第100話 ステップ(3)

「はああ? 高宮と加瀬が!?」



南は真緒からナニゲにその話を聞いてしまい、驚いた。



「え、知らなかったの?」


真緒は思わず口を押さえた。



「って、いつ?」



「さっき高宮さんがお父さんのところに話に来て。 年明けたら加瀬ちゃんと挨拶に来る、って・・」



「ちょっとぉ~~。 なに? あたし、ひとっことも聞いてへんで~?」


南は大いに不満そうだった。



「仕事始まったら言うつもりだったんじゃない?」



「え~~? それにしても~。 なに? なんかのサプライズしたいとか?」



「なんかね。 高宮さんのご両親を説得するの大変だったみたいよ。 そっちに頭がいっちゃったんじゃない?」


真緒はさりげなく高宮を庇った。



「う~~~ん、」


南は腕組みをして大いに考えた。




「みんなにはそのカウントダウンパーティーの時に言おう。 みんな集まるしちょうどいいから。」


高宮は夏希に電話をした。



「あ・・ウン。 なんか・・照れるなあ・・」



「あと。 指輪も買いに行こう、」



「え、指輪?」



「前に誕生日にあげたあの指輪。 事故ったとき潰れちゃっただろ? それも直してもらって、婚約指輪も買いに行こう。」




婚約指輪


エンゲージリング




普通の女の子は


少女時代から憧れるその代物も。



夏希は今まで生きてきて


それについて妄想したりすることは


ほとんどなかった。



「・・婚約、指輪・・」



「もっとキチンとしたの。 買ってあげたいから、」



「この前の直してはめるから。 それでいいよ、」



「あんなの・・安物だよ、」



「安くなんかないよ。 けっこう石も大きいし・・前に、店の人がいいものだって言ってたし。 そんなの贅沢だよ、」




もっと喜んでくれると思ったのに





高宮は気が抜けた。



「普通は。 ダイヤの指輪とかを贈るんだよ?」



「ダイヤ? そんなのもらっちゃったら落とすんじゃないかって心配・・」



むしろ


いらないのか?



というような反応に



「もちょっと乗り気になってくれよ~~、」


思わずボヤいた。



「え、乗り気・・だけど。 あたしは隆ちゃんが一番最初に買ってくれたあの指輪を大事にしたいの。 あれもらってから今日までずうっとずうっと変わらない気持ちで・・ううん。 もっともっと隆ちゃんのこと、好きになったし。」



この子は


男心をくすぐるツボを心得ているんだろうか・・。



たまにそう思うほど、心をぎゅっと掴まれる。



「それより。 引越し先決めないとだし。 あたしも一緒に行くから。」


夏希は軽くそう言って話題を変えてしまった。



「・・うん、」



自分が


お金に不自由しない生活をずっとしてきて


それを鼻に掛けるつもりは全くないけど



彼女と接していると


自分にとって普通なことが


とても贅沢なことだったり。


改めて気づかされることが多い。



あの指輪を大事にしたい、と言ってくれた彼女が


心の底から


かわいくて。


もっともっと


大切にしたい、と思える。





大晦日。



南の家でのパーティーの前に高宮と夏希はレストランで住宅情報誌を読み漁っていた。


「場所はな~。 今のところでいいんだけどな~。 とりあえず賃貸で。」


「みんな高いね~~。」


夏希はため息をついた。


「まあね~。 思い切って分譲を買うってテもあるんだけど。 何年か後には、自分の家、建てたいし。」


高宮が頬杖をついて雑誌を読みながら言うと、


「え! 家?」


夏希は驚いた。


「ウン。 マンションじゃね~。 いくら買ってもあんま後々価値ないってゆーか。」



家買うのも


服を買ったりするのと同じトーンで言うなァ



夏希はつくづく思ってしまった。

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