⑥ 4/25 ご縁がありました

 画面に目を落としてほほ笑んだ。


 ――良雄とうまくやっていけそう? いつでも相談に乗るからね!


 面倒見のいい千乃は、菜花の心配をしていた。でも、会うのは明日。延期したことを伝えていなかった。


「あちゃ、すぐ返事を送らないと。えっと、今日は仕事で、明日、会うことになりました。いつも心配してくださり、ありがとうございます。っと、……ビジネス文章みたいで硬いなぁ」


 蒲団の上で胡座をかいて、じっとスマホを見つめる。司も千乃も知り合ったばかりなのに、応援してくれる。とても心強いけれど、不安は尽きない。んー、と唸りながら大の字になって、ぽつりとつぶやいた。


「相談か……」


 家にいづらい雰囲気を感じて実家を出たときも、東京で仕事や物件を探しまわっていたときも、誰かに相談するという考えはなかった。我慢強い方なので、すべでひとりの力で克服してきた。

 菜花は送信するはずだったメッセージを全部消す。そして打ち直した。

 良雄とは明日、会う。でも、年上の菜花がどこまでリードすればいいのかわからない。そもそも、どうして菜花が選ばれたのか。疑問だらけで悩んでいたことを、すべて吐き出して送信した。だが、すぐに後悔が押し寄せる。


 菜花は蒲団に顔をうずめて、足をばたつかせた。

 いきなり長文を送りつけて、千乃は嫌な顔をしているかもしれない。困らせたかもしれない。せっかく仲良くなれたのに、嫌われるのが怖くて枕をぎゅっと抱きしめた。しかし、送ってしまったメッセージは取り消せない。もう考えるのはやめようと目を閉じたとき、スマホの着信音がけたたましく鳴った。


『もしもし、菜花?』

「えっ、千乃さん?」

『ごめんね、突然、電話なんかして。良雄は幼なじみだからよく知ってるけど、菜花はこの前、はじめてあった人だもんね。不安になるよね。気が付かなくて、申し訳ない』

「いえ、そんな。謝らないでください。わたしの方こそ、いきなり不安をぶつけてしまって、すみません」

『いいの、いいの。で、年下の男は嫌いなの?』

「嫌いじゃないです。はじめた会ったときも、中山さんはやさしくて素敵な人だと思ってます。でも年上ですよ、わたし」

『それは気にしなくていいよ。良雄が菜花を選んだんだから』

「そう言われましても……」


 二十七歳でも少年のような笑顔を見せる良雄は、若々しい。性格もやさしいから、どこへいってもモテそうな気がする。それなのに、わざわざ三十歳になった菜花を選ぶ理由が思いつかない。そのようなことを千乃に話すと、おもいっきり笑われた。


『菜花は自分の魅力に気付いてないの? 華やかさはないけど、落ち着いた雰囲気で、とっても家庭的なんだよ。まさに、お嫁さんにしたいタイプね』


 相手に遠慮なく、率直に思ったことを口にする千乃。華やかさがないと指摘されて軽く落ち込んだが、ずっと菜花を褒めている。


『つい最近、出会ったばかりなのに、ずっと前から知ってるみたいな親近感が菜花にはあるの。縁があったというか、なんだろう。うまく言葉にできないけど、良雄もそういうのを感じ取って、菜花を選んだんじゃないかな』

「縁……」


 ご縁がありますように、と何度も神社に通った。五円玉女と呼ばれるほど。それが実を結んだのなら、心配する気持ちが薄らいでいく。


『とにかく、年齢は気にしない。応援してるから、がんばって!』

「ありがとうございます」

『そんな、お礼なんていわないでよ。もっと肩の力抜いて。あたしたちもう友達なんだから、これからも遠慮しないでよ。あっ、あんまり遅くなると明日に響くね。たっぷり寝て、お肌、ちゃんと整えるんだよ。それじゃ、おやすみー』


 プツッと切れた。

 ガンガン言いたいことをしゃべって、励まして、気持ちのいい人。そしてなにより菜花のことを友達だと言ってくれた。それが嬉しくて不安もぶっ飛ぶ。

 楽しみながら明日の準備をして、お風呂に入って、あとはぐっすり眠るだけ。浮かれすぎた菜花は、目覚ましのセットを忘れていた。


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