第42話 アクシデント(2)

「すみません、もっと速く!」


高宮はタクシーの運転手に言う。


「もう制限速度いっぱいですよ・・」



高宮は脂汗がでるほど焦っていた。


南の話によると、レックスに出かけた夏希が来ない、と先方から電話があり、彼女の携帯に電話をしても全く繋がらず、どうしたんだろうと思っているところに警察から電話があった。


斯波が出たのだが、どうやら夏希が交通事故に遭ったらしい。


ということだけはわかっていた。


容態がどうなのか、そういうことははっきりせず。


斯波が慌てて出かけて行った。



交通事故・・


ウソだろ。



高宮は身体がガクガクと震えてきた。



『・・うそ。・・お兄ちゃん・・死んじゃったの・・?』



あの日のことを思い出す。


突然いなくなってしまった兄。


今朝まで


本当に元気だったのに。


病院で再び会った兄は


包帯でぐるぐる巻きで


ピクリとも動かず。




『カレーを作りに行きます。 思い切ってタイカレーに挑戦しちゃおっかな~~』



彼女からメールの返事を見たのは


ほんの少し前だったのに!!



神に祈るように前のシートに額をくっつけた。




南から知らされた病院に直行する。


救急の窓口に行き、


「あの! さっき・・運ばれてきた・・事故で! 加瀬夏希は・・」


もう取り乱していた。


「え・・加瀬さん、ですか?」


調べている時間さえもまどろっこしい。



そこに


「高宮!」


斯波がいた。


「し、斯波さん・・」


膝がガクガクしていた。


「こっち!」


と指をさされた方向にダッシュした。



『処置室1』


と書かれた部屋に飛び込む。




「わ! びっくりした!」


夏希はベッドに寝ていたが飛び起きた。


「は・・」


高宮は


自分が溶けていくのではないか、と思うほど


腰が抜けそうだった。


「どしたの・・」


夏希の無神経な問いかけに


「どしたのって・・こ、交通事故に遭ったって・・言うから、」


フラフラと彼女に歩み寄る。


「あ~、車とはぶつかったんですけど~・・。幸いコレだけ、」


左手のギプスを見せた。


「ヒビ、入っちゃったみたい。 でも! とっさに受身を取ったみたいで、他はだいじょーぶ!」



アハハと笑う彼女に


高宮は自分の中で何かがブチ切れて、



「・・っざけんなっ!!」


すごい勢いで怒り出した。


「は・・」


夏希はもちろん、斯波まで驚いた。



「ど・・どんだけ心配したか!! ひょっとして・・意識不明の重体とか! いや・・もしかしてって・・」


高宮は震えながら目は心なしか涙で潤んでいた。



「りゅ・・隆ちゃん、」


夏希は彼の真剣さに驚く。


「・・夏希まで・・いなくなるかと思った・・!」


悲痛な叫びだった。



「ご、ごめんなさい・・」


思わず謝った。



高宮はいきなり彼女をガバっと抱きしめた。


斯波はその光景に驚きながらも、そっと部屋を出た。



そうだ・・


隆ちゃんのお兄さんは


交通事故で亡くなったんだ・・



夏希は彼に抱きしめられながら、ぼんやりと思い出す。


「あたし、頑丈だから・・」


と言うと、


「車とぶつかったら。 普通は死んじゃったりするんだよっ!」


彼女を抱きしめながらまだ怒っていた。


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