採取
人の手の入った森林は、考え方によっては「畑」の一種とみることができる。
木々を適切に管理し、自然の恵みを収穫しすぎないように調整し、時には生態系を脅かす魔獣を撃退するなど、やっていることは平地で行われる農業とそう変わりはない。
逆を返せば、適切な管理がされていない森林はあっという間に荒れる。
よそ者が乱獲や乱伐を行えば、管理する村や町の財産が損なわれる。かといって管理を放棄して自然に任せても、木々が乱雑に伸びたり害獣がはびこったりする。自然そのままの状態が、必ずしも最善ではないのだ。
開拓村の南に広がる広大な森林も、かつてはこの辺りにあった街によって管理されていたのだろう。
だが、しばらくの間管理する人々がいなくなってしまい、長年瘴気に蝕まれていたせいもあって、その生態系は大きく乱れてしまった。
次世代の森の管理は、開拓村の人々(主にブロス一家)の手に委ねられた。これもまた、カナケル地方を復興させるための第一歩なのかもしれない。
「はえ~……こんなに村に近いのに、森が完全に
「仕方ないわ。私たちだけじゃとても手が行き届かないもの。その辺から魔獣も出てくるから気をつけなさい」
「リーズたちが初めて自然の森に入ったときは、フィリルちゃんのお姉さん……ツィーテンにいろいろ教えてもらったから、今度はリーズたちが教える番だねっ」
「はい、リーズ様っ! 姉さんの名に恥じないよう、精いっぱい頑張って、山菜をどっちゃりこ集めて見せますっっ!」
世界でもっとも偉大な冒険者である勇者リーズと、村で有数の森林踏破のプロであるユリシーヌの間に立つフィリルは、まだ初心者であるにもかかわらず気圧されることなく、堂々と胸を張っていた。
彼女とリーズの手には、ワインボトルが3本は入りそうな大きさの蔓で編まれた手提げ籠があり、今日はこの籠を一杯にしようと張り切っている。
「相変わらず歩きにくい森だなぁ。そろそろ林道の整備をしないと……それにこれだけ密集してると木のカビの問題が……」
「ヤアァ村長! その辺は私たちの管理の問題だけど、もうちょっと時間が欲しいかな?」
一方でアーシェラは、冒険者目線を離れて村長目線で森を見ていた。
村の規模に対して広すぎる森を管理するには、今の村の人口では明らかに足りていない。
アーシェラの夢の為でなくとも、やはり将来的にはかなりの移民の受け入れが必要になってしまうようだ。
村長夫妻とブロス夫妻、それに新入りのフィリルを加えた5人は、それぞれ会話を交わしながら森の中へと歩いていく。
秋の初めごろにはたっぷり身を付けていた果実の木にはもう何もついていないが、森の奥に入っていくと秋に取り切れていなかったキノコがまだいくつか残っていた。
そんなわけで、彼らはまずはキノコの採取を進めることにした。
「あ、このキノコ! 朝に食べたやつだっ!」
「ここはまだ魔獣に食い荒らされていないみたいだね。よかったよかった。今夜の夕食はキノコ入りのハンバーグにしようか」
「えっへへ~、賛成っ!」
「センパイ、これって食べられないやつですよね?」
「良く知ってるわね。でも別の使い道があるから、違う籠に入れてくれるかしら」
「魔物除けの催涙弾の原料になるんだよ。もちろん人間相手にも効果抜群だけどねっ! ヤーッハッハッハ!」
ブロスが見張りに立っている間に、リーズとアーシェラ、ユリシーヌとフィリルがペアになって、食べられるキノコを籠に詰め込んでいく。
リーズが見つけたのは野生のシイタケの一種で、食べるととてもおいしくて栄養価も抜群なのだが、その分野生動物や魔獣に目を付けられやすい。これらを収穫できずに放置しておくと危険な魔獣が増えてしまうので、出来る限り採っておきたいところだ。
また、周囲には食べられるキノコばかりではなく、毒キノコもたくさん生えている。むしろ、割合なら毒キノコの方が多いくらいだ。
冒険初心者が森の中に入って適当に生えてるキノコを食し、食中毒になる事例は昔からよくあることだが、どうやらフィリルはきちんとそのあたりの知識は持っているようだ。初心者とはいえ、レンジャーを名乗れる腕前はあるようで、彼女の実力を疑問視していたユリシーヌも思わず見直した。
こうして、あたりの採取が一通り終わった頃には、フィリルが持つ籠の中に大量のキノコや野草がぎっしり詰まっていた。
「リーズ様っ! 見てください、こんなにたくさん採れましたよー!」
「おお~すごいね! もしかしてフィリルちゃんって結構採取に慣れてる?」
「あたしたちの故郷は結構貧しかったので、子供のころから食べるものを探すのは得意だったんです!」
フィリルがあっけらかんとした笑顔で地味に重いことを言うので、リーズは思わずアーシェラと顔を見合わせてしまった。
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