―時には昔の話を― 運命共同体
過去
村の西に広がる平原で、今日も羊飼いのイングリッド姉妹がのんびりと羊を引き連れて放牧をしている。
だがこの日は、時々手伝ってくれるリーズに加えて、村長のアーシェラと、休暇に来ているアンチェルの3人も一緒だった。
「それでですね、私はリーズ様とアーシェラさんの一代記を書こうと思ってまして、こうしてお二人のお話を聞きに来たわけなんです」
「まあまあ、それは素晴らしいお話ですわ。歴史的偉人の誕生に、私もミーナもすぐそばで立ち会えるなんて、とても光栄ですわ」
「村長さんやリーズお姉ちゃんがお芝居の役になるんですかっ!! すっごいです~! どんな風になるか私も楽しみ~!」
「えっへへ~、改めてそう言われると、やっぱり照れちゃうねっ」
リーズたち一行は、比較的草が残っている平原に羊たちを自由にさせると、自分たちは近場にある大きな岩などに腰掛けて、羊の番をしつつ話をすることにした。
リーズとアーシェラの伝記を書くというアンチェルに、ミルカとミーナは興味津々で、リーズもまた自分が後世の歴史に残るようになるかもしれないとワクワクしていた。
ただ……5人の中の黒一点であるアーシェラだけは、イマイチピンと来ていないような表情をしていた。
「歴史的偉人……ね。リーズはともかく、まだ僕は実感がわかないな…………」
「むぅ、そうかなぁ? シェラだって魔神王討伐の時に、リーズよりもいっぱい働いてたと思うよっ!」
「とはいえ、村長がそう思うのも無理ありませんわ、リーズさん。むしろ、村長の歴史的大活躍はこれから始まる予定なのですから、勇者パーティーの裏方など、まだ些細なものという自信の表れなのでしょう」
「なるほどっ! それもそうだよねっ、なんてったってシェラは今から国を作るんだからっ!」
「あはは…………うん、まあ、そういうことにしといてよ」
謙遜したつもりなのだが、レスカに意地悪な解釈をされ、リーズがそれに乗っかってくるものだから、アーシェラはただただ乾いた笑いを浮かべるほかなかった。
しかし彼は、レスカの言葉もあながち的外れではないのかもしれない、とも思った。なぜなら――――
「けど、僕は歴史に名前を残すとか残さないとかよりも、リーズの夫としてリーズを一生幸せにできれば満足だ。歴史書の隅っこに「勇者リーズは夫との夫婦仲がとても良かった」って書かれていればそれで十分だよ」
「もう、シェラってば……大好きっ♪」
さらっとリーズへの愛を口にするアーシェラに、リーズがいつものように腕に抱き着く。
リーズと結ばれて、これから先もずっとリーズの為に生きていく。ならば、アーシェラの物語はスタートしたばかりなのかもしれない。
「村長さんとリーズお姉ちゃん、やっぱり今日もラブラブだねっ! 私も村長さんみたいな恋人がほしいかも…………」
「うふふ、お二人はきっと魔神王討伐や国の復興よりも、おしどり夫婦として名前を残しそうですわね」
「確かに…………(今の言葉、台本のセリフに使えそう)」
そんな、隙あらばラブラブな雰囲気を醸し出す世界一のおしどり夫婦である二人も、当然お互いを見知ったきっかけがある。
話がやや逸れてしまったが、アンチェルは二人の伝記の完成を目指すため、そして何より演劇の台本の参考にするため、二人が初めて出会った頃の話を聞きたいと申し出た。また、たまたまイングリッド姉妹がそのことを耳にしたため、こうして羊の放牧をしながら馴れ初めについての話をすることになったのだ。
「アンチェルはリーズとシェラが会った頃の話を聞きたいんだっけ?」
「そうですね。私もつい最近まではあまり気にしていなかったのですが、リーズ様が魔神王討伐の際に集めた勇者パーティーは、元々のパーティーの延長戦だったのですよね。ですから、その源流が知りたくなりまして」
「リーズと言えば、魔神王との戦いっていうイメージが強いからね。よし、せっかくの機会だから今日は僕に話させてよ。リーズにも、僕たちが初めて出会った頃に思ってたこととかを、聞いてもらいたいからね」
「シェラが話してくれるの? えへへ、シェラがリーズのことどう思ってたか……リーズも知りたいなっ」
こうして、今回は珍しくアーシェラの口から、リーズたちの初期パーティー結成にまつわる話が語られることとなった。
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