第61話 第二の事件(3)
あいつ
社長のお供じゃなかったのかよ。
加瀬の話では
そんな感じだったのに。
八神は関係がないはずなのに
ドキドキしてしまった。
お嬢と二人で
車にって。
なんだか平常心でいられなかった。
真尋は車の中でもまだボーっとしていた。
「あの~~、」
八神はルームミラー越しに彼に話しかけた。
「あ?」
めんどうくさそうに真尋は返事をした。
「真緒さんは。 専務と真尋さんと・・どっち寄りの性格なんですか?」
いきなりの質問に。
「はあ? なにその質問、」
真尋は眠そうだったが目を覚ました。
「や・・あのっ。 最近真緒さんもウチの仕事してるじゃないですかあ? なんかおれ・・社長の娘とか思ったりすると、キンチョーするって言うか、」
八神は慌てて言い訳をした。
「アハハ! そんなこと! 真緒はどー見ても『おれ』寄りだからさあ・・。」
真尋は大きな声で笑った。
「はあ。」
やっぱ、そんな感じしたけど。
とりあえず黙っていた。
「ほら。 真太郎はさあ、コドモのころから喘息で身体が弱くて。 オヤジもオフクロもそりゃあ心配したって言ってた。 真太郎が生まれてしばらくはオフクロも仕事してたって言ったけど、あんまりにも真太郎が病気するんで、それで芸能界引退したって言ってたもん。 そのおかげでおれと真緒はけっこうほったらかしだったし。」
真尋は伸びをしながら言った。
「ほったらかし・・」
「八神もさあ、姉弟いっぱいいるからわかるだろ? 親はさあ、まんべんなく子供に接してるってゆーけど。 絶対にそんな平等じゃないって。」
「まあ・・」
確かに。
おれなんか
ほぼ
いるのかいないのかも、たぶん親わかってなかったし。
「まあ、小さい頃はけっこう二人でいることが多かったから。 ケンカもすげーしたし。 年子だったからさあ。 ほんと双子みたいな感じで。 そんなおれから言わせると・・真緒はすんげえさびしんぼうだな、」
真尋は笑った。
「さびしんぼう?」
「ウン。 一人でいらんないタチで。 友達も多いしね。 たとえば休みの日に一人でいるなんて絶対にできないタイプ。 まあ、離婚した理由、おれにもちゃんと言わないからわかんないけど。 結局、寂しくて耐えられなかったんじゃないかなって。 海外は慣れてるって言っても。 なんか今、イキイキしてんもんな。」
真尋はタバコをくわえた。
さっきの
高宮とのツーショットを思い出してしまった。
「でも! あいつもほんっとアホだから。 秘書課の仕事なんていつまで続くかって。」
真尋は笑った。
八神も力なく笑った。
「ホント。 あんなヤツのこと気い遣うことねーし。 真緒に気い遣うんだったら、もちょっとおれに気い遣えよ~、」
何だか
真尋の冗談にも笑えなかった。
・・お嬢のことは
さておいて。
八神は高宮に対して言い知れぬ腹立たしさが湧き上がる。
「かわいいワンちゃんですね~。」
「え? そーですかあ?」
夏希はあんこを連れて公園に散歩に来ていた。
まだ小さいのでたくさんは歩けないのでほとんど抱っこだったが。
犬を連れていると色んな人から声をかけられる。
12月に入ったというのに、なんだか日差しが暖かいようでお散歩日和だった。
あんこの頭を撫でながら、今ひとりでいることが少し寂しい気持ちになっていた。
「あの人はCoCoエージェンシーの北野社長だよ。 挨拶をしておいたほうがいい、」
高宮は真緒とイベントにやってきて、おろおろする彼女に的確な指示をした。
ただ人形のように招待されて立っているだけでは、ここにやってきている意味がない。
高宮は彼女を前面に押し出して、あいさつ回りに忙しかった。
「気・・気い遣う。」
真緒はひと段落してぐったりと疲れたように言った。
「ほんっとお気楽にこういうとこ行ってくれなんて、お父さんってば言わないで欲しい・・」
「ハハ・・。 まあ、社長なりに。 きみの今後をいろいろ考えてくれているのかもしれない。」
高宮は笑った。
「え?」
「このままここに残るか、他の仕事をするかわからないけど・・。 社長はきみが思っているよりも、ずうっと娘のことを思ってる。」
真剣な顔でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます