告知

 白熱した話し合いの中に堂々と割り込んで、あまつさえ飲み物を要求して堂々と居座る大魔道ボイヤール。

 皮の厚さと空気の読めなさも、ここまでくると周りもある意味感服してしまう。


「んー、うまい。まさかリーズに茶を入れてもらえる日が来るとは、長生きもしてみるものだ」

「もう、あまり変なこと言わないでっ。リーズだってもう勇者様のお仕事はしてないんだから、おもてなしをするのも当然なんだよっ!」

「それで……大事な話し合いを中断させてまで乗り込んできたということは、それだけ大事な用事があるということですよね」

「うむ、その通りだともアーシェラ君、だからそんな怖い笑顔をしないでくれたまえ」


 そんなボイヤールとて、何の用もなくこの村に来たわけではない。

 あえて空気読めない振る舞いをしているのも、家の中から喧々諤々の議論が聞こえてきたため、そのままだと自分の話を聞いてもらえないかもしれないと危惧したからだろう。


「さて、ではいい知らせと悪い知らせがあるのだが……まずはいい知らせから話そうか」

「僕はその二択ならむしろ悪い方から聞きたかったんですが、まあいいです。聞きましょうか」

「そのいいニュースというのはだな…………つい先日、ロジオンとサマンサの子供が生まれたことだ」

「ロジオンとサマンサの子供が!? すごいっ! ロジオンは一足先にお父さんになったんだねっ!」

「ヤッハッハ、それは喜ばしい! お祝いに白狼の剥製をプレゼントしちゃおうか!」

「あなた、そんなのあげても子供の役には立たないわ…………何かおもちゃを作ってあげられないかしら」


 まずボイヤールが語ったのは、ロジオンとサマンサの子供が生まれたというニュースだった。

 サマンサはリーズが二軍メンバーに会いに行く旅をしている時から、すでに子供を身籠っていたが、一か月に一度シェマが手紙を運んでくるたびに、おなかの子供がどんどん成長してきている様子を手紙で知らせてくれたので、もうそろそろ生まれる時期だということは知っていた。

 かつてともに駆け抜けた初期パーティーメンバーの一人が、名実ともに父親になったというのは、なかなか感慨深いものだ。

 それに、村の中でもロジオンに毎回素材を買い取ってもらっているブロス夫妻も、ロジオン夫妻が自分たちと同じ子持ち所帯になったのがうれしいようだ。


「それで、男の子だった? 女の子だった? 名前はもう決まったの?」

「女の子だった。名前は「オリヴィア」――――平和と繁栄の象徴のオリーブにちなんだ名前を付けるのがあいつらしいな」

「オリヴィアちゃんか。ふふっ、かわいい名前だね。ロジオンに似てるのかな、それともサマンサさんに似てるのかな」

「さてな、まだ生まれたばかりだったからどちらに似ているともいえんが、薄っすらと赤毛だったから、父親似かもしれないな。ロジオンのやつ、赤ん坊が生まれた日はずっと泣きっぱなしで、声がカラカラになってたな。それに、心配のし過ぎか頬もこけて髭も不精になっていたが…………そんなのが気にならんくらい、幸せそうだったな。くっくっく、もしお前たち二人の間に子供が生まれたらどうなるか、今から楽しみになってきたな」

「あ、あはは……怖いこと言わないでくださいよ」


 ロジオンも本来であれば今も忙しい時期真っただ中で、それに加えて中小諸国同盟のまとめ役の一人として様々な課題をこなさなければならない立場にある。

 そんな中で妻が出産するとなれば、その心労は計り知れないものがあるはずだ。


 その一方でアーシェラとリーズは、あくまでこの村の村長と村長夫人という気楽な立場なので、ロジオンのような忙しい中での出産――――なんてことはあまりならなそうではあるのだが…………


(確かに、村長さんがいざ出産に立ち会うとなったら、リーズさん以上に右往左往しそうですわね)

(村長は人一倍リーズさんを愛しているからな……いろいろ敏感になりそうだ)


 ボイヤールの話を聞いていた村人たちのほぼ全員が、口には出さずとも似たようなことを考え、お互いに目を見合わせた。

 しかも、その光景が現実になるかどうかはそう遠くないうちにわかるだろうとすら思っていた。


「よぉしっ、リーズたちも負けていられないね、シェラっ!」

「えっと、何を……っていうのは野暮だけど、せめて二人きりの時に、ね?」

「そうね……私たちも先輩として、負けるわけにはいかないわ」

「あー、うん。いつも通りでもいいんじゃないかな? ヤーッハッハッハ……」

「リーズはいいとして、なんで子だくさんのおたくらが張り合うんだよ。まあいい、もっと話したいことは山ほどあるが、もう一方の話ができなくなるから、続きは夕飯をごちそうになるときにとっておこう」


 さりげなく夕飯の要求もしつつ、話題を切り替えるボイヤール。

 この話題を続けていると、もう一方の話が冗談抜きで明日に持ち越しになってしまう。

 何しろ、「仕事として」の話はもう一方の方がよっぽど緊急性が高いのだから。

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