第22話 女心(4)

「実はね。 あたしもその話訊いた時に不自然かなあって。」


萌香は高宮を責めるのではなく優しくそう言った。


高宮は


大きなため息をついた。



「彼女と・・おれはちょっと似てるかなあって思ってしまって。」


「え?」


「育ってきた環境とか。 悩んでいることとか。」


高宮の本音に萌香は少し驚いた。


「彼女も偉大な父親や大女優だった母親、デキのいい兄貴、天才の兄貴に囲まれて自分を探すのに精一杯の人生だったんだなァって。 結婚して離婚して。 いまだに迷っている彼女を見ていると。 なんだか切ないというか。 おれも・・そうだったし。」


萌香は高宮の家族のことを思い出す。


「それで。 婿を取ったおれの妹のこととか。 いろいろ思い出しちゃって。  おれの勝手で妹の人生は変わっちゃったんじゃないか、とか今でも思ってるから。 妹もおれのことをこんな迷った気持ちで見ていたのかなあとか。 彼女が離婚した理由とかもいちいちすっごく気持ちがわかってしまって。 彼女が自立したい気持ちを汲んでやりたいな、とか。」


「・・それだけなの?」


萌香の追及に


「それだけですよ、」


それは本当の気持ちだった。


「加瀬さんはまだまだ素直に相手に好きだって気持ちをぶつけることができないというか。 高宮さんとおつきあいをしていても・・友達と同じような感覚でいたりとか。 そんな自分にジレンマを感じてると思うの。 そんなことも言葉に表せないくらい本当に幼くて。 でも。 あなたを想う気持ちは真剣だから。 だからあんなに泣いたりして。」



夏希のことは


萌香に言われるまでもなく


わかっているつもりだ。


いまだ


大人になりきれない彼女のこと


静かに待っていたいと思っている。


「でも、高宮さんはあたしなんかがこんなこと言わなくても。 加瀬さんのことは誰よりもわかってる。 だって、あたしのところにすぐ来ることもお見通しだったし、」


萌香はクスっと笑った。


「まだまだ・・わかんないこと多いなァ・・」


高宮も苦笑いをした。





とりあえず


夏希が落ち着きを取り戻すのを待とうと思い、その晩はそっとしておいた。


翌日、回復した高宮は出社した。


「大丈夫か? なんだかウチに呼んだせいでこんなことになってしまって、」


北都に心配されてしまった。


「いえ。 ほんっとなんか体の免疫力が落ちてたみたいで。 情けないです。 ご迷惑をおかけしました、」


と頭を下げた。



「あ、高宮さん。 どう?」


真緒もやって来た。


「ほんと、いろいろありがとう。 なんとか普通のメシ、食えるようになったし。」


「そっかあ・・もう当分カキはやめておいたほうがいいね、」


真緒は笑った。




そして、すぐに事業部に行った。


夏希がひとりぼーっと書類を書いていた。



「おはよ。」


と声をかけると、ビクっとして顔を上げた。


「・・あ、」


気まずくて顔を赤らめた。


「ちょっと。 いい?」


と呼び出した。



誰もいない資料室に夏希を連れて行き、




「あのね。 ほんと何も心配とかすることないから。」


高宮は優しくそう言った。


「え、」


「あと。 電話が繋がらなかったことも。 おれは何とも思ってないし。」


「隆ちゃん、」


「夏希が携帯を忘れていったり、電池切れしてることなんかいつものことで。 たまたま間が悪いことになっちゃっただけだと思うから。 んで。 他の女性を部屋に上げたことは・・軽率な行動だったと思う。 本当にごめん、」


と頭を下げた。


夏希は慌てて


「そんなの! いちばんいけないのはあたしなのに!」


と頭を下げる彼の腕を取った。


高宮はふっと笑って


「夏希はすぐ・・自分に責任感じちゃうから。 夏希は悪くないだろ、」


と言った。


「でも!」


「他に。 何か思うことがあったら言って。 ほんっと言わないで気持ちをしまっちゃうのが一番いけないから、」


と言われたが。


「何かって・・」


やっぱりうまく言えない。


「確かに。 真緒さんは社長の娘で。 今は仕事もつきっきりで教えてるし。 ちょっと特別な存在なのかもしれない。 彼女、ほんといろいろ紆余曲折な気持ちで生きてきて。 おれと一緒でさ。 親の威光とか優秀な兄弟を見てきて・・自分見失ってるし。 おれもそうだったし。 気持ちすんごいわかるから。 それでちょっとシンパシイ感じちゃったりもあるけど。」


夏希はしばらく黙ったあと


「し・・しんぱしいって・・なに?」


普通に質問してきた。


高宮は思わずぷっと吹き出した。


「だっ・・だから! 難しい言葉とか! わかんないから!」


恥ずかしくて夏希は慌てて言った。


「ごめん、ごめん。 シンパシイってのは・・うーん。 気持ちがわかるっていうのかな。 共感するっていうか。 そんな意味。」



こういう


素直なトコが


かわいいんだよな。



『え、コロンビアってコーヒーとかの? え? 南米?』



コロンビア大学を知らなかったあの『衝撃』の発言を思い出してしまった。



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