第62話 第二の事件(4)

「ほんと。 高宮さんに来てもらってよかった。 あたし一人じゃあ、どーにもこーにも、」


真緒はクスっと笑う。


「まあ、役に立ててよかったけど、」


高宮はふっと夏希のことを思い出す。


「今、家に電話したらお母さんが高宮さんに面倒かけたから食事しようって言われたんだけど。 こっちまで出てくるって、」


真緒は時計を見て言った。


「え、」



本当はもうすぐにでも帰りたかったが。


また社長の奥さんから直々にそんなことを言われると断ることはできない。


「うん、」


と返事をするしかなかった。



「あ、おれ。 ゴメン、ちょっと遅くなるかも。 あんこは夏希のところで泊めてやって、」


高宮は夏希に電話をかけた。


「ウン。 わかった。 じゃあ、明日もショップにあたしが連れて行くね、」



彼女の明るい声に


もう良心が痛んで痛んでどうしようもなかった。




「ねー、聞いて。 今日、桃ったらねー。 メリーをジーっと見て! もう目がちゃんと見えてるのかな~、」


美咲が嬉しそうに桃を抱っこしながら言ったが、八神はまるで聞こえていないようにボーっとしていた。


「ちょっとお、聞いてる?」


いらだったように言われて、


「あ? あ~~。 ゴメン。 なに?」


ハッとした。


「もー。 腑抜けみたいになって。 あたしオフロ入ってくるから。 桃のこと見ててね。」


美咲は膨れながら桃を八神に手渡した。


まだまだふにゃふにゃの桃を抱っこしながら


「あ~~、ゴメンゴメン。 桃がいるのになァ。 おれってば・・」


とほお擦りをした。



どうしても


高宮と真緒のことが気になって仕方がなかった。


そして


夏希のことも。




「ほんとにいつも真緒がメイワクを掛けてしまってごめんなさいね、」


北都の妻、ゆかりがやって来て赤坂のレストランで3人で食事を採った。


「いえ。 社長のお考えもあるでしょうし。 ぼくはお手伝いをさせていただいているだけですから、」


高宮はそう言った。


「ほんっと! 粗相があっちゃいけないと思って、けっこう緊張したんだから、」


真緒は膨れた。


「でも。 少し対応が慣れてきたよね。」


「そう?」


「そうだよ。 最初の頃はエライ人相手でも『あ~、ヤバ~い』とか言っちゃったりしてたし。」


高宮は笑った。


「ちょっとぉ。 ほんっとどんな娘って思われるわよ・・」


ゆかりは顔をしかめた。


「だいたいさあ・・お母さんの仕事じゃないの? お父さんとパーティーとかさあ、」


「ああ、あたし。 昔っからそーゆーのパスだから。 真也さんもわかってるからあたしのこと連れてかないし、」


ゆかりは能天気に笑った。


「でもね。 ほんと高宮さんがいてくれると。 会社のこともいろいろ見えてきたし。 ええっと何て言ったっけ? 志藤さんの秘書のキレイな人・・」


真緒は高宮を見た。


「ああ、栗栖さん?」


「そうそう! 彼女みたいに~。 美人秘書とか憧れる~、」


と屈託なく笑った。


「自分でよく言うわよ、」


ゆかりは呆れた。



真緒が席を外した後、


「なんか。 あたしたちが至らなくてごめんなさいね。」


また、ゆかりは高宮に謝った。


「そんな、」


「ほんっと。 あの子のことはほったらかしだったから。 30にもなって人前に出すの恥ずかしい娘になっちゃって、」


「そんなことないです。 真緒さんは明るいし、英語やフランス語にも堪能で。 ああいうパーティーにはぼくよりも彼女が社長のお側にいたほうがいいんじゃないかって。 今はまだ世間のことなんかに疎いので、とんでもないことを言ったりしてますけど。 社長や専務に怒られても頑張って仕事をしていますし。」


高宮は笑った。


「あたしはできれば。 真緒がもう一度自分の道を見つけるまでは・・。 ホクトで仕事をさせて欲しいって思ってしまって、」


ゆかりは母心を少し覗かせた。


「会社に迷惑を掛けてることはじゅうじゅう承知してるけど。 あたしたちがあの子をきちんと教育してこなかったツケだと思ってるし。 まあ、できれば。 もう一度一緒に生きていける人を見つけて欲しいけど・・」


彼女の気持ちが痛いほどわかって。


「大丈夫ですよ。 真緒さんはきっと奥さまが思ってるよりも・・しっかりと考えてらっしゃいます。 今は自分自身を磨くことに一生懸命で。 楽しそうです、」


「ありがと。 真緒もね。 真也さんよりもあなたのことを信頼していて。 ほら、怒られるでしょ? トンチンカンなことすると。 でも・・高宮さんは優しいんだって。 あたしも・・ああいう風に仕事できるようになりたいって。 この前チラっと言ってたし、」


「え・・」


「手のかかる子だけど。 よろしくお願いします、」


なんて


社長夫人に頭を下げられて。



よろしくお願いしますって


言われても・・



高宮は少し戸惑った。


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