第20話 女心(2)

「夏希!」


高宮は夏希の前に回りこんで両肩を掴んだ。



なんか・・


なんか


うまく口にできない・・。


なんなの?


この気持ち。


あたしはどーして泣いてるんだろう。




夏希は彼の真剣な目を見ながら自分に問いた。



真緒さんを部屋にあげたこととか


もう


そんなんじゃなくて。


「わ・・わかんないよ。」


夏希はようやくそれだけ口にできた。


「え?」


「自分がなんで泣いているのかも。 何に怒ってるのかも・・。」


「はあ?」


その言葉も理解できなかった。


「も・・ほんっと! 頭悪いから! 言葉・・わかんなくって!」


夏希はまた大粒の涙をこぼした。




もう


高宮も彼女に何を言っていいのか


さっぱりわからなくなってしまった。


夏希は耐え切れずに、スッと彼の手を振り払って出て行ってしまった。




は・・


なんだ・・?


この感じは


かつてない


高宮も呆然と立ち尽くしてしまった。


するとリビングからあんこがちょこちょことやって来て、ドアにすがりつくように前足をてけてけとこすりつけた。



「あんこ・・」



ひょいっと抱き上げた。


しかし、彼女は落ち着きなく足をバタバタさせた。



夏希を探してる。



まだ飼いはじめてほんの少しなのに。


彼女のことを信頼してんだなァ。



そう思ったら不憫になってぎゅっと抱きしめた。



「ごめんなァ・・」


おれまで


泣けてくる


まるで


女房に逃げられた亭主みたいに。




そして


ハッとしてあんこを抱きながら携帯を手にした。




「は? 高宮さん? もう具合はいいんですか?」



「・・身体のほうはどうでもいいんだけど! たぶん・・これから栗栖さんのところに夏希が行きますから!とりあえず話だけきいてやってください!」


高宮は慌てて萌香に電話をした。


「加瀬さんが? え? どういうこと?」


「おそらく彼女から全ての説明があるでしょうから! ほんっとお願いします!」


「ど、どういうこと?」


「話を聞いて・・んで・・おれに教えてください。」


「高宮さん、」



その時、本当にインターホンが鳴った。


「は・・??」


萌香はもう頭が混乱してしまった。




「あ・・プリンあるの。 コンビニのだけど。 食べない?」


「・・・・・」


「せ、清四郎さんのだけど。 ほんっとあの人甘いもの好きで。 でも、3個もあるから。 1個くらい・・」


「・・・・」


夏希がやってきてから萌香が一人でしゃべっていた。



なんか


いつもと様子が違う


高宮さんとケンカしたんやろか。


・・にしても。


ほんまにいつもと違うし



彼女の顔色を伺ってしまった。

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