第67話 不信(2)

そしてこちらでも。



「はあ? 八神が?」


南は驚いた。


「なんか。 修羅場っぽかった・・」


真太郎はため息をつきながら言った。



高宮と加瀬と・・八神・・??



南は思いを巡らせる。



どう考えても。


真緒ちゃんがらみのことだ!



勘のいい彼女は全てがビビっと繋がった。



それにしても


八神が


高宮を殴るなんて。


信じられない。


人懐っこくって。


30過ぎてるクセに子供っぽくて。


深く考えるとか


全然しないタチなのに。



そんなに怒るって


どーゆーこと??


固まってしまった南に真太郎は



「おれもなんか聞いちゃいけないような気がして。 深くは詮索しなかったけど、」


と言った。



南はハッとして


「ねえ、それって。 八神が何とかなっちゃうとか・・ないよね?」


と真太郎に確認した。


「は?」


「そんな騒ぎ起こして。 謹慎とか! そういうの!」


「それは・・別に。 おれはたまたま居合わせただけだし・・」


真太郎も戸惑った。


「お願い。 社長には言わないで、」


南は真太郎に縋るように言った。


「え、別に・・言わないけど。 いったい何があったの?」



当然の疑問を


真太郎は発した。




「は・・。 真緒が!?」


いきなり妹の名前が出て真太郎は大いに動転した。


「それはどういう意味か・・わかんないけど! でも・・ほんっと高宮は真緒ちゃんのことめっちゃ面倒みてるし。 社長のムスメってのはめっちゃキーポイントなんやろけど。 高宮にその気がなくても・・まあ、誤解されるかなあって、感じもあるし。 たぶん、そのことかも、」


と言うと


真太郎の方が固まってしまった。


「わかんないけどね? なんか・・あたし。 真緒ちゃんのがひょっとして高宮に気があるのかなァって思ったり・・」



「えっ!!」


真太郎はものすごく険しい顔で南を見た。



「だから。 落ち着いて。 真緒ちゃんはたぶん高宮が加瀬とつきあってること知らないから。 あたしもナニゲに言ったほうがいいのかなって思ったりしたけどさあ。 逆に真緒ちゃんの気持ちに火をつけることになるんやないかって。 怖くて、」


南は本音を言った。


「ほら。 真緒ちゃんてほんま寂しがりややから。 離婚したことやって本人にしてみれば、ほんま大変なことやったと思うよ。 ケロっとしてるように見えても。 あの子は、誰かが側にいてやらないとアカン子やから。 それは真太郎だってわかってるやろ?」


「それは・・」


別に兄妹の仲が今まで険悪だったわけじゃないけど。


おれと下の二人は


やっぱり何かが違っていたような気もする。


真尋や真緒は好きなことができてうらやましいと思ったこともある。


子供のころから自由にしてきたし。



おれは


身体が弱かったせいか


オフクロに心配かけて。



おれのせいでオフクロは女優を辞めたって


誰かから聞いた。



真尋と真緒が


そのおかげで寂しい思いをしたことは


少しは申し訳ないと思っている。



「真緒を他のところで仕事をさせるようにオヤジに頼もう、」


真太郎は南を見て言った。


「え・・」


「今のままじゃ。 高宮くんや加瀬さんにずっと迷惑を掛けることになる。 二人の間に何かあったら・・本当に申し訳ないし、」


「それは解決にならないよ。 全ては高宮の気持ち次第やし。 真緒ちゃん、ほんまに毎日楽しそうに仕事してる。 あたし、ホッとしてんねん。 英語もフランス語もペラペラやし・・。 ウチも助かってる、」


「でも・・」


「ちょっと様子見ようよ。 あたしたちがどうこうするような問題やないし。 真太郎も余計なこと言わずに。」


南の言葉に真太郎は黙り込んでしまった。


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