相談

「いやー、突然の訪問で申し訳ないッス! てっきり勇者様に「君たち誰?」とか言われるものと覚悟してたんスけど、まさか3人全員覚えてるなんて!」

「フリントお前……いきなりそれを言うか? もう少しオブラートに包めよ」

「えっへへ~、忘れるわけないよっ! フリントもプロドロモウも、それにアンチェルも! みんな一緒に戦った仲間なんだからっ! みんなのところに遊びに行った時のこともよーく覚えてるからねっ!」


 話し始めて早々ド直球な話題を出すフリントに対してプロドロモウが突っ込むも、肝心のリーズは全く気にしている様子はなかった。

 リーズが開拓村に来るまでに各地にいる仲間を訪問しており、もちろん彼ら3人のところにも足を運んだ。それでも彼らはリーズが自分たちの名前だけでなく、彼らの新しい居場所を訪問した時のことまで覚えていることに驚きを隠せなかったようだ。


「だってほら、アンチェルやプロドロモウはともかくとして、俺なんてメンバーの中でもめっちゃ平々凡々ッスからねー」

「平々凡々……? 失礼だが、私から見ると3人の中であなたが一番変わってるように見えるのだが」

「俺が変わってる!? いやいや、そんなことないッスよ! 特徴がなさ過ぎて、なんかもう、そこらの村人その3ってかんじッス」

「あのねフリント……君を平凡と呼ぶには少し慎ましさが足りないと思う」

「あっはっは! 確かに確かにっ!」


 自分のことを平凡だと言い張るフリントに、初対面のレスカまでが突っ込まざるを得なかった。

 アーシェラも―――ツィーテンとその妹のフィリルといい、ブロスといい、レンジャーという職業は変人ばっかりだなと心の中でつぶやいたほどだ。

 確かにフリントは平民出身でありツィーテンと同じく貧しい辺境育ちだが、山岳戦の知識はメンバーの中でも随一で、おまけに足がかなり速いのでパーティーではよく伝令役を担っていた。そのため、彼はメンバーの中でもよく顔を覚えられている方であり、同時に「変な敬語をつかう奴」としても有名だった。

 また、アーシェラにとってもよく食糧調達をしてもらったおかげでとても助かっており、先日の山菜採りでも彼に教えてもらった野草の知識が役に立った。

 そんな彼が自分を「平凡」と呼ぶのは、謙遜を通り越してもはやギャグでしかない。


 その後も少しの間、フリントの話題に乗ってプロドロモウやアーシェラ、それに同席しているフリッツとレスカ、果てはがリーズまでもが「自分こそ凡人」と言っては周囲に「それはないだろ」と突っ込まれるという和気藹々とした雰囲気が続いた。

 あまりの楽しさに、日が暮れるまでこの話題が続くのではとも思われたが、ごまかされそうな雰囲気を感じたアンチェルがようやく話題を変えてきた。


「……リーズ様も含めて、皆様が変人だということはよくわかりましたわ。ですがそろそろ、本題に入ってよろしいですか?」

「おお、そうだったそうだった! 俺たちはわざわざ平凡自慢するために雪の山道を越えてきたわけじゃないからな」

「本題……ってことは、リーズたちに何か用事があるの? リーズ的にはお喋りするためだけに来てくれてもいいんだけど」


 もちろん、いくらリーズに会えるとは言え、わざわざ雪の旧街道を越えてまで茶飲み話をしに来たわけではないことは、アーシェラも初めからわかっていた。そして心の中で「とうとうあのことを話すのか」と覚悟した――――――――ところが、アンチェルの口から出た言葉は彼の予想とは違ったものだった。


「実は私たち、アーシェラさんやリーズさんに相談したいことがありまして」

「え? 相談したいこと? 僕たちに?」

「ほら、俺たちアーシェラさんのおかげで以前よりずっと偉くなっただろ? フリントは山岳兵部隊の隊長に、アンチェルはデカい劇団の座長になったし、俺に至っては辺境の地とはいえ領主様になっちまった。今のところ何とかうまくやってるが、元々平民の俺たちじゃいろいろ不安なことも多くてな」

「そ・こ・でっ! 世界最強パーティーのリーダーだった勇者様と、実は世界最強の政治家と目されてるアーシェラさんのお知恵を借りにきたワケなんスよ!」

「リーズたちの知恵かー…………リーズはこれと言ってコツとか考えたことないからなぁ。ねぇシェラ、まずはお手本見せて♪」

「いや…………それを言うなら僕だって新米村長だから、あまり自信はないんだけどなぁ…………」


 アーシェラは面倒な話題を回避したとホッとしたのもつかの間……今度は別の意味で面倒な話題へとシフトしてしまったようだ。

 自信がないと困惑するアーシェラは当然謙遜しているわけではなく、世界最強どころか政治家の端くれにすら入らないだろうと思っている。だが、妻のリーズは期待に満ちた目をしているし、レスカとフリッツも彼の顔を見てうんうんと頷くばかり。


「まあそうなるな。この開拓村を立ち上げるまでの手段は見事なまでに鮮やかだったし、村長の政治力は私も保証しよう」

「僕も! 村長さんの話を聞いて勉強したい!」

「えっへへ~、やっぱりシェラって人気者だねっ! でもねシェラ、そんなに難しく考えなくても、まずはアンチェルたちが何に悩んでいるのかを聞いてあげるのがいいと思うな」

「うーん……まあ、リーズたちがそこまで言うなら。どこまで役に立つかはわからないけどね」


 こうして、村長宅では急遽アーシェラによるお悩み相談会が開催されることになった。


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