第99話 ステップ(2)

高宮は明日から伊豆の別荘に行ってしまう北都を自宅に訪ねて行った。


「あ、高宮さん。 どうしたの?」


真緒がリビングにやって来た。



「休みなのに、ごめん。 社長に話が・・」


と言っていると北都がやってきた。


「あ、すみません。」


慌てて立ち上がり頭を下げた。


「いや。 今日は予定はないから。」


いつものようにクールにそう言って彼の前に座った。


「今、コーヒー淹れてくるね。」


真緒が言った。


「あ、おかまいなく、」


と言ったが、真緒はキッチンに行ってしまった。



「明日から伊豆に行かれるんですね、」


「ああ。 4日には帰る。 もし何かあったらいつでも連絡をくれ。」


「ハイ・・」


高宮はちょっと言いづらそうに言葉を詰まらせてしまった。



「なにか話があったんじゃないのか?」


水を向けられ、



「・・あのう、」



ゴクっとツバを飲んだ。



「・・結婚をすることになりました。」



高宮の言葉を真緒はコーヒーを入れたトレイを持ちながら彼の背後で聴いてしまった。



「結婚?」


北都に怪訝な顔をされ、



「・・あの・・事業部の・・加瀬夏希と。」


恥ずかしくてうつむいてそう言った。



しばしの間があって、



「そうか。」



ひとこと


そう言った。



ぱっと顔を上げて彼の顔を見ると、なんとも優しい笑顔を浮かべていた。



「また、年が明けたら彼女と一緒に挨拶に来ます。 とりあえず報告をと思って・・」


「・・父上から許しはでたのか?」


「昨日。 久しぶりに実家に行きました。 自分の確執だけで彼女を巻き込むのはよくないと思ったので。 ・・なんとか許してもらえました、」


少しだけ笑顔が出た。



すると、



「ホント? え~~、良かったね、」


後ろから真緒の声がして振り返る。


「で、いつなの?」


真緒は笑顔でコーヒーをテーブルの上に置いた。


「ま、まだ。 具体的なことは。 とにかくウチの親がずっと彼女との交際には反対していたので。 それを許してもらわないと、って感じだったし。」


高宮はテレながら言う。


「親御さんのことは。 おまえ自身が解決しないとならないことだったから。 いい機会だったと思う、」


北都の言葉に


「いいえ。 全て彼女のおかげです。 彼女はどんなピンチに陥っても前だけを見て全力でぶつかっていくし。 ホント何しても一生懸命で。 自分を飾ることなくありのままでウチの両親に話をしてくれました。」


高宮は自然な笑顔を見せた。


真緒はクスっと笑って、


「南ちゃんがね。 高宮がすっごい加瀬のことが好きで好きでどーしようもなくって、よーやくつきあってもらえたんだよ~って。 あんまり高宮さんのイメージと違ってたから、おかしくって。」


と言った。



「ホントだよ。 彼女、ほんとおれになんかひとっつも興味なかったもん、」


高宮は頭を掻いた。


「お父さんも。 そうだったんだよね~。」


真緒は父の肩を叩いた。


「は?」


高宮は驚いた。


「ウチのお母さんはデビューした頃は他のちっさい事務所にいたの。 でも、お母さんの舞台を見て、お父さん一目ぼれしちゃって。 とにかくウチに来てくれって口説きまくって。 んで、自分とこのタレントにしたら、売り込みまくって。 で、日本アカデミー賞とかガンガン取るような女優になって。 ハリウッドにも進出か~ってなった頃。 子供がデキちゃってね~。」


真緒は笑った。


「余計なことを言うな、」


北都は機嫌が悪そうに言ったが、


「・・へえ・・」


高宮は心底意外だった。


「ま、それが真太郎だったんだけど。 お母さん、天然だからさあ。 妊娠4ヶ月まで気づかなかったの。 もう大変だったらしいよ。」


真緒はケラケラと笑った。



あの


どこまでも冷静沈着な社長が。


まさか


デキちゃった婚だったとは。



恥ずかしそうにそっぽを向いてタバコを吸う北都を見て


思わず笑みがこぼれてしまった。



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