真夜中という、今までにない時間帯での食事を終えたリーズとアーシェラ。

 使った食器を全て片付け終わり、二人は心地よい満腹感に浸りながら長椅子に腰掛け、のんびりと温かいお茶を飲んでいた。

 ひざ掛け代わりの毛布を体に重ね、アーシェラの肩に頭をちょこんと乗せるリーズの表情は、いつも以上に幸せそうだった。


「おなかが満たされれば、また眠くなるんじゃないかって思っていたけれど……」

「えへへ、全然眠くならないねっ! むしろ、もっと目が冴えちゃったかも」


 普段なら二人してベッドに入って熟睡している時間だが、白夜の一日をずっと寝て過ごしたせいか、体内時計が若干狂ってしまったらしい。

 こうして、落ち着く香りのするほろ甘いお茶を飲んでも、二人は眠くなるどころか、体力が有り余ってしまっているようだ。

 だが、こんな真夜中――――しかも真冬とあっては、できることはかなり限られてくる。せめて、明るくなるまでにどれくらいかかるか分かればよいのだが…………


「うーん……朝まであとどれくらいかかるんだろう?」

「今日は月も出てないから、僕もよくわからない。アイリーンに聞けばわかるかもしれないけど」

「アイリーンかー……せっかくだから、会いに行ってみよっか! こんな日じゃないと、なかなかお話しできないからね」

「うんうん、じゃあ手ぶらだと寂しいから、残ってるシチューとパン、それにお茶を持って行こっか」


 そんなわけで二人は、いつまで続くかわからない夜の時間を過ごすために、新年も一人で見張りをしているであろうアイリーンに会いに行くことにした。

 食事は先ほど終えたばかりだったが、何か軽くおなかに入れるものがあればもっと過ごしやすいだろう。


 しばらく家事ができない可能性を見越して、かなり多めに作ったシチューを再度温めて保温容器に入れ、保存食用のパンをいくつかバケットに入れる。

 少しの間保存食なしになるが、またすぐに作れば問題ないだろう。




 こうして二人は、アイリーンへの差し入れと、防寒着をしっかり用意し、いつもアイリーンがいる見張り台へと赴いたのだが―――――


「あ! リーズおねえちゃんだーっ! おはようございまーすっ!」

「あらあら、村長にリーズさんではありませんか。お二人にしては早いお目覚めですわね」

「お~、村長にリーズさ~ん。今日は二人でラブラブ~しないの?」


「ミーナちゃんにミルカさん! こんなところにいるなんて!」

「おや、先客がいたのか。こんな寒い夜に何をしているのかな? 星の観察とか?」


 そこにはすでに、イングリット姉妹がアイリーンとともに携行暖炉を囲んでいた。

 橙の光とともに熱を放出する、黒い筒状の携行暖炉の周りには、いくつか食べ物と飲み物を保温する容器が置いてあり、それを時々つまみながら談笑に興じていたようだ。


「もしかして村長さんとリーズさん、昨日ずっと寝てたせいで、暗いうちから目が覚めちゃった?」

「えへへ……リーズがこんなに夜遅くに目が覚めちゃって、しかもすごくおなかが空いたから、シェラを起こしちゃったの」

「まあそれで、こんなに暗い夜だから今どれくらいの時間かわからなくて、それでアイリーンに聞いてみようということになったんだ。それに、眠気もすっかり醒めちゃったから、夜が明けるまで持ってきた食べ物をかじりながら話でも、と思ったんだけどね…………。ミルカさんやミーナはそうじゃなさそうだけど」

「うん! 私とお姉ちゃんはね「初日の出」を見にきたんです」

「去年はあまり余裕がありませんでしたので、今年は何か特別なことをしてみたいと思ったのですわ」

「ちなみに、日の出の時間まで、あとだいたい一刻半(約三時間)くらいかな~」


 アイリーンによれば、現在の時刻は大体朝の4時少し前のようだ。

 季節が夏ならば、うっすらと日が昇る頃かもしれないが、冬至からさほど日がたっていないのと、開拓村から西には比較的標高の高い山々が連なっているので、日の出が見える時刻も大体朝の7時くらいになってしまう。

 それでも、毎朝早く起きて羊の世話(と釣り)をしているイングリッド姉妹にとって、「日の出」はなじみ深く、神聖に感じるようで、この日はわざわざ深夜のうちから待機していたのであった。


「そうか……もうそれなりに朝が近い時間なんだね」

「リーズたちも一緒にいていいかな? ちょっと狭くなっちゃうかもしれないけど」

「いいよいいよ~、私は大歓迎~! しかも私たちのためにいろいろ持ってきてくれたんでしょ? すごくうれしいよ~」


 こうして、リーズとアーシェラも、初日の出を待つイングリット姉妹とアイリーンの輪の中に混ぜてもらうことになった。

 見張り台の上はそこまで大勢乗ることを想定していないため、やや狭くなったが、柱は頑丈なので5人乗る分には問題ない。

 携行暖炉が毛布に当たらないよう、慎重に座る位置を調整し、持ってきた食べ物とお茶を広げると、見張り台の上は完全に足の踏み場もない状態になった。

 ここまでぎゅうぎゅう詰めだと、暖房すらいらないのではと思われるほどだった。


「えへへ~、リーズおねえちゃんあったかーい♪」

「朝ごはん食べたばかりで、ここまで歩いてきたからかな? ミーナちゃんもあったかいよー♪」

「あ、いいな~。じゃあ私は村長さんに寄りかかっちゃおうかな~?」

「え……えっと、それは……」

「むぅ……アイリーンなら、いいけど……シェラの一番近くは絶対にリーズのだからねっ」

「まあまあ、私だけ仲間外れはさみしいですわ。村長さんはハーレムなんですから、もっと堂々としていいのですよ♪」

「ハーレムって……」


 そして、ミーナがリーズに寄りかかったのをいいことに、リーズとアーシェラを中心に三人が続々と折り重なるように密集し始める。

 女性四人に対し、たった一人の男性となったアーシェラは、喜ぶどころかかなり困惑気味だった。

 

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