第3話 出会い(2)
おびえながら振り返ると、長身の男が立っていた。黒いコートに、黒いサングラスをしている。彼女の肩に手を置くと自分の後ろへ行くように無言で促した。
そのまま、手はまたポケットへしまわれた。
煙草をくわえた状態で、3人の男たちの前に仁王立ちになった。
ラシスは驚いた。見たことのない、記憶にない男。
(一体、誰?)
「その通りだ。人生楽しまなくちゃいけないが、」
「なんだてめえ!」
吐き捨てるようにリーダーとおぼしき一人が言った。
「楽しみ方がまちがってんだよ、てめぇら!」
啖呵を切られて、一人が彼の胸ぐらをつかんだ。顔色も変えず、両手をポケットから出すこともなく平然としていた。
「おい! そんなとこ、持ってていいのか? 知らんぜ、どうなっても。」
「その鼻っぱしへし折ってやる!」
パンチを繰り出そうと右腕をひいたその瞬間に、彼はくわえた煙草の火を胸ぐらをつかんだ手に押し当てた。
「ぎゃぁっ」
男は左手を押さえながら、彼から離れた。押しつけられた煙草が道路へバウンドしながら落ちた。彼はコートを揺らしながら半回転して、右足を男の頭部左側面に叩き込んだ。
バシーッとすごい音がした。ラシスは思わず目をつぶってしまった。次の瞬間目を開けると、一人が歩道に横たわっていた。
「だからちゃんと言ったろ。学習能力がねえな。ほら、来な! 弱いものイジメは好きじゃないが、遊んでやるよ。弟の悪口もいった代償は、きっちり払ってもらうぜ。」
(弟!?)
ラティはそれを聞いて驚いた。
(バーンのお兄さん!? この
残った男二人は、ポケットからバタフライナイフを取り出した。
「きゃあ!やめて!」
「力でかなわないとわかるとすぐ刃物かい?さっすが素人さん」
「ふざけやがって!」
「だから、ふざけているのは君たちだ」
ひとりがナイフを振りかざしたまま突進してきた。すっと、その刃先をかわしながら、かがむと自分の足を男の足に引っかけた。つまずいた男はバランスを失い、彼の背中に乗るような形で後ろに放り投げられた。
持っていたナイフは男が地面に落ちるのと同時に手から放れ、ラシスの目の前に転がった。男はそのまま地面とキスをしている。その首を靴の裏で踏みつけた。鈍い音がしてそのまま男は気絶してしまった。
最後の男が、背中を向けた瞬間を狙ってナイフを振り下ろしてきた。
(刺されるっ)
ラシスはそう思った。
しかし、予想は外れていた。キーンと金属音がした。ナイフが空を舞って、地面に突き刺さった。最後の男もズルズルと力無く地面に沈んだ。
勝負は一瞬でついていたのだ。彼は、後ろ回し蹴りを二発同時にはなった。
一発目でナイフを蹴り飛ばし、二発目で男の顔面に。
「あーあ、ったく。俺の学校の後輩ならもっとまともにやってくれよ。俺が恥ずかしいだろうが。おい!」
息も切らさず、涼しい顔で車にひとり残った男に声をかけた。結局、手は使わずポケットにしまったままであった。
「こいつら、きっちり引き取って帰れよ。こんなところに捨ててくと承知せんぞ」
びくっとして、そそくさと車の外に出て仲間のそばへと行ってしまった。
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