―射手の月27日― 訪問者
客
射手の月27日――――早いもので、この月もあと2日を残すのみとなった。
開拓村では、いよいよ本格的な冬が到来したことで、村人たちも室内で過ごす時間が比較的長くなってきていた。
そんな中、この日開拓村に珍しく客人が訪れていた。
村の門番をしているレスカが、男女3人を連れて村長宅の扉をノックすると、家の中からすぐにリーズが出てきた。
「村長、リーズさん、いるか? お客さんが来たぞ」
「こんにちはレスカさん! リーズたちにお客さん?」
自分たちに会いに来たのは誰だろうかと彼女が顔を覗かせると、レスカの後ろには見知った顔3人が立っていた。
ブロス夫妻のような軽装備をした淡い緑髪の若い男と、派手で明るい格好をした褐色で桃色ロング髪の女性、それにややのっぺりした細長い顔が特徴的な背の高い茶髪の男性――――彼ら3人は、リーズの姿を見てやや興奮気味にあいさつをしてきた。
「お久しぶりッス勇者様! オレオレ、俺っス! 久しぶりっすねっ!」
「あの、勇者様……ようやくお会いすることができてうれしく思います」
「いやーいやいや。すんません突然押しかけてきて!」
「お前たち…………まずは名乗らないとリーズも困るだろ……」
「わぁ! フリントにアンチェル、プロドロモウ! ここまで来てくれたんだねっ、大変だったでしょ!」
『え!?』
自分の背後からまるで食いつかんばかりにはしゃぐ3人に、レスカは呆れるようにため息をついた。
だがリーズは困るどころか、むしろ目を大いに輝かせて大いに喜び、彼らの手を取って出迎える。フリント、アンチェル、それにプロドロモウはリーズが自分たちの顔と名前を覚えているとは思っていなかったのか、一瞬お互いの顔を見合って驚きを隠せなかったが、リーズの純粋無垢な笑顔につられて、彼らもまたすぐに笑顔になった。
「いやー、アーシェラと結婚したって聞いていてもたってもいられなくて、直接お祝いに来たんスよ!」
「アーシェラさんは今お出かけ中ですか?」
「ううん、家の中にいるよ。おーい、シェラーーーーーっ!」
リーズが家の中に呼びかけると、すぐにエプロン姿のアーシェラが玄関にやってきた。
どうやらアーシェラは先程まで編み物をしていたらしく、作業に使っていた道具を片付けていたらしい。
「やあ、三人とも久しぶりだね。この前は手紙ありがとう、でもわざわざ山を越えてきてくれるなんて嬉しいよ」
「お、あんたも元気そうだなアーシェラ。あの時以来俺も心配してたが、なんだかんだで幸せな結婚をして悠々自適とは、羨ましいぜ」
アーシェラはまず、メンバーの中でもかなり接点が多かったプロドロモウと握手を交わし、続いてフリントとアンチェルとも握手を交わした。開拓村に移住してきてからもうあまり会えないだろうと思われた、かつての二軍メンバーの友人たちと久しぶりに会えたことで、アーシェラも心の底から嬉しそうだった。
だが、それと同時に彼らがこの時期の旧街道を越えてきたことをすぐに理解し、外の寒い空気の中で立ち話させるのも酷だと思い、すぐに家の中に案内することにした。
「山越えで疲れてるでしょ。リーズ、3人にお茶を入れるから、お湯を沸かしてくれるかな」
「わかったっ!」
「3人は馬で来た? それとも歩いて?」
「馬はブロスさんの家で預かっている。旅の大きな荷物もだ」
「それはよかった。この後お茶にするんだけど、レスカも一緒にどう?」
「お、いいのか? ならばフリ坊も連れてくるからしばらく待っていてくれ」
客を家に招きつつ、流れるようにてきぱきと指示を飛ばすアーシェラを見て、フリントたち3人は「パーティーにいた時以上に輝いてるな」と心の中で唸ってしまった。
(アーシェラ、完全に村長が板についているみたいだ)
(アーシェラさんがリーズ様に「お湯入れてきて」なんて言うなんて……)
(いやはや、夫婦生活が完全に板についてきてるぜ)
3人が背後でひそひそと言葉を交わし合うのをアーシェラはわかっていたが、彼はあえて気づかないふりをして、椅子を用意した。だが、アーシェラもまた心の中がざわざわするのを自覚していた。
彼らとは仲は悪くなかったし、むしろメンバーの中でも仲はいい方だったのだが、一つだけ懸念事項がある。
(まさかフリントとアンチェル、それにプロドロモウまで一緒とはね。全員一緒に来たという事は、確実に「あの事」を話す気だな。もう、過ぎたことは気にしなくてもいいのに…………)
年齢も職業も役割もバラバラなこの3人は、かつてアーシェラとひと悶着起こしかけたことがあった。
今ではもう済んだことではあるが、正直アーシェラもあまり思い出したくない事でもある。
妙なことにならなければいいのだが――――と思いつつ、アーシェラはリーズが沸かしてくれたお湯を、茶葉の入ったティーポットに注ぎ始めた。
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