③
橋の上、僕は町に沈む夕日を見た。
雲、空、ビル、それからおばけの頬が淡く染まる。綺麗だった。不敵な笑みが、綺麗だった。
「少年、私を見ても何も出ないぞ。目の前の美しい光景を目に焼き付けろ。」
「...ううん、おばけの方が美しいよ。」
僕は彼女から目を逸らしながらそう言った。ふと、彼女がこちらを見た気がしたけど、僕は知らないふりをした。どんな顔をしてたんだろう。少しして、鈴を転がしたような笑い声が響いた。
赤い町が、僕らを温かな目で見ていた。
帰りたくないと駄々をこねる僕に、おばけは指切りをしてくれた。改札を挟んで大きく手を振る。
「また会おうな。」
そう言われた気がした。
彼女と一緒に必死で取った大きなおばけのぬいぐるみ。食べきれなかった駄菓子。窓の外を見ると、不敵な笑みを浮かべた僕がいた。
*
家に帰ると、ママが最初に僕をぶった。真珠みたいな涙を流して、それから骨が折れるくらい抱きしめた。パパは僕の両手を取って、今日一日何をしていたかゆっくりと聞いた。ママにぶたれた後がまだヒリヒリして、ママの泣いた顔がショックで、僕は言葉をつまらせながらゆっくりと話した。深呼吸はしなかった。
学校が怖かったこと。
ぺしゃんこになる気がしていたこと。
家を出てすぐ街へ行ったこと。
おばけに会ったこと。
たくさん遊んだこと。
綺麗な夕日を見たこと。
指切りしたこと。
今日がどれだけ楽しかったか。
世界がどれだけ美しかったか。
僕は丁寧に丁寧に、ひとつずつ言葉を選びながら、本当にゆっくり話した。
パパはそれを否定も肯定もせず、ただただ聞いてくれた。
それから、僕の話が終わったことを確認して口を開いた。
それで、僕はたくさん叱られた。でも、たくさん謝られた。どんどん息が楽になって、僕はもう深呼吸しなくてもいいのだと思った。それからはもうあまり覚えていないけど、僕は久々に大泣きした気がする。
パパがおばけの名前を聞いたけれど、僕は僕の名前すら教えていないことを思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます