何も見えないように、聞こえないように。路地裏でそうして丸まっていると、上から小さく声をかけられた。


「どうした少年、迷子か。」


キャンディーをくわえた女子高生は、楽しそうに笑みを浮かべる。僕にはそれがおばけに見えた。不敵な笑顔が怖かった。僕を否定する時、みんなその顔で笑うのだ。ゆっくりと、深く深く呼吸をすると、悲しくもないのに涙が出てきた。


「待て、敵ではないぞ。これやるから泣きやめ、な?」


突き出されたキャンディーはいちご味だった。口に広がる圧倒的な甘みに、僕は目の前のおばけが優しいのだと確信する。それで、僕は僕の正義が否定されることが怖くて逃げ出したのだと伝えた。


「そうだなあ...」


彼女は一呼吸置いて、自分も学校を抜け出してきたのだと言った。しかしとても楽しそうなのだ。どうしてか聞くと、彼女は淡々とこう言った。


「この世はね、めんどくさいのだよ。正しい者が食い物にされるクソみたいな社会だ。」


「しかしな少年、この世界は美しいぞ。ちょっと一緒に楽しんでみないか?」


キラキラした目は、僕が今まで見た何よりも美しかった。死んでもいいと思った。だから僕は、おばけについて行くことにした。


彼女と一緒にゲームセンターに行った。初めてだった。やる気のないクレーンを何度も動かして、おばけは湯水のように百円を溶かす。おばけがおばけのぬいぐるみを取るなんて、なんだか凄くおかしくなった。それからリズムゲームやレースゲームなんかもやった。僕にはなかなか難しかったけど、おばけは真剣でとても楽しそうだった。


駄菓子屋さんで買った袋いっぱいのお菓子を腕にぶらさげ、タピオカジュースを片手に持って、僕は周りのたくさんの何かがどうでも良くなるくらい楽しくなった。僕は今悪い子なのだと安心した。


「少年、この世で一番美しいものを見せてやろう。」


そう言って僕の手を引くおばけの手は暖かかった。おばけの弟になれたらよかったのにって何度も思った。

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