発覚 Ⅱ

「シェラ~、ただいま~っ♪ えっへへ~」

「おかえりリーズ。随分と嬉しそうだね、レスカさんに何かいいことを聞いたのかな?」

「うん……シェラにも、寝る前に話すね。その前に、一緒にお風呂入ろっ♪」


 宴会もお開きとなり、村人たちの手伝いもあって片付けはあっという間に終わった。

 長かった探索だが、家の中で二人きりになったことで、ようやくすべてが終わったのだとリーズとアーシェラも実感することができた。


 とはいえ、全てが終わったわけではない。

 やり残したことも多かったし、リーズの家族のこれからの生活や入り込んだスパイの扱い、それにヴォイテクたちとのやり取りなど問題はまだまだ山積みだった。

 それでも、今夜くらいはすべてを忘れて、二人きりで心行くまでイチャイチャしたかった。


「今回はシェラも大変だったね、すごく疲れたでしょ」

「うん……気を緩めたら、なんだかどっと疲れが出てきたように思えるよ。だから、こうしてリーズを抱っこしてるとすごく癒されるんだ…………」

「えっへへ~、リーズもちょっと疲れちゃったから……こうしてギュッとされると、嬉しくて……♪」


 あらかじめブロス夫妻に温め直してもらった湯船に浸かる二人。

 元々一人用なので二人で入ると若干窮屈なのだが、だからこそぴったりと密着していい心地だし、お互いのあんなとこやそんなとこが当たるので、ドキドキしてしまう。


「ふふっ、流石にこんな姿はリーズの家族に見せられないね」

「リーズは別にみられても気にしないけど、やっぱりこうして二人きりの時間が欲しいから…………」


 あと、今回の探索は様々な事情もあってリーズとアーシェラが別行動だったことも多く、中々二人きりの時間が取れなかった。

 家族との再会や新しい仲間たちとの出会いなどもあって、社交的なリーズは毎日いろんな人と話をしていたのだ。

 彼らとの交流は心の底から楽しかったし、久々の家族との会話は宴会の終わりまで尽きることはなかった。


 それでも……仲間たちとの交流が大事なのと同じくらい、リーズにはアーシェラと過ごす時間も大切だった。

 リーズにとって、アーシェラの懐の中は唯一心を休めることができる場所なのだから。



 風呂で汚れとある程度の疲れを落とせば、後は寝るだけ。

 二人で手を繋いで寝室に向かうのだが…………なぜかさっきからリーズがモジモジしている。


(どうしたんだろうリーズ……なんだか、いつもよりドキドキする。ずっとだったから? それとも、寝る前に話があるって言ってたけど……)


 まるで「結婚」して初めての夜のようだった。

 今でも寝る前はお互いにドキドキしながらベッドに向かっているけれど、それでも多少は慣れのようなものも出てきた。

 しかし今夜はどことなくリーズの雰囲気が初々しい様子だった。


「ねぇ、シェラ」

「リーズ……話って言うのは?」

「あのね、ミルカさんがリーズのことを見て「もしかして」と思ったみたいで、術でいろいろ調べてもらったの。そしたらね…………」


 二人でそろってベッドの上に腰かけると、リーズが甘えるように頭をアーシェラの肩に乗せた。


「リーズ…………赤ちゃん、出来たみたい♪」

「赤ちゃん………それって、まさか……本当にっっ!?」

「うん、リーズと……シェラの、愛の結晶なんだよっ! えへへ、だからリーズとっても嬉し――――あっ」


 言葉が言い終わらないうちに、アーシェラがリーズを無言で強く抱きしめた。


「シェラ……」

「リーズ、リーズ……僕は君に、なんていってあげればいいのかな? いまは、それさえも…………わからなくて」


 いきなり抱きしめられて一瞬驚いたリーズだったが、顔を見上げると……アーシェラの涙がぽつりぽつりと降ってきた。

 アーシェラは、嬉しそうに笑いながら泣いていた。


「ありがとう……リーズ、本当に……ありがとう」

「えへへ……えへへへっ♪ ありがとうだなんて……うん、嬉しいっ! シェラがリーズをこんなにも愛してくれたからっ! シェラ、ありがとう……」


 ミルカがリーズに話したのはほかでもない……リーズの身体に新たな命が宿った兆候を術で感知したということだ。

 この術は、本来旧カナケル王国の貴族の間で世継ぎができたかどうかを知るために使われ、その後は邪神教団が人類滅亡のため、新たな命を宿さないよう対処するために使っていたいわくつきの物であったが…………それがこうして、リーズが懐妊したことを確信させるために使われるというのは、ある意味皮肉であった。


「ミルカさんが言うにはね、赤ちゃんができてもう一ヵ月くらい経ってるって」

「もうそんなに経ってたんだ…………そういえば、この所リーズが前より甘えん坊になったかなと思ったのは、身体が色々不安を感じてたからなのかもね」

「リーズはもうお母さんなんだ……今までみたいに、余り甘えない方がいいのかな?」

「そんなことはないよ! むしろ、これからもどんどん甘えてくれないと、僕の方が困っちゃうから!」

「あはは! 甘えてくれないと困るなんて、シェラはなんだからっ♪ じゃ~あ~……今夜もシェラに、たくさんたくさん、甘えちゃおうかなっ! えへへ~♪」


 こうして、リーズとアーシェラは関係性だけでなく、生物上の観点においても疑いようのない夫婦となった。

 元々、何物にも断つことができない強い絆で結ばれていた二人だったが、それよりもさらに強い絆で結ばれることをリーズもアーシェラもとてもうれしく思ったのだった。


「こんなに幸せになれたのも、リーズがいてくれたから…………好きだよリーズ、ずっと愛してる」

「リーズも……シェラのこと愛してるっ! シェラと結ばれて、本当に良かったっ! リーズすごく幸せ♪」


 アーシェラの流す涙につられたのか、リーズの目からも大粒の涙がぽろぽろ零れ落ちる。

 お互いに指で涙をぬぐってあげると…………強く抱き合いながら、深く深く口付けを交わした。



 おそらく明日は、世紀の大ニュースで村中が大騒ぎすることだろう。

 そして、そう遠くないうちに勇者リーズが身籠ったことが、世界中に知れ渡ることになるだろう。


 宴会が終わって寝静まった村の様子は、さながら嵐の前の静けさであった。

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