第21話 女心(3)
「あたし・・どうしたいんですかね、」
夏希はようやく口を開いた。
「え、」
萌香は小さな声を発した。
「・・もう・・わかんないんです、」
そう言ったとたん、また涙が溢れてきた。
「そう、」
夏希から全てを訊いた萌香は頷いた。
「あたしが悪いんです。 隆ちゃんのことほっといて。 あんななってるなんて思いもしないで。 ほんっと・・それが悔しいんです・・」
「でも・・高宮さんも普通の状態やなかったんやろし。 真緒さんの好意というか・・それは仕方ないんとちゃうの、」
萌香は優しく言った。
しかし
夏希は真緒の名前が出たとたん、堰を切ったように
「・・で、でもね! なんでかわかんないんですけど! 隆ちゃん・・あんこを買った時真緒さんのお友達につてをつけてもらったとか・・そのときもなんも言わなかったし。 今度のこともなんも言ってくれなかったし。 な、なんでなのかなあって!」
さっき
高宮に言いたかったことが
なぜだか萌香の前ではすんなりと口にできた。
「それは・・」
萌香は高宮を庇おうと思ったが
うまい言葉が出てこない。
確かに。
なんで言わなかったのかしら。
何もないのなら
普通に話せばいいのに。
そう思ってしまった。
「よくわかんないんですけど! あ、あたし・・真緒さんが秘書課にバイトに来るって・・知ってから、ずうっと、ずうっと胸の中がざわざわしてて。 じ、自分でも・・わかんない・・」
夏希はそう言ってテーブルに突っ伏した。
ああ
何となく
その不安は
わかる。
萌香はふとそう思った。
真緒がただのバイトの女の子ではないことは
誰もがわかっている。
彼女は社長の娘なのだ。
社長秘書である高宮は
もう
いまはほとんど北都家の人々とは
家族同然と言ってもいい。
これまでも
大阪の支社長秘書とか。
他社の美人秘書とか
いろんな『疑惑』はあったにせよ。
それは、彼女の考えすぎで
高宮の心は動くことなどなかった。
だけど。
真緒がそういう女性たちとは
確実に何かが違うことは
夏希の本能が感じ取っている。
その不安が一気に爆発してしまったようだった。
何とか彼女を落ち着かせて自分の部屋に帰した。
はあ。
萌香はひとつため息をついてから、高宮の携帯に電話をすると1コールするかしないかで彼が出たのに驚いた。
「く、栗栖さん!?」
いかにも携帯を握り締めて待っていたかの彼の声に
「あ、今自分の部屋に帰ったわよ。」
萌香は何だか微笑ましく思ってしまった。
「で・・なんて??」
もう電話の向こうで身を乗り出している姿が目に浮かぶ。
「ウン。 なんかね。 真緒さんのことになると高宮さんが何でも黙ってる・・って。」
「は・・」
その言葉に高宮は固まった。
「小さなことでも黙ってるって。 それを不自然に思っちゃったんじゃないかしら。」
萌香は落ち着いた声で言った。
「そ・・それは、」
「あなたが大変な時に自分が側にいられなかったことが一番悔しいみたいなんやけど。 そんな時にやっぱり真緒さんがあなたの部屋に来て介抱していったことが・・うーん・・やっぱりどーしていいかわかんないみたい。」
「別に・・ほんと、何もなかったし・・」
「自分が許せない気持ちとあなたの気持ちがわからないことでもう頭の中がパニックみたいよ、」
帰り際
かなり混乱していたのはそのためだったようだ。
高宮はようやく夏希の行動を理解した。
「本当に。 真緒さんとは何もないし、おれも何も特別に思ってないから、」
高宮の言葉に萌香は
「本当に?」
と念押しした。
少しドキンとした。
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