相談 Ⅱ
「シェラ……ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
「相談か、いいとも。何か気になることでもあった?」
仲間が寝静まった後、焚火の前で同じ毛布で体を温めあいながら過ごしているリーズとアーシェラだったが、誰も起きる気配がないことを悟ったリーズが、アーシェラに何やら「相談」を持ち掛けてきた。
「フリッツ君のことなんだけど…………今日、穴掘りですごく頑張っていたのはいいんだけど、
ちょっと張り切りすぎて空回りしてるというか……あの調子だと、すぐに疲れちゃいそうだと思うの」
「なるほど……リーズもそう思ってるんだね」
「も……ってことは、シェラも?」
どうやらリーズは、昼間のフリッツの異常なまでの頑張りが心配だったようだ。
彼女の目からしても、仕事終わりのフリッツはかなり疲弊していたし、食事をした後そのまま眠ってしまうほど消耗していた。
この後フリッツも起きて見張りを後退しなければならないことを考えると、この先十分に体力を回復す切れない可能性があるとリーズも感じているようだ。
「彼は決して野外活動の経験が浅いってわけじゃない。開拓団を結成して、あの村に定住するまでのほぼ半年以上、村人たちと一緒に苦労を共にしてきたから、ああ見えても、こういったことはそれなりに慣れているんだよね」
「じゃあやっぱり……フリッツ君は、シェラやリーズたちにいいところを見せようとして必死なんだね。なんだかまるで…………」
「まるで?」
「リーズが勇者になったころみたいだなって。あの頃は、みんなの期待を裏切らないために、シェラ以外には弱みは見せられないって張り切ってた」
リーズが勇者になったばかりの頃は、勇者らしくないと思っていた自分の本当の姿を周りに見せまいと取り繕うのに必死であった。
いろいろと付け焼刃ではあったが、それでも彼女の必死のアピールは王国の人々全員を魅了し、魔人王からもたらされた絶望を希望にへと変えていった。
そう、リーズは初めからすべてうまくいってしまったがために、却ってこれからも無様なところを見せられないと常に必死にならざるを得なかったのだ。
「そうか……そういう風にも見えるね。僕も冒険初心者を脱したころくらいかな、リーズたちがどんどん強くなっていくのに、なんだか自分だけ強くなれない気がして、いろいろ無理していた時期もあった。一度それで体力を使い果たして体調を崩して…………冒険を延期してしまったこともあった」
「あ、そういえばそんなこともあったねっ! えへへ、リーズもシェラも同じ失敗してるんだね。そう考えると、フリッツ君のことを強く言えないかも」
一方でアーシェラは、早い段階からほかの仲間たちとの実力差が開き始めていることに焦燥を覚え、一時期様々な無理を重ねてしまい、逆に迷惑をかけた。
だが、そこで冒険者をやめるとならなかったのは、仲間たちがアーシェラのことを心から気遣ってくれたからだろう。
あの頃のリーズたちのやさしさがなければ、今のアーシェラはなかっただろう。
無理をすべきではないとわかっているのに、自分の弱さを認められないがゆえに無理をしてしまう。
今やすっかりベテランとなったリーズとアーシェラも、同じ過ちを経験してきた。
だからこそ――――同じ過ちをしようとしているフリッツに、何かしてあげられることがあるのではないかと二人は考えた。
「でね、シェラ。もしかしたらフリッツ君、本当に頑張ってるのを見せたいのは、リーズでもシェラでもないのかもしれない」
「リーズでも、僕でもない……であれば」
「シェラ、ちょっと耳貸して♪」
ほかのメンバーは寝静まっているはずだが、リーズは念には念を入れてアーシェラの耳元で何かひそひそとつぶやいた。
その内容を聞いたアーシェラはうんうんと頷いていたが、なぜか頬がちょっと赤かった。
「…………ちょっと今更感はあるけど、なるほど、もしかしたらチャンスかもしれないね」
「でしょ? リーズの方も何とかしてみるから、シェラ、お願いしていい?」
「もちろんだとも。解決を急ぐ必要はないが、早い方がいい」
「えっへへ~、明日がちょっと楽しみになってきたかも!」
そう言ってリーズは、まるでいたずらっ子のような笑顔で、アーシェラにきゅっと抱き着いた。
と……その時、リーズはアーシェラの頬がいつもよりも赤くなっていることに気が付いた。
「あれ、シェラ? なんかちょっと照れてる……?」
「ああいや……大したことじゃないんだけど、その……」
リーズはてっきり、先ほどの内緒話が夫にとって刺激的なのかとも思ったが、この二人の夫婦生活はそんなのと比較にならないほどいアレなので、そこまで恥ずかしがることはないはずだった。
「ええっと……そ、その……リーズが耳元でひそひそと内緒話してくれた時、ちょっと……ゾクっとしちゃって」
「……………へぇ~♪」
思わぬところでアーシェラの弱点を発見したリーズの目が妖しく光ったような気がした。
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