第43話 アクシデント(3)

「ちっさい女の子が、」


「え?」


高宮は夏希から少し身体を離した。


「あたしを見て。 ニッコリ笑ってくれて。 嬉しくなっちゃって。 ちょこっと手を振ったら・・そのコも手を振ってくれようとして。 手に持ってた・・風船が飛んでいって。」


「・・・」


「あたしのせいなの。 そのコ、それを追いかけて・・」


夏希も少し涙ぐんでしまった。


「その女の子を助けようとして・・?」


「気がついたら。 身体が動いて・・」



ほんと


正義感が強くて。



高宮はまた彼女の背中に回した手に力を入れる。



「左手、タイヤに轢かれちゃったみたい。 おまわりさんが・・止まったとき、タイヤの下に手があったんだよって。 後から。 ちょっと頭も打っちゃったんだけどレントゲンとか色んなものとって。 異常なかった。 車とぶつかった瞬間の記憶もなくて。 気がついたら・・ここにいて・・」


夏希は一生懸命に説明をした。


「ほんっと・・心配かけんな・・」


高宮はまた夏希をしっかりと抱きしめた。


「隆ちゃん・・」


彼の思いに胸が痛んだ。





脳波も異常が無かったので、とりあえず帰ることになった。


ドアの外に出ると、その母娘が待っていた。


「あ・・」


夏希は驚いて二人を見た。


「本当に・・ありがとうございました!」


母親は深々と頭を下げた。


隣にいたその女の子も一緒に頭を下げた。


「え・・ほんと・・あたしが悪かったんで・・」


夏希は面食らってしまった。


「いいえ。 あなたが助けてくださらなかったらこの子は今ごろ・・」


母親は涙ぐんだ。


「や! ほんと! あたし、骨も鋼鉄でできてるって・・言われたことあるんで!! ちょこっとヒビは入っちゃったけど。 ぜんっぜん平気ですから!」


自分の頑丈さをアピールした。


「おねえちゃん・・ありがと、」


その女の子がたどたどしく言うと、夏希は嬉しくなってしゃがんで彼女を抱きしめた。


「も~~。 平気だよ~~。 ほんっとなんもなくてよかった~~。」


高宮はそんな彼女を見て胸がいっぱいになる。




そのままタクシーで夏希のマンションへ行った。


「斯波さんに頼まれた、レックスに持っていくはずの書類、びりびりになっちゃって、」


夏希はまだそんなことを気にしていた。


「書類なんて。 プリントアウトすればいくらだってある。 斯波さんはそんなことで怒らないよ・・」


高宮は夏希を安心させるように笑って、スッと彼女の背中に腕を回してキスをした。



彼にあんなに激しく怒られたのは初めてだった。


それだけ自分のことを真剣に考えてくれたのかと思うと胸が痛む。


「痛い?」


夏希の左手を取った。


「ううん。 そんなに痛くない・・」


その手にもそっとキスをした。



本当に彼女に


もしものことがなくて


良かった・・。


元気でいてくれてよかった。



そればかりを考えていた。





「え、加瀬さんが??」


外出をしていた萌香は戻るなり斯波から事情を聞かされて驚いた。


斯波はジャケットを脱ぎながら、


「たいしたことはなかったけど。 ほんとびっくりした。」


と言う。


「で・・どうなの?」


萌香はさらに心配した。


「・・高宮が。」


「え?」


「高宮がついてる。 隣に連れて帰ったみたい。」


「高宮さん・・パリから帰って来たの?」


「ちょうど帰ってきたトコだったみたいで。 直接病院に来てさ。 ・・もう、顔真っ青だった。」


「驚いたでしょうね、」


「驚いたなんてもんじゃないみたいで。 泣きそうだった・・」


とため息をついた。



「アイツの兄貴。 事故で死んだんだよな、」



そう言われて萌香もハッとした。


「なんか。 思い出してたみたい。」


「・・そう、」


萌香も高宮の気持ちを思う。



斯波はある意味


高宮の取り乱しようを見て軽いショックを受けた。



アイツ。


ほんっと加瀬のこと。


もう


自分の一部のようにさえ。

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