ケンタッキー:それは兄弟同士の無慈悲な戦い

ペペロン太郎

第1話

クリスマスと言って一番テンションが上がるのはプレゼントを思い浮かべる人も多いのだろうが、俺たちの家庭で最も盛り上がるのはその日の夕食だろう。


うちでは決まって某ケンタッキーで買ったフライドチキンが出されるのだから。


そして俺には弟がいる。そして高校生男子の半分は食欲でできている。


男兄弟を持つ人ならわかるかもしれないが、これからケンタッキーをかけた早食い大会が開催されるのだ。


---


決戦の日の夕方、例年通り母さんがケンタッキーを買って帰ってきた。


俺と弟が玄関まで行っていって、家の鍵を開ける。


「にーちゃん、もちろん遠慮して食べてね」と弟が言うが、そんなことは絶対にしない。お前だって遠慮しないだろうが!


うちでは毎年バケツサイズのケンタッキーを買ってくるのだが、だいたい俺が一本食べている間に弟が2本食べている。


弟のケンタッキーを食べるスピードは俺のおよそ2倍だ。これでは味わっている間に全ての肉が駆逐されてしまう。


去年も俺が味わって肉を食べている隙をついて弟は買ってきた肉をほぼほぼ食べ尽くしてしまったのだ。


俺はこのクリスマスの恨みを一生覚えているつもりだ。


「ふざけるなカス。お前こそ遠慮しろ」


俺は弟に対して宣戦布告をした。これで後戻りはできない。兄弟同士の戦いの匙は投げられた。


---


「俺、荷物持つよ」


と言って母さんの持つケンタッキーの袋を代わりに持ってあげる。


もちろん親切心から行う行動ではない。戦いは食卓に着く前から始まっているのだ。


こうすることによりケンタッキーをいち早く手にすることができる。つまりケンタッキーを食べる量を増やすことができるようになるのだ。


それを見た弟は「じゃあ、俺はこっちの荷物を持つよ」とお気楽なことを言っている。戦いが始まっていることに気がついていないようだ。やったー!


弟が母さんの荷物を持っている間に、食卓までダッシュする。もちろん弟の姿は見えない。


(ヴァァァカな弟め、これで全てのケンタッキーは俺のものだ!)


弟は決戦の火蓋が落とされていることに気がつかないうちに、俺はケンタッキーの蓋を開ける。


そうすると香辛料と鶏肉の美味しそうな匂いが混じった芳醇な香りが俺の鼻を通過する。


それと同時に弟にケンタキーを駆逐された、悔しい思い出も蘇ってきた。


(俺はケンタッキーを食べるために今まで頑張ってきたんだ)


容器の中からケンタッキーを取り出す。この行動に躊躇いや迷いなんか要らない!


そして手に持ったケンタッキーにかぶりつくのだ!


「うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!」


クリスマスに食べたケンタッキーはなんでこんなに美味しいんだろうか!


ケンタッキー自体はクリスマス以外の時にも食べるのだが、やっぱりクリスマスという年に一回しかない特別な日に食べるケンタッキーは何よりもうまい!


そして弟を出し抜き、俺だけが手に入れたと言う事実を思い出し、それがさらにケンタッキーの旨さを爆発させる。


俺と弟のケンタッキー戦争は終結した!無論、俺の勝利という最高の結果で!


「あ!ケンタッキーあるじゃん」と食卓に入ってきた弟が呑気な声でいう。時すでに遅し!ケンタッキーは我が胃袋の中に有り!


「だけど今日は食べれないや、だってこれから彼女とデートだし」


”彼女とデート”だし


”彼女とデート”だし


”彼女とデート”だし


「彼女とデート」というパワーワードが俺の脳内を襲う、あいつ、今までそんなそぶり見せなかったのに、いつの間に女とちちくりあっていたのか!


「恋人になってから初めてのクリスマスなんだ、とても緊張するわw」


俺の絶望が止まらない。思わず手に持っているチキンを落としてしまった。


「そういうことで、出るわ。またね」


と言って弟は外出してしまった、これから新しくできた彼女とあんなことやこんなことをするのだろう。ちなみに俺に彼女はいない。


俺はしばらく絶句して、その場から動けなくなってしまった。


容器の中に入った15本以上あるケンタッキーが虚しく残っている。こんな量のチキン、お前抜きじゃ食べきれねぇぞ!



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