第19話 女心(1)

「・・でも、別に。 ほんとそれだけだから。」


高宮は静かに夏希に言った。



それだけだからって。



ちょっと


いいわけっぽいけど。



夏希は別に心配するようなことではないことはわかったが落ち込んでしまった。


「あとね。 あんこを買うときに。 彼女の知り合いにペットショップ紹介してもらって。 少し安くしてもらったり、いろいろ世話してくれたり。」



その話に


夏希はゆっくりと顔を上げた。






「だけど。 別に高宮はその辺でナンパしてきたおねえちゃん連れ込んだわけちゃうやん。 具合悪かったんやろ? 部屋に上げるくらいしゃあないやん、」


志藤は一人奮闘した。


「そうだけど。 今回のことは加瀬が携帯を自分で忘れていったり、自分のミスもあったから余計複雑なんちゃうの? それが許せないような、自分の責任のような。」


南はため息をついた。


「めんどくさ~~。 ええやん、別に。 どーせ高宮はなんでだかわからへけど加瀬ひとすじやん。 ほんまえらいなあって思うで。」


志藤はグラスの焼酎をぐっと飲んだ。


そして


「おれやったら・・加瀬みたいな女とはゼッタイにつきあわない。」


と、言って笑った。


「それちょっと言いすぎでしょう・・」


玉田は夏希に同情した。


「だって。 ぜんぜん恋愛なれしてへんし。 いちいちこんなんで悩まれたりしたら、ウザいし。 結局さあ・・経験が乏しいからどないしてええのかわからへんのやろな。 誰だっていろいろ恋を経験して、次の時にはその失敗を踏まえたりして成長していくもんやん。 加瀬は・・まだまだ男を愛することも、男に愛されることにも慣れてへん、」


志藤はまた笑ってそう言った。


「でも、ほんまに高宮は偉いと思うよ。 加瀬がどんなにとんちんかんでも話を真剣に聞くし、ほんまにうれしそうに。 犬だってさあ、加瀬が欲しいなってちょこっと言っただけみたいなんやけど買ってやっちゃうし。」


南は言った。


「でも。 犬を共有するって意味深ですよね、」


玉田はつくづく言った。



「はあ?」


斯波がそれに対して疑問を発すると、


「だって、二人でかわいがったりして、子供みたいなもんでしょ? 万が一お互いの気持ちが離れそうになっても、犬がいたら別の情で踏みとどまれるかなって。」


玉田は笑った。


「タマちゃん、深いね~。 確かに。 高宮のことやから計算して買ったんかもしれへんな~~。」


南は玉田の背中を叩いた。


「計算?」


斯波は怪訝な顔をした。


「もう鈍いねえ。 そうやって命を共有することによってさあ・・また一歩、加瀬の気持ちが高宮と一緒にいたいって方向に近づくやんかあ。 あのコ、ほんま単純やし。」


南は笑い飛ばした。


「いいのかよ。 そんな計算!」


斯波が少しムキになって怒ると、


「ほらほら、お父さんは落ち着いて。」


南にからかわれて、ムッとした。





夏希は高宮のことを見つめながら、まばたきもしないうちに涙がポロポロとこぼれた。


「な、夏希??」


高宮は焦った。


彼女は固まったまま、涙だけがどんどんと溢れて止まらない。


「え! なに? 誤解した!? だから、ほんっとそんなんじゃなくてさ!」


慌てて彼女のほうに回りこんで肩に手を置いた。


「おい~~。 なんとか言ってくれよ~~。 ほんっとになんでもないし!」


高宮が何を言っても、彼女はひとことも発しなかった。



こんなこと


初めてだった。


思ったことを言わなくてもいいことまで口に出してしまう夏希が


ひとことも発さないで、ただ泣くばかりで。


彼女の気持ちが


全く読めなかった。




どのくらいの時間が経ったか


夏希はヨロっと立ち上がり、


「・・帰る、」


と子供のように言い出した。


「はあ?」


「・・・・・」


幽霊のようにスーッと玄関に行こうとした。




「夏希!」


高宮は慌てて追いかける。


「ほんっとに、ゴメン! 他の女の子を部屋に上げるだなんて。 やっぱ無神経だったってゆーか!」


彼女の腕を取った。


ううん


そうじゃない・・


夏希の心の中でもうひとりの自分が言う。

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