新入

 5台すべての馬車が村の中心部に停車し、村人たちが荷下ろしや、休憩する随行人員たちのもてなしを進める中、村長夫妻リーズとアーシェラと商人二人は、まだまだ話に花を咲かせていた。

 もちろん、出来るなら彼らも手伝った方がいいのかもしれないが、急いで下ろさなければならない理由も特にないし、久しぶりに仲間同士の再会を心から喜びあっているのを中断させるのは野暮というものだろう。

 だが、そんな四人のところに控えめに声を掛けてくる者がいた。


「ヤァ村長! 馬車の駐車と馬繋ぎが終わったよ!」

「アーシェラさん、リーズさん、ちょっといいかしら」


 声を掛けてきたのは、先程まで馬車の先導をした後、馬車を牽いてきた馬をまとめていたブロス夫妻だった。ただ、ユリシーヌの声の雰囲気が、若干困ったようなトーンだったの。


「ありがとうブロス…………って、あれ?」

「どうしたのゆりしー…………えっ!?」


 リーズとアーシェラがブロス夫妻の方を向いた時、二人は一瞬信じられないものを見たかのように驚き、目を点にした。

 ブロス夫妻の後ろに、青紫のポニーテールの髪の毛の女の子がニコニコ顔で立っていたのだが、その顔と立ち姿は、二人にとってとても見覚えがあるものだった。


「…………ツィーテン?」

「いや、まさかそんな……!」


 髪の色と髪型それに着ている装備一式も含めて、かつて初期パーティーで一緒に戦い――――――そして、魔神王討伐戦で命を落とした親友ツィーテンと瓜二つだったのだ。


「村長とリーズさんは、この子と知り合い―――――」

「初めまして勇者リーズ様、アーシェラ様っ! ツィーテン姉さんがお世話になりましたっ! あたしは妹のフィリルっていいます。今日からこの村に住むことになりましたーっ!! 姉さんと違ってまだまだ未熟ものですが、よろしくおねがいしますっ!!」


 女の子は、二人の知り合いかと尋ねようとしたユリシーヌを押しのけ、勢いそのままに自己紹介を始めた。やや緊張しているようだが、リーズとアーシェラを前にしてもほとんど物怖じしない度胸は、姉ツィーテンにそっくりだ。


「ツィーテンの妹!? ほんとそっくりっ! リーズはてっきりツィーテンが生き返ってきたのかと思っちゃったよ!」

「いや、僕も驚いたよ。弟妹がいるって話はちらっと聞いたけど、まさかここまで生き写しな妹がいるだなんて……」

「初めて見たとき驚いたのは俺も同じだ。なんつーか、まるでツィーテン姉貴が若返って俺より年下になっちまったんじゃないかって思うくらい」


 今は亡き初期パーティーの最年長だったツィーテンに生き写しのフィリルを見て、リーズとアーシェラは驚きと喜びと……そして若干形容しがたい違和感を感じた。

 別にフィリルが怪しいというわけではなく、姉のフィリルがリーズたちの中では「姉御肌」のイメージが強すぎて、自分たちより年下になったツィーテンという存在に戸惑ってしまっているのだ。特にロジオンは、ツィーテンに頭が上がらなかっただけに、その思いが特に顕著なのだろう。

 だが、それ以上に戸惑っているのが、フィリルを連れてきたユリシーヌだった。


「村長……この子、これからこの村に住むと言っているけど…………本当?」

「ああ、そうそう! この村もだいぶ安定してきたから、そろそろリーズだけじゃなくて、新しい村人を受け入れようと思ってね!」

「そうなの…………ふぅん」

「ヤッハッハ! それはめでたいですナ! レンジャーを連れてきたってことは、ウチで立派に育ててやれってことでしょ! ゆりしーの指導は厳しいけど、試練を潜り抜けられれば、君も立派な冒険者になれるはずだっ!」

「はいっ! よろしくお願いします、センパイっ!」

「あなた、さらっと私を巻き込まないで…………」


 なし崩し的ではあるが、フィリルはブロス一家で面倒を見ることになったようだ。

 これからフィリルが住む家も作らなければならないが、それまで彼女はブロス一家の家に寝泊まりすることになる。

 もっとも、ユリシーヌは無表情ながらも、どこか不満そうな顔をしていたが…………アーシェラは止めないので、うまくいかない心配は少なそうだ。


「あれ? そういえばロジオンの手紙には、新しく村に住む人は二人いるって書いてなかったっけ?」


 フィリルが新しい村人になると聞いて、リーズはふと前日シェマから受け取ったロジオンからの手紙のことを思い出した。

 あの手紙を読んだリーズは「新しい人が二人も増えるなんて楽しみ」と感じていたので、内容を覚えていたのだ。しかし、今紹介されたのはフィリルだけ。もう一人はいったいどこにいるのだろうかとロジオンに尋ねようとしたところ――――


「ねぇ、ロジオン。フィリルちゃんのほかにもいるの?」

「……はっ! し、しまったっ!」


 なぜかマリヤンが、何事かを急に思い出したかのように、慌てて自分の馬車の方に走っていってしまった。

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