第40話 パリの空の下(4)

「はっくしょん!!」


高宮は真緒とお茶を飲みながら話をしていたが、朝から鼻水とくしゃみが止まらない。


「えー、どーしよ。 昨日ので風邪ひいちゃった?」


真緒は心配した。


「まったく人騒がせなんだよ。 きみのがフランス語話せるんだからさ・・おれじゃなくてフロントだろ・・」


ハナをかみながら思わず恨み言を言った。


「よく考えりゃ・・そーなんだけど。 もうパニくっちゃって・・」


真緒はしゅんとした。



そこに高宮の携帯が鳴る。



「・・あい・・」


ハナを拭きながら電話に出る。


「え? ああ・・そっち朝? おはよ・・」


夏希だった。


「うん、うん。 へー、そうなんだ・・うん、」


真緒は聴くともなしに会話を聞いてしまった。


「え? なにソレ。 まった・・そんなくだらないもの。 お金ないんでしょ? ダメだよ、そんなの買っちゃ・・。 え? だからいらないって。 無駄遣いしちゃダメでしょ。 だーめ・・」


いつもの彼ではない、すごく素になっている声だった。



「はあ・・?」


と言った後、高宮はいきなり大声で笑ってしまう。


真緒は驚いた。


店のほかの人間にも注目されてしまい、高宮は小さくなって



「も・・バカなこと言ってるなって。 なんで・・そうなるの。 も・・やめろって・・」


声も小さくしたが、笑いが止まらない。


「早く会社に行きなさいよ・・。 わかったから。 でも買っちゃダメだよ。 わかった? うん、じゃあね、」


と電話を切った。



「彼女~?」


真緒は頬づえをつきながら言う。


「えっ・・」


ドキンとして彼女の顔を見て


「うん、」


と、ごまかすようにコーヒーを飲んだ。


「高宮さんもあんなに楽しそうに笑うんだ・・」


感心したように言われて、


「えっ・・あ~~~っと思わず、」


恥ずかしくなった。


「すっごい・・優しいってゆーか、」


真緒はカフェオレを口にした。


「え、」


「なんかお父さんが子供をいさめるような。 そういう感じだったもん、」



まあ、


当たらずとも遠からず。



「くだらないもん、買おうとしてるから、」


ボソっと言った。


「くだらないもの?」


「通販好きで。 テレビ見てると洗脳されてすぐ買っちゃうから。 買う前におれに相談してって、前に言ったことがあって。 よくわかんないけど・・エクササイズ用のゴムバンド?? とか言って。 欲しくてたまらなくなっちゃったみたいで・・パリにまで電話して・・買ったほうがいいかな、って言うから、」


「え~~~。 カワイイ! いちいち相談してくれるんだあ。 ・・も、かわいくってたまんないね、」


真緒は笑った。



「ん~~、」


はっきりしない返事だったが、もう顔が崩れっぱなしだった。


「ねえ、これからさあ、夜の会食まで時間あるし。 買い物に行こうよ。」


真緒は時計を見た。


「お父さんは美術館見たいとか言って、ひとりで行っちゃったし。 彼女にもお土産買わなくちゃ。」


「や、いいよ・・そんなの。」


「よくないよ~。 せっかくパリまで来てるんだからさ。 あたし、いい店知ってるから。」


と笑った。



真緒は高宮をブランド店が軒並みならぶストリートにつれてきた。


「あたし、エルメス好きなの~。 この前は、バッグ買って~。 バーキンはさすがに買えなかったけどねー、」


と、セレブ丸出しの発言をしながら嬉しそうに物色する。


「・・たっけ~、」


高宮は値札に書かれたユーロを素早く日本円に換算し、驚く。


「え、そう? このバッグなんかよくない?」


「や、そういう雰囲気じゃあないんだよなあ、」


首を捻る。


「じゃあ、ヴィトンとか? グッチ? 貴金属のがいい? カルティエでも行く?」


どんどん言われるが、


「そういう雰囲気でも・・」


「どういう雰囲気なのよ、いったい。」



その『彼女』が夏希であることを言いそびれてしまい


言ってしまえば話が早いのだが、いまさら


なんとなく言えなくなってしまった。



「あんまり・・女の子、女の子してないかんじ・・」


「ブランド品とか興味ないの?」


「うん・・」



その時、北都からもらったシャネルのトワレのことを思い出す。


夏希はその香りがすごく気に入って、あれからずっとつけていると言っていた。


「そうだ、シャネルの・・」


「シャネル?」





「No.19か。 あたしも好き。 いい香りだよね、」


真緒にシャネルにつれてきてもらった。


高宮はきれいに包装してもらった箱を大事そうにしまった。


今度はトワレではなくパフュームのほうを買った。


「あたしもお土産に買おうかな、」


真緒は店内を見渡した。


「でもさあ、貴金属とかじゃなくてもいいの?」


「うん。 いいよ。 くだらないもの欲しがるくせに、こういうのは興味ないんだから・・」


高宮は苦笑いをした。


真緒はそんな彼の横顔をジッと見つめた。



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