第46話 ふたりの生活(3)

「あいたたたた・・」


昨日はあまり気づかなかったが、


夏希は体中を打撲してしまったらしく、いちいち動くたびに痛かった。


「大丈夫?」


高宮は心配した。


「なんか・・二の腕とか・・あばらのへんも痛い、」


「痛かったら湿布を貼ってって、昨日病院から湿布を貰ったよ、」


高宮は昨日貰った薬の袋を取り出す。


「背中とかも痛い・・」


と言うので、


「ちょっと失礼、」


と彼女のTシャツの背中をめくり上げた。


「え! すっごいアザになってるよ、」


高宮は驚いた。


「え~、ホント? こっちは折れてないのかな・・」


「湿布貼るから。 ジッとしてて。」


と、痛いところに貼ってやったりしていた。



そんなことをしているうちに。


何だか耐え切れなくなり


後ろからそっと首筋にキスをした。



「りゅ・・隆ちゃん、」


ちょっとゾクっとした。


そして胸に手を回されて、


「お・・お風呂・・入ってないし!」


ちょっとあたふたしてしまった。


「いいよ、そんなの・・」


「ダメだってば、」



その声が


パリで夢に出てきた彼女そのまんまな気がして。


さらに興奮してしまった。



しかし


いちおう女としてのプライドがちょっぴりある夏希は彼のほうに向き直って、


「ほんと・・。 かっ・・体中痛いし、」


赤面しながら言い訳をした。



そう言われると。



高宮は仕方なく胸にやっていた手を解いて、そのまま彼女を後ろから優しく抱きしめた。




良かった。


ほんと


たいしたことなくて。



事故に遭ったって聞いて


生きた心地がしなかった



高宮は夏希のぬくもりを感じながら、つくづくと思う。




「わ~~、おいしそ~。 ちょっと食べたい、」


「まだ途中だよ?」


「いいから! あーん!」


昼ごはんも高宮に作ってもらいながら、夏希はめちゃくちゃ甘えていた。


「親鳥になった気分、」


高宮は彼女の口に運んでやった。


「ん~、おいしー。 あんこ~、美味しいよぉ~、」


抱っこしたあんこを抱きしめた。



「はあ? 交通事故?」


この夜、親世帯で食事をすることになっていた真太郎と南は北都に夏希のことを話した。


「まあ、たいしたことはなかったんですけど。 彼女、左手にヒビが入ってしまって。 それで高宮は彼女の面倒をみるために今日お休みしたんです。」


南が説明した。


「今朝、休むって電話は貰ったが。」


「加瀬はなんもできない子なんで。 怪我なんかしたらもっと。 まあ、高宮が彼女の世話をしたいって言うんですから。 勝手にさせときゃいいかって、」


と笑う。


「彼女は地方から出てきているんだろう? 親御さんには連絡をしたのか、」


「え・・ああ、どやろ。 彼女、母子家庭でお母さんしかおらへんのですけど、でも、高宮がどんなして加瀬の世話してるんやろって思っただけでもおかしくて。 あのスカした男が。」


南はまた笑う。


「高宮くん、ほんと加瀬さんに尽くしてるみたいだよね、」


真太郎も笑った。


「うん。 なんかね。 愛しちゃってどうしようもないみたいよ。 まあ、これからの二人は予測でけへんけど。 とにかく高宮は加瀬しか全く見えてへんもん、」


北都は二人の話を黙って聞いていた。


「ところで。 真緒は?」


真太郎が言う。


「友達とゴハンですって。 時差ボケがつらいとか言っておきながら。 ほんっとタフよね、」


ゆかりは半ば呆れて言った。




翌朝、


いつも真太郎が車を運転して父と一緒に出勤するのだが、


「悪いが、今日も休む。 今日は特に何もないから。 想宝の件だけ、おまえが進めてくれ。 他に急ぎはないから。」


といきなり父から言われた。


「え、どこか・・悪いんですか?」


驚いて聴くと、


「いや。 まあ、年のせいか10時間の飛行機の移動は疲れる。 久しぶりの海外の仕事だったし、」


「はあ・・」



珍しいな。


大丈夫だろうか。


真太郎は少し心配になった。



「ああ、高宮にも連絡を頼む。 もし、なんなら、あいつにもまだ休んでいいと言っておけ。 急ぎはないから、」


と付け加えた。


「はい、」


真太郎は父の後姿をジッと見てしまった。

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