第24話 凪ぎ(1)

彼女から


もっともっと


深く追求されると思っていた。


そしたら


きちんと自分の気持ちを話そうと思っていた。



だけど


キスして


抱きしめただけで


彼女はそれだけでホッとして



それは


男としてごまかしてるみたいで


昨日はそれができなかった。


うやむやにするわけじゃないけど。


彼女らしくいてくれるのなら


それでいいって


思うのは間違いだろうか。





「・・ん・・んっ・・あっ」


優しく彼女を抱いて。


身体中を愛して。


「隆ちゃん・・」


夏希は息を切らせながらそうつぶやいた。


「え・・」


「・・だいすき・・」



こんな言葉も


前はゼッタイに言ってくれなかったのに



こうやって


自分の気持ちも


素直に出してくれるようになって。


「だから・・きらいにならないで・・」


夏希は高宮の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。




嫌いになんかなるわけない。



どっちかっていうと


おれが夏希の気持ちをつなぎとめるのに必死なのに。



「・・おれも。 ・・だいすきだから、」


ひらがなばっかりの


『だいすき』


彼女にはそっちのほうが伝わる。





「あ~~、ほら。 ここ間違ってる、」


「え? ホント?」


「『致しまして』が『致まして』になってるじゃない、」


「アハハ! 『いたまして』だって!」


「全く暢気だなァ・・」


相変わらず真緒は手がかかる。



「じゃあ、コレ。 経理に持って行ってハンコ貰ってきて。」


「はあい、」




真緒が出て行ったあと、後ろで見ていた志藤がくすくすと笑っている。


「なんスか??」


振り返ると、


「おまえってほんっと・・幼稚園の先生とか向いてるんちゃう~?」


「はあ?」


「ほんまよう根気よく教えるなあ。 頭下がる~。」


「ほんっとに色んな意味で箱入りで。 電車とかもあんまり乗らないし。 外出するとすぐにタクシーを拾おうとするし。 敬語とかも怪しいし・・」


高宮はため息をついた。


「加瀬だけでも大変なのになあ。 アレも人間らしくするまで大変やもんなあ、」


とまで言われて。


「・・べ、別に! 最近はあんまり奇行もなくなってきたし・・」


と少しムキになって言う。



「アハハっ! 奇行だって!」


志藤は大ウケしてしまった。


「それはおまえが慣れてしまっただけちゃうの~~? ココでは相変わらず奇行が激しいで~、」


「くっ・・」


悔しいが。


それも否定できないので黙ってしまった。



たまに


夏希が秘書課の志藤のところにやってきても


高宮が真緒につきっきりで仕事を教えているのが目に入るが。



なるべく


気にしないようにしよう・・



そう思うことにした。



ああやって


優しく抱きしめてくれたら



もう


心がつながってる感じがする。

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