第47話 休日(1)

「は? 社長が?」


高宮はまだ夏希の部屋にいて、会社に行く仕度をしていたところだった。


「高宮くんも、なんなら休んでいいって言ってたけど、」


「どこか具合でもお悪いんでしょうか、」


やっぱりそこが心配だった。


「や、そういうんでもないと思うけど。 なんか疲れた、とかで。」


真太郎は言った。


「疲れた?」



社長は60代前半で、もう若い頃からバリバリ仕事一直線だったらしく


今だってものすごい激務をこなしている。


仕事で疲れただなんてこと一度も口にしたことないのに。



高宮も真太郎と同じ疑問を抱いていた。


「一度、診ていただいたほうがいいんじゃないでしょうか。 ぼく、良かったら病院についていきますけど、」


「う~~~ん。 ちょっと様子を見よう。 今日は母もいるし。 大丈夫だろうから、」


「や、でも・・ぼくは仕事に行きますので。」


「加瀬さんは、どうなの?」



「え・・ええっと・・」


高宮は傍らを見る。



腰を曲げながら新聞を拾う夏希の姿が目に入る。


やはり車とぶつかるということはかなりのダメージで、さらに打撲が痛くなってきた。


「・・なんか・・手よりも体中が痛むようで・・・」



「いでででで!!!」



しゃがんだ時に腰に痛みが走り、思わず大声を出してしまい、それが電話の向こうの真太郎にまで聴こえてしまった。



「・・あ・・今もそこにいるんだ、」


「えっ・・あ~~~っと、」


赤面した。


「なんか大変そうだね。 加瀬さんはまだ休んだほうがいいよ。 高宮くんも、」


と言った時、真太郎はハッとした。




ひょっとして。


彼を休ませるために??


・・あの仕事の鬼が??


うっそ・・。



考え込んでしまった。



「彼女はともかく。 ぼくは行きますから。 彼女にはなんとか生活をしてもらって、」


高宮は少し焦った。


「いや・・。 とりあえず。 今日は休みなさい。 社長が休みならきみの仕事はほとんどないから。」


「でも、」


「ううん。 今日は休んで。 ほんと。 じゃあね、」


と切られてしまった。


「って、えっ!? 専務??」


「どうしたんですかぁ?」


夏希が訊く。


「今日・・社長が休みだから、おれも休んでいいって、専務が。」


「社長、どうかしたの・・?」


「わかんない。 ちょっと疲れてるとかで、」


「え~~? だいじょうぶなんですかぁ? あたしのことはいいから行ってあげてください。」


「うん・・」




なんだか


ヘンな感じはするけど・・。



夏希の食事を用意して、高宮は北都邸に向かった。


家にはお手伝いさんだけだった。


「あの・・社長は、」


「ああ、さっき奥さまと一緒にお出かけになりましたよ。」


掃除機を掛けながら普通に言われた。


「え、どこに?」


「デートじゃないですかあ?」


彼女はクスっと笑った。


「は・・デート??」


「旦那様が車を運転してお出かけになりましたから。」


「は・・??」



元気じゃん・・


なんだ、それ・・。



高宮は少々呆然となった。


「あのっ・・お加減が悪いとかは、」


「いいええ。 お元気そうでしたよ。 お二人とも楽しそうにお出かけになりましたから。」




いったい。


なんなんだァ??





はあああ、


情けない。


夏希は老人のように腰を曲げてトイレも移動したりしていた。



やっぱね・・


いっくら頑丈でも


相手が車じゃね。




妙な納得をしてしまった。


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