商人
そのころ村の入り口では、村人のほぼ全員が徐々に姿が大きくなってくる馬車の車列を見て興奮に沸き立っていた。
集団で一塊になり一点を見つめる様子は、まるで窓の外に興味深いものを見つけた家猫の群れのようだった。
「ロジオンに会えるの久しぶりだね、シェラっ! それにマリヤンも来るって! えっへへ~、楽しみだな~」
「きっとロジオンもマリヤンも、リーズに会えるのをすごく楽しみにしているはず。もっと近づいてきたら手を振って迎えようか」
リーズは長い間会っていない仲間とまた会えるのをワクワクしながら待ち望んでおり、アーシェラも落ち着いた様子を見せつつ、隊商を盛大にもてなしたくてうずうずしているようだ。
また、リーズとアーシェラ以外の住人達も、年に3回しか来ない隊商が運んでくる物資を非常に楽しみにしており、一秒でも早く村に運び込みたい思いを隠そうともしない。
「来たぞ、小麦が来たぞっ! これで冬の間にパンが食えなくなる心配をしなくてすむなっ!」
「馬車の数が前よりとても多いわぁ~! お菓子を作れるくらいの余裕はあるかしら?」
「お姉ちゃんお姉ちゃん! お洋服あるかな? 私、新しい服が欲しいなー!」
「私は繊維が欲しいですわ。釣り糸に使えますし、ミーナやリーズさんの服を作ってあげられますから」
「良質な鉄はあるだろうか。そろそろ武具が痛んできたからな……」
「夏来た時に頼んだ本、来てるかな?」
基本的に質素で自給自足な生活を送る村でも、やはり時にはそれなりのものが欲しくなるのだろう。
各々が欲しいものを思い浮かべる中、ブロス夫妻の先導で村に入ってきた馬車を、人々は喝采を挙げて出迎えたのだった。
「やっほーロジオン!!」
「待っていたよロジオン! 毎回長い道のりを越えて来てくれてありがとう」
「オッス! リーズにアーシェラ! ははは、見ないうちにえらい仲が良くなったな…………結婚おめでとう」
入り口から入ってすぐに馬車から飛び降りたロジオンは、いの一番にリーズとアーシェラのところに駆け寄ると、ぴったりと寄り添う二人の手を同時にとって、力強い握手を交わした。
リーズとアーシェラが結ばれたという知らせを聞いただけでもとても嬉しかったロジオンだが、こうして実際に親友同士が結ばれたのを見ると、思わず目頭が熱くなり――――――勢いあまって涙を数滴こぼしてしまう。
「本当に……本当によかったなぁ! やっぱりお前たち二人は一緒にいるのがしっくりくるぜ…………リーズ、もう二度とアーシェラを離すんじゃねぇぞ!」
「えへへ、もちろんだよっ! リーズにはシェラがいないとだめなんだってわかったから……」
「ロジオンにおめでとうって言われると、なんだか父親に祝福されているみたいだ」
リーズとアーシェラが離れ離れになった後、再会し結ばれるまで紆余曲折あったが、一番協力し、また一番振り回されたのがロジオンだった。
王国に飼われる身になってしまっていたリーズ、この開拓村に隠れるように住んでいたアーシェラ、それぞれと顔を合わせたときには、どちらも心の半分が失われたかのような空虚さすら感じたものだった。
だからこそ、親友として二人の間を取り持つために、ロジオンはできることを全力でやった。その結果が報われて、こうして目の前にあるものだから…………家族が結婚したかのように喜ぶのも無理はない。
冒険者時代にはリーズと並んで性格も容姿も雰囲気も子供っぽかったロジオンが、アーシェラから「父親のようだ」と思われるのも、ロジオンが彼らの為に自らの利益を顧みることなく協力したからだろう。
親友同士の感動の再会を、村人たちも物資を運びながら温かく見守っていた。
だが、そのしんみりした雰囲気はすぐに別の人物によって破られることになる。
「ゆ、勇者様あぁぁ~っ!! ご結婚っ! ご結婚おめでとうございますうぅぅぅっ!!」
「おふっ!?」
涙をぬぐうロジオンを、空気を読まず押しのけるように現れたのは、もう一人来ていた商人仲間のマリヤンだった。こちらはロジオン以上に涙目で、まるで生き別れの家族に再会したかのような興奮ぶりだった。
「マリヤンっ! あなたまで来てくれて、本当にありがとうっ! リーズも会えてうれしいっ!」
「物資を届けてくれてありがとう、マリヤン。これで冬も、リーズと一緒に心置きなく暮らせるよ」
「私も……私もっ! 勇者様とアーシェラさんが結婚したって聞いて、とっっってもうれしかったんですよぉっ! 勇者様が行方不明になったって聞いてから、私はもう心配で……心配でっ!」
オレンジっぽい髪の毛を両側で三つ編みのおさげにして皮の防風頭巾をかぶり、厚手の服の上から作業用エプロンを着ているマリヤン。彼女の特徴は何と言っても、珍しく両目に泣き黒子があることで、案の定とても涙もろい性格をしている。
見た目からしてあまり戦いに向いていそうになく、勇者パーティーでは殆ど「輸送隊の人」扱いだった。
そんな彼女だが、かつては自作の装甲馬車を操って、幾多の村から敵に包囲された村人を救出していた猛者だったりする。ロジオンの妻サマンサともコンビを組んでいた時期があり、マリヤンがこうして真っ先にリーズに会いに来れたのも、そのつてがあったからである。
「お……おい、せっかく人が話している時に横入りする奴があるかよ……」
「あ、ご……ごめんなさいロジオンさん! このままだと私が入るスキがないと思って、つい……」
「まあまあ、とにかく二人からのお祝いの気持ちはすごく伝わったよ。本当にありがとう」
「リーズたちはどこにいても、これからずっと仲間だよ♪ ね、ロジオン、マリヤン!」
「あううぅっ! 勇者様に仲間だって言って戴けて、感激ですうぅぅっ! 結婚祝いの品もたくさん積んできましたからね! ぜひ受け取ってくださいっ!」
「そ、そうなんだ…………それも楽しみだねっ!」
目をウルウルさせながら、興奮を抑えきれない様子のマリヤン。
彼女もどうやらリーズのことを「勇者様」と仰ぎ見ているようで…………シェマの時と同じく、この後じっくりと自分たちは対等な友人だと言ってあげる必要がありそうだと感じたリーズだった。
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作者からのお知らせ:
本編でリーズが結婚した後に出てきたキャラクターたちは、第2部では物語の変更により多少キャラクターが変わっています。ご了承ください。
でもマリヤンの名前は変えない。
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