第39話 パリの空の下(3)

「あ、高宮さんが一番遅かった~、」


ロビーで北都と真緒を待たせてしまった。


「すみません、」


小さな声で頭を下げる。


「じゃあ、タクシーは頼んであるから。」


北都はタバコを消して立ち上がる。





ほんっと


スゴイ。



真緒は会議中、側につきながら高宮の仕事振りをまじまじと見てしまった。


父はカリスマ社長と呼ばれ、ワンマンではないけれど誰にも指図されずにこれまでやってきた。



しかし


この若い秘書はズケズケとものを言うし、この大社長に臆することもない。


「じゃあ、こっちのプランのほうがいいか、」


「そうですね。 今、中国とロシアの市場が毎日すごい勢いで変動してますから。 外貨の落ち方も・・」



む・・


難しい・・


真緒はメモを取りながら必死についていく。




はあ


疲れた。



もう一日で真緒はくたくただった。


気楽についてきたのに。


ずっと緊張しっぱなしだった。


フランス語はペラペラだけど。


仕事となるとやっぱりちゃんとしなくちゃだし。



夜、ホテルに戻ってきたときはもう疲れ果てていた。


「も~、シャワー・・」


と、シャワールームに入った。





高宮もシャワーを浴びて、タバコを一服しながら明日のスケジュールを確認していた。


すると。


内線がけたたましく鳴った。


「はい?」


焦って日本語で出てしまった。


「た、高宮さん!? 早くっ! 早く来て!」


真緒だった。


「真緒さん??」


「いいから、早く!!」


ただ事ではないようだった。



「真緒さん?」


ノックをすると、ガチャっと鍵が開く音がした。


バッとドアを開けると、なんとバスタオル1枚だけ身に纏った真緒が慌ててウロウロしている。



「えっ!!」


ぎょっとしておののいていると、


「早く! 大変!」


真緒は構わず彼をバスルームに連れて行く。



すると


シャワーとカランからどんどん、どんどんお湯が洪水のように出て、バスルームはびしょぬれだった。


「と、止まらなくなっちゃって!」


「こ・・これは・・」


高宮もパニくった。


「どーしようっ!」


真緒は高宮に縋る。



こんな格好で!!


高宮はどぎまぎしながら、


「お、おれじゃなくて! フロントに! 早く! いや、服を着て!」


慌ててぬれるのを覚悟でバスルームに飛び込んだ。


「は、はい!」


真緒も少し正気になった。



高宮は服ごとシャワーを浴びる格好になり、蛇口を捻ってみるが本当に止まらない。




数十分後-


何とかお湯は止まった。



しかし


「ほんっと・・ごめんね、」



途中からお湯が水になり。


高宮は頭からズブ濡れだった。


真緒はバスタオルで彼の頭を拭いてやる。



「・・おかまいなく。 んじゃ、帰ります・・」


遠い目をしてそう言った。



さぶ・・・


高宮は自分の部屋に帰り、またシャワーを浴びるハメになった。


何となく


さっきの真緒のあられもない姿を思い出し。



なんであの状態で


おれを呼ぶかなあ。


どこまで無防備なんだ・・



彼女の天然ぶりに振り回されっぱなしだった。


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