―射手の月14日― 新たな仲間、新たな目標
郵便
射手の月14日目――――
この日リーズは、朝早くからミルカ、ユリシーヌと共に渓流に釣りをしに行っていた。
それなりの数の川魚と、周辺でとれる野草や果実を採取した彼女たちは、ほくほく顔で昼過ぎの村へと帰ってくる。
「えっへへへ~♪ 大漁、大漁! 今日は~シェラにお魚をムニエルにしてもらうんだ~♪」
「いい腕だったわリーズ。これで、魚を燻製にすれば、食料は当分安心ね」
「あらあら、それはどうでしょうか? 食いしん坊の方が村に来ましたから、むしろ足りなくなりそうですわ」
「むぅ! り、リーズはそこまで食いしん坊じゃないよっ!」
釣竿を引っ提げて、3人並んで軽口を言い合いながら歩く。
リーズは自分を食いしん坊じゃないと主張するが、彼女はすでに釣ってきた魚を夕飯にどう料理してもらおうかという考えでいっぱいだ。
この季節の川魚は、冬に備えて餌を大量に摂取するため、その身にたっぷりと脂がのって、とても口当たりのいい上品な味になるのだ。
そんな3人が村の門まで戻ってくると、いつものようにミルカが出迎えてくれた。
「よっ、3人とも。どうだ、釣れたか?」
「ただいま、レスカっ! えっへへ~、今日もたっくさん釣れたよっ! あとでフリッツ君にもおすそ分けの分を渡しておくね!」
「おぉ、それは楽しみだ!」
「うふふ、リーズさんってば私が教え方が上手いのか、どんどん釣りの腕が上達していきますわ。これは将来、釣りの勇者様を名乗ってもいいかもれませんわね」
「どんな勇者よ」
「まったくだ!」
門に立ち寄っただけだというのに、女性陣はすでに井戸端会議開始の雰囲気を醸し出しつつあった。
女三人寄れば姦しいとはよく言うが、それにもう一人加わればさらに加速する。だが、立ち話に入る前に…………レスカはふとあることを思い出した。
「そうだリーズ、
「うちにお客さん? 誰だろう? 気になるから一度帰るねっ。お魚はまた後で届けるから」
「あらあら、気にしなくていいわ。フリッツ君には私が届けておきますから」
なんと、ほとんど誰も知らないはずのこの村に来客があったようだ。それも、さっき来たばかりで、アーシェラと話をしているらしい。誰が来たのか気になったリーズは、レスカ姉弟に渡す分の魚をミルカに預けると、やや駆け足で自宅に向かっていった。
彼女が戻る途中、遠くから家を見ると――――玄関ではアーシェラが男性と話をしていて、近くに緑の鱗を持つ飛竜が一匹寝そべっていた。それを一目見たリーズは、すぐに誰が来たのかが分かった。
「やっほーっ! シェマーっ! ただいまー、シェラっ!」
「おっと、その声は勇者様っ! いやー、本当にお久しぶりですー!」
「おかえりなさい、リーズ。ちょうどよかった、ついさっきシェマがリーズと僕宛ての手紙を届けに来てくれたばかりだったんだ」
アーシェラと話をしていた、黒いシャコー帽と、年季の入った黒いコートを着た青髪の男性シェマは、二軍メンバーの中で唯一飛竜による航空移動ができたメンバーだ。
リーズは二軍メンバーを訪ねて回る旅で、シェマとは比較的早めに会っていた。そのため、顔を合わせるのは約半年ぶりくらいになる。そんな彼は、ほかのメンバーが比較的重要なポストについている中、責任感に縛られるのを嫌って個人で二軍メンバー間の郵便配達をしている。アーシェラとは二軍パーティー内でも雑用仲間だったのでかなり親しく、こうして居場所を教えている数少ないメンバーの一人になっているのだ。
久々にかつてのメンバーに会えてうれしかったからか、リーズはシェマと握手をしてやや強めに振った。
「リーズの方はどうだった? その顔を見ると、たくさん釣れたようだね」
「うんっ! こんなにたくさん釣れたんだよっ!」
シェマと話していたアーシェラもリーズを迎え、嬉しそうな顔を見ていい釣果があったことを確信した。
アーシェラの予想は当たっており、リーズが背負っていた籠を下ろして見せると、中には大小さまざまな川魚がギッチギチに詰め込まれていた。
「ねぇシェラ、今日はこれで夕飯を作ってほしいな♪」
「これはまたたくさん釣ったね。半分は燻製にしないと食べきれなさそうだ」
「えっ、これを全部勇者様が!? 勇者様はいつ漁師になられたんですか!?」
遊びで釣りをしていてはまず釣れないであろう魚の数に、シェマは思わず度肝を抜かれた。
少し前にアーシェラから「リーズは村の仲間と釣りに行っている」とは聞いていたが、てっきり遊びで行っていたと思い込んでいたようだ。
「それで、リーズたちへの手紙って?」
「そうそう! その手紙なんですけどー」
信じられないといった表情で籠の中の魚をしげしげとがめていたシェマだったが、本来の目的を思い出し、休んでいる飛竜のわきに置いてあった大きな布袋に手を伸ばした。
人間が丸ごと一人入りそうなほど大きな麻の袋は、リーズが背負ってきた魚籠と同じくらい、中身がぎっしり詰まっているようだ。
「その中に手紙が? 僕も選別を手伝おうか?」
「いやいや、その必要はありませんよー! これ全部、勇者様とアーシェラさん宛ての手紙なんですからっ」
『えっ!?』
そう言って袋ごと渡されたリーズとアーシェラは、困惑して顔を見合わせた。
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