたくしの加護を与えたとはいえ、どうなるのでしょう」

 博愛の神とも呼ばれる女神ルナは、まだ少年と言って差し支えない精神でしかない彼らの未来を憂慮して、一つ溜息を吐いた。

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