番外編(5)

「そんなに…顔に出ているの…かな?」

自分の変化に戸惑いながら、それを兄に確かめるように話し始めた。

「自分ではどう思うんだ?」

まるでなだめるように、静かに言った。

「………」

また、黙り込んでしまった。

「んー?」

再び考え込んだバーンの頬がみるみる紅潮していった。

さらにうつむきながら、恥ずかしそうに唇を噛みしめた。

「………」

そんなちょっとした表情の変化を見逃さずに言葉にしていた。

弟が自分を自覚しやすくするように。

「俺がこう言って、おまえの表情が崩れるくらいだから相当だろ?な、モロだぜ」

『はっきり自覚しろ!』とでも言うように。

どう弟が出てくるか、楽しみにしながら話していた。

ラシスに確かめたことと同じことを弟にもしようとしていた。

自分が感じた想いが間違いないことを確信しながら。

この二人は同じように惹かれているということを感じながら。

「………」

「こんな雰囲気、今までにないぜ。そんな顔、初めて見たよ、俺は」

ニヤリと笑った。

笑う。

ある時を境にバーンは笑わなくなった。

笑えなくなったと言った方が正確かもしれない。

それまでそれほど表情が豊かではなかった彼がまったく無表情になってしまった。

仕方がないことだと思っていてもあきらめきれなかった。

何とかして弟を変えようとしてきた。

しかし、何も変わらなかった。

バーンが変わりたくないと思っていたから。

どんどん殻のなかに閉じ籠もっていくバーンを止めることはできなかった。

だが、今回は違っていた。

何かが確実に違っていた。

自分の言葉にこれほどの反応を示す弟。

彼女の存在が着実にバーンを変えていっている気がしていた。

自分がなし得なかったことを彼女がしてくれていた。

例え彼が彼女を拒否するような言動をしていたとしても、それは仕方がなのだ。

きっと、

弟は本心を彼女に伝えることはできない。

伝えてしまうことによって失われてしまうのではないかと怖れているのだろう。

今までと同じように、繰り返してしまうのではないかと不安なのだろう。

何をおいても彼女を護りたいと思っていることはわかっていた。

常に人の死に直面し続け、傷つけられ、人を拒絶し続けてきた弟の心が揺れているのが見てとれた。

どうしたらいいのか迷っているようにも見えた。

「………」

うつむいていたバーンの顔が少し上がった。

しかし、視線は兄には向いていなかった。

何度も口が動いた。

何か言葉を発しようとしているように動いた。

が、音にも声にもならなかった。 

そして一度、言い掛けて飲み込んだ言葉を口にする決心をした。

バーンは真剣な顔で切り出した。

「兄さん……俺、」

「ん。」

ちょっと間が空いた。

言葉にすることを躊躇っていた。

兄に伝えてもいいことなのかどうかと迷っていた。

「初めて…人を好きになったのかもしれない」

足元を見つめながらそうバーンがつぶやいた。

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