第29話 不穏(3)
なぜだか
父の行動は速かった。
「高宮、ちょっと。」
一人の外出から戻った北都から呼ばれた。
「はい、」
席を立って社長室に行く。
「今、お父上と会っていたんだが。」
「は・・父と?」
意外なことを言われた。
「話があるといわれて。 何の話かと思えば。 昨日のパーティーでもお会いしたんだが、その時に真緒を連れていたので。 将来的におまえとの縁談を仄めかされて。」
「は・・」
思わず後ずさりしてしまった。
「もちろん、真緒はまだ離婚したばかりで世間的にもすぐにとはおっしゃらなかったけども。 ゆくゆくはとか・・」
やっぱり!!
すんげえ
ヤな予感はしてたんだっ!!
高宮はふるふると震えながら衝撃に耐えた。
「社長は・・なんと?」
「いやいや・・出戻ってきた娘だし。 そんなこと考えちゃいませんよ、と。」
北都は笑い飛ばした。
そ
そうか・・
何だかホッとした。
「それに。 おまえには真緒じゃないってことも、わかってるし。」
北都はポツリと言った。
「え、」
「大事にしている子がいるのも・・わかっているし。」
顔が沸騰しそうだった。
社長は夏希のことを知っている??
別におおっぴらに言ったわけじゃないのに・・。
高宮が黙ってしまったのを見て、
「ま、真緒はまだ『研修中』だし。 社会に出て使い物になりそうになったら、外に出すつもりだ。 再婚もあるかもしれないけどまずは一人で生きられるようにしないと。 いちおう親の責任だし、」
北都はふっと笑って言った。
「おまえには迷惑をかけるけど、」
「い、いえ。 ぼくは・・」
恥ずかしくなって口ごもった。
しかし
社内での『その噂』は、まだまだ沸騰していた。
「ほんとなの~? でもさあ、いきなり離婚して戻ってきた娘をさあ・・ここで仕事させるってなんかあるよね~。」
「やっぱ高宮さん狙いじゃない? 自然に二人が盛り上がるの待ってるとか?」
「でも、高宮さんて事業部のあの加瀬さんってコとつきあってるってゆーし、」
「そんなの! 社長の娘と一緒になったら万々歳じゃん、」
特に
女子社員は噂ズキなので。
それは専務である真太郎の耳にもイヤでも耳に入ってきた。
「だから。 真緒をここで仕事させることに反対だったんだっ、」
「そんなこと言ってもさあ、」
「余計なこと詮索されるし!」
真太郎は怒り心頭で南にそれをぶつけた。
「社長はやっぱ真緒ちゃんに対して申し訳ないって気持ち。 すっごいあるんだと思うよ、」
「はあ?」
「ずっと仕事仕事で。 子供たちのことノータッチやったんやろ?」
「それはおれや真尋だって同じだよ、」
真太郎は不満そうに言った。
「真緒ちゃんは女の子だし。 兄貴たちそれぞれ立派にやってるやん。 いろいろ悩んだと思うよ。 わかんないまま結婚もしちゃって。 迷うばっかやったんやろなあって。 初めて会った時と真緒ちゃんは全然変わってへんけど・・なんかふっきれたかなって気もするもん。 これからやん。 それも社長・・わかってると思うし、」
高宮は外出から戻って時間外になった秘書課のドアを開けようとして二人の会話が耳に入った。
「それはわかるけど。 でも・・高宮くんとのことは話が別だろう、」
真太郎の口から自分の名前が出て、入るに入れなくなってしまった。
「みんな勝手に噂してるだけだよ。 社長はもちろんそんな気ゼロやし。 高宮を北都の婿にするとか、ぜんっぜん根拠ないし、」
ドキンとした。
「・・それに。 加瀬さんに申し訳ないじゃないか、」
真太郎は言った。
「まあ・・知ってるかはわかんないけど。 こんまんまでいったら耳に入っちゃうかなあって思うし。 ほんま加瀬はまだ高宮とつきあってても、不釣合いなんじゃないかって思ってるのか自信とかないし。 こういうこと耳に入ったらまた落ち込むんやろなあって、」
て・・
なに?
ここではそんなに噂になってるの??
高宮は呆然としてしまった。
夏希は
そんな噂を
知っているんだろうか。
ここ3日ほど、忙しくてあんこも夏希に任せっぱなしで、ここで会うこともない。
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