第17話 疑惑(2)

「あれっ、加瀬? もー、あんた何やってたの・・」


南が午後から出社してきてそう言った。


「あ、すんません・・」


ものすごいどんよりとした空気が充満していた。


「高宮、だいじょぶなの? ちゃんと寝てたんかな?」



その言葉で


あの部屋に来たのが南ではないことが


なんとなくわかってしまった。



夏希はもう


落ち込むどころの騒ぎではなかった。



う・・・



夏希は会社であることを忘れたかのように


いきなり泣き出してしまった。



「か、加瀬???」


南は慌てた。


「ど、どうしたの?」


しゃがんで彼女の背中に手を置いて顔色を伺った。


「も~~~、ほんっとあたし・・」


夏希はつっぷしてわんわんと泣き出してしまった。


「なんだよ、おい、」


斯波はその事態に慌ててやってきた。


「わ、わかんない。 いきなり泣いちゃって・・」


「なんとかしろよ・・」


「なんとかしろって、」


二人はオロオロするばかりだった。





「は? 女??」


南は夏希を落ち着かせようと、誰もいなかった休憩室に彼女を連れていった。



「な、なんか・・こわくって・・訊けなかった。 あたしが・・暢気にフラフラしてる間に。」


夏希はしゃくりあげながら不安な気持ちをぶつけた。



女・・・



南は昨日のいきさつを考えて



「あ~・・」


真緒ではないかと思い、それを言おうと思ったが



いや。


これをここで口にしてもいいものか。


そんなもん


高宮が普通に言えばええことなのに。


疚しいことがなければ


真緒ちゃんに送ってきてもらったって。


でも


なんで言わないんやろ??




南は一瞬のうちにいろいろ考えてしまった。



具合が悪かったにせよ


彼女以外の女を部屋に上げるって


やっぱデリケートな問題やもんな。


高宮もそれ考えて黙ってんやろか。




「あ、あたしじゃない人に看病してもらっちゃったのかなあ、とか・・」


夏希もいろいろ考えてしまって落ち込んでいるようだった。


「まあ・・加瀬が携帯を忘れることは珍しいことちゃうし。 たまたま高宮が具合が悪くなったってだけで。 運が悪かったんやん。 高宮、怒ってへんかったやろ?」


南は優しくそう言った。



「お、怒ってないけど! もー、あたし・・ほんっと隆ちゃんのためになんもしてないし。 こーゆーときに連絡取れないとか彼女として失格って思うし。」


その女のことも気になるが、自分を責める夏希に


「だから。 高宮がな、怒ってへんかったら・・そんなに自分を責めることないって。」


「携帯・・忘れたにしろ。 昨日一日・・友達んトコ行って、あんこの話に夢中になって。 隆ちゃんのこと一回も思い出さなかった。 それが、すんごい・・悪かったなって。 てゆーか、そんな自分がすんごいやだって・・」


夏希はまたつっぷして泣き始めてしまった。


南はどう慰めていいものかわからなくなり、ただただ夏希の頭を撫でてやっていた。




高宮は少し気分が良くなってきたので、リビングにやってきてゲージの中でしっぽを振ってぴょんぴょん飛び回るあんこをひょいっと抱き上げた。


「ハラ減ったか~?」


とテーブルの上に彼女を乗っけて、犬用のミルクを器に満たしてそれを差し出した。


あんこは嬉しそうにちいさなちいさなしっぽを振って美味しそうに飲み始めた。


ほんっと


かわいいなァ・・。


見ていると笑顔になってしまう。



夏希が夢中になるのも


わかるかな。



そんなことを思っていたころ。


「あ、高宮?」


南から電話があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る